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 サイカはまるで野生の動物が威嚇するように唸っているが、うつむき加減の顔は、髪で隠れて確認できない。


 数秒経ち、シンエイは至って冷静に迷っていた。エイキを見殺しにするか、助けるか。脳裏には一年と少し前の映像が、目の前の映像と重なっていた。第四世代を一人で半数も始末してしまった時のサイカの状態が、今の状態と一緒なのだ。


 その時は、第四世代を見捨ててやっとサイカを止めたが、シンエイは両腕を潰され、左足は切断され、更には腹部を抉られ内蔵が飛び出した。


 そして一つ懸念がある。エイキの実力の底が知れない。昨夜のちょっとした悶着は、シンエイ達の実力を探る為の一芝居だろう。あの場では、誰も本気ではなかった。


 サイカに至っては、わざと上に飛び、シンエイが止めに入りやすいように誘導していた。しまいにエイキは反撃せずに終わらせた。手の内を見せないようにしたのだろうか。


 シンエイは、まだ悩んでいたが、あまり悠長にしていられない。サイカの腕は、肩と肘の関節が外れ、更に押さえられていた腕の辺りで折れて骨が剥き出しになっている状態。体に腕が付いているのではなく、腕が体からぶら下がっている。


 このまま自然治癒が進行すると、めちゃくちゃに癒着して治療が難しくなる。上手く治せたとしても時間がかかりすぎる。


 シンエイは、エイキが自ら何かを仕掛けない限り、見捨てるしかこの状況の打開策が見つけられなかった。今のサイカを止めるには強力な鎮静剤か、締め上げて気を失わせるかのどちらかだが、鎮静剤は校舎の校医か数名の上官しか所持しておらず、締め上げて気絶させるには時間が掛かりすぎてリスクが高い。殺される確率は八割以上。


 エイキは極限の状態で、興奮し、額には汗が浮かび、顔はずっと奇妙に笑っているが、目は暗く何も映してはいない。反射神経はサイカよりエイキの方が上だ。力もエイキの方があるように思うが、トランス状態のサイカのフィジカルの高さは予想が付かない。


 もし動いたとして、頭を潰されるか抜け出せるかは五分五分。だが、エイキもトランス状態に近い。エイキにはそもそも、安全を確保して動くなんて計画的な行動は出来ないだろう。

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