第4話「暗闇の空と赤い世界」
少年と少女は、2人で先程までいた校舎を見上げる。
「緩やかな終わりは、急速な滅びへと姿を変えていく……か。」
先週、隣にいる少女が書いたノートの切れ端を見て、なんとも言えない感情が表情に浮かび上がる。
たしかに今の状況はそれだろう。
「光は失われ、空から星は消え去り、植物は枯れ果て、凍り付く………。凍りつく、という結末は真逆だけれどね。植物も……消えゆくが正しいのかしら。」
「……そうだな。」
目の前でごうごうと、最早全てを焼き尽くすまで消えない炎と、それに包まれる木造の校舎を眺めながら隣りにいる少女、
校舎から上がるどす黒い煙は空を覆い、光も星も覆い隠していく。
玻璃と自分、
何が原因なのかは知る由もないし、興味も無かった。全ては手遅れなのだから。
「せめて、部室にある物を少しでも持ち運びたかったが……」
「跡形もなく灰になりたいのなら行ってきなさいな。」
「ひでー話だ。」
「嘘よ。」と返ってくるのに「知ってる。」と淡々と返す。
いつものやり取りだ。
平気でこの手のやり取りを入れてくるのは彼女の恐ろしいところでもある。
「さて、行くわよ。」
そう言って身を翻す彼女に「何処へ?」と聞く。
「聖皇よ。」
「そうか、なら此処でお別れだな。」
そう言って残ろうとするが、彼女は「何をしているの?」と言いたげに顔を顰めていた。
「……行くんじゃないのか?」
「貴方の頭は空の鍋以下なの?一緒に行くのよ。」
「……冗談も休み休み言え。あそこは男子禁制……」
「この調子で授業など出来ないでしょう?貴方にはまだ用があるのだから。それに、他の学校に行くアテでも?」
そう返され、仏頂面で「ねえよ。」とだけ返す。獅童家は貧乏極まりない家なのだし。
玻璃はそれを見て、満足そうにくすり、と笑った。
「なら、尚更私の下に来なさい。従者として。学費は出すし、文句を言う者がいるなら私と父様達で黙らせる。拒否権など無いわ。」
「なんで、そこまで……」
「先行投資。………そして、仕方ないでしょう。終わったのだもの。終わったのなら始めなければ。」
何となく、彼女の口癖を思い出して、目を閉じ苦笑する。
こうなった玻璃を止められた試しなど一度も無い。
自分の物語は、この切れ端に出てくる少年と同じなのだろう。
意図せずとも、二人は同じタイミングで口を開く。
「「始める為には終えないと。」」
二人は、黒い煙によって閉ざされた赤い世界に背を向け歩き出した。
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