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 先程のエイキが見せた底知れぬ殺気。本物の戦場を経験し、修羅場を何度もくぐり抜け、生き残ったものにしか、あれ程の殺気は出せないが、殺気だけではない悪意に、サイカは不愉快な気持ちを抱いていた。悪意というものを知らない為、殺意に紛れ向けられたあの不明瞭な別の感情が、理解できずに頭から離れない為、不快でしかない。


 そして、殺気に晒されたのはシンエイとサイカだけではなかった。あの時、校庭にいた全ての者が殺気に晒されていた。


 崩れ落ち座り込んだ者、腰を抜かして尻もちをついた者、過呼吸になった者、意識を失った者が極わずかに存在した。彼らは近日中に学校から去ることになるだろう。



 風呂や夕食を規定の時間内に済ませ、消灯までは各自、自由時間だが、自由時間での自主訓練は認められていない。基本的には読書、雑談、カードゲームなど、戦闘とは無関係の事が推奨されている。


 改新軍人かいしんぐんじんに限ってのことではあるが、精神的に縛り付け、暴力や不眠不休の過酷な訓練で身体を痛めつけるより、ある程度の自由と、休養を与えた方が、より強靭な軍人になると統計が取れている。こと改新軍人かいしんぐんじんの第一世代から第三世代においては、一日に二時間から三時間の睡眠で全快できる事もあり、一日の訓練時間は、十二時間もあるが、自由時間は六時間ある。


 そして、ここは軍人育成学校ではあるが、表向きは小中高一貫の、エリート軍人育成学校と言う事になっている。


 広大な敷地、充実した設備、広い寮、内部情報が決して漏洩しない徹底ぶり。だが入校には厳しい面接と学力、体力試験を突破しなければならないらしいが、秘密に包まれた学校の噂が噂を呼び、毎年受験希望の問い合わせが膨大に軍に寄せられるが、軍は一貫して、そんな学校は存在しないと一蹴する。


 なぜそんな噂が立ったのかは不明だ。そもそもこの学校には受験など存在すらしないのだから。


 正式名称は、特殊軍人育成選抜学校。通称は九坂学校くさかがっこうである。山の深い山中にある、広大な敷地は、様々な場面を想定した特殊な訓練の為、充実した設備も特殊な訓練の為であり、広い寮なのは、研究所で生まれた生徒の九割が在校しており、校舎が地下含め二十階建てなのに対して寮は六十階である。内部情報が漏れないのは、言うまでもなく、軍最先端の光学迷彩と、特殊なバリアのようなものを張り巡らせ、学校までたどり着けないようにしているのだ。


 もし内部情報が漏洩すれば、この学校は生徒諸共、消えるであろう。


 諜報科、戦闘科しかなく、第一世代から第三世代と呼ばれる子供達が五歳から十八歳まで在籍しているが、十六歳からは積極的に戦場に送られる為、常時敷地内に居るのは十五歳までである。


 第一世代、第二世代はすでに現役特S部隊か教官、軍内部に配属されているため、今寮にいるのは、教官や郡関係者、現世代の第三世代のみである。


 なお、戦闘科の生徒は諜報科の存在は認知しているが、諜報科の生徒が何人いて、どこで過ごしているのかは知らない。寮に部屋も無ければ教室もなく、敷地内で見かけることもない。入校式にすら見かけることはない。

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