冬木宗治side
第1話「冬木宗治のいい加減終わってほしい日常」
今に始まった訳じゃないけれど、とは思う。
それでもだ。
どうして俺の幼馴染はここまで謎の厄介事の種を持ってくるのだろうと思わざるを得ない。
「それで、今度は何をしたんだ明日葉。聞くだけ聞いてやるから言ってみろ。」
「あー、えっとぉ………。脚本のネタ考えるのに裏山行ってぇ……。」
「はぁ。」
まあ、別に理由としては全然有りだ。ここまでは何も無かったのだろう。
「てくてく適当に歩いてたら、目の前に尻尾がたくさん生えた狐が出てきて……」
「………ほぉ。」
駄目だ、我が幼馴染なら大体この辺りでとんちきな事を抜かしてくる。
「なんかお金くれたから部室に持ってきたら全部ピーマンにカワッタノ………。」
「…………。」
そう言いながら明日葉が目を向けた部室の机の上には山のように積まれたピーマンがある。
教えてくれ、この際流人でも圭一でも、今はいない奏でもいい。どうすればこいつはこんなとんちきイベントを拾ってこない人間になるんだ。
「無理に決まってるじゃねえか。」
「無理だね。」
「無理だろ。」
想像してみるが、全員同じ意見だった。自分でも同じ意見なので、そうだよな…と大きく溜息を吐く。
「取り敢えず……毎回思うが、お前が校長と同じ生き物なのは分かった。」
「その毎回思うけど、アレと一緒にしないでよ!?」
「失敬、いくらあのオッサンでも、こんなとんちきイベント拾ってこないから、俺の大事な明日葉の方が上だったよー。今度校長にちゃーんと謝りに行かないとー。」
「ちょっと待って!アタシあの校長以下に認定されなかった!?あと、絶対にその喋り方からして大事だとか思ってないよね!?」
まるで心外だと言わんばかりに明日葉がぎゃーぎゃー喚いてるが、これは事実だから仕方ない。
「当たり前だろ。毎度しょうもない事やらかすところまでは一緒だし、毎回怒られるのも一緒だが、あのオッサンとお前の違いは、こんなとんちきイベントは持ってこない。なんだ、何でそんな正体不明のお山の主様みたいなのから騙されてそんなものもらってきた。そもそも、知らない人から物を貰っちゃいけませんなんて、幼稚園から習うレベルだろうが。」
「そんな昔のこと忘れました!!」
「…………俺から言えることは、一つだけだ。」
怒りを引っ込めて、俺は笑顔でニッコリと一言。
「全部食え。調理くらいはしてやるから。」
「ピーマンは好きになっちゃいけないんだよ!!」
その言葉を聞いて、俺は遂にキレた。
なんだ、好きになってはいけないって。それは単にお前が食いたくないだけだろう。
「お前がしょうもない理由でお狐様からそんな畏れ多い物を勝手に貰ってきたんだろうが!!それが嫌なら、金やるから今すぐ商店街行って油揚げ買ってきてお供えして感謝と謝罪の両方してこい!バカ明日葉が!!!」
1時間後、無事お供えの油揚げ46枚の献上と大量のピーマンの返品、感謝と謝罪の両方をしてきて額に肉球スタンプを押してもらって帰ってきた明日葉を、今度はたまたま持ち合わせが無く、仕方ないと渡した5000円丸々油揚げに変換した事で更なる説教を始めるのは、また別の話である。
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