第13話 無双する


 怯える男子と一緒に校舎の裏側に行くと、彼は「ごめん」と言って逃げ出した。


 前には最低でも十五人以上の男子が仁王立ちしたり、座っている。全員教科書や杖などの武器を持っている。


 それを見てグロアは彼らが自分に何をしようとしているのか理解できた。


「何だ、早えじゃねえか。昨日でアレだから逃げ出すのかとおもったぜ」


 昨日、それを聞きマガマガと会ったとき、彼は全身がボロボロだったことを思い出した。


(彼は彼らがやったのか)


「……一つ質問があります」


「あ?」


「ぼくをここに案内したあの人にも、何か同じ事をしたんですか」


「あ? あの人?」


 聞かれるのが予想外だったのか、視線を上にあげた。


「さっき僕を連れて来た彼のことだ」


 少しグロアの声は荒くなる。


「彼は怖がっていたぞ」


「は? あ、あ〜あいつねはいはい、うん、脅した脅した。ナイフチラつかせたり、これでお前やお前の大切なものをやつざきにするぞぬて沼田勝馬脅したした」


「何もおもわなかったのか?」


「は? 何が? あいつの根性を叩き直す傘の技だったんだよ。ろくに戦えなくて使いものにならないから矯正してやっているんならな」


 ふと、その男子な顔が、なぜか父親に見えてきた。そこで憎しみの感情が、グロアから一気に溢れ出た。


「あんた、クズだな」


 プツン。なにかが切れる音がした。


「友だち見捨てるクソヤロウに言われたかねんだよ!! 石ころよ!! こいつに向かって飛び散れ!!」


 その男が命令すると、周りにある石が一斉にグロアに向かって飛んだいく。


(…………え???)


 少なくともグロアはこの時、腰が抜けるほど驚いた。

 

(どういうつもりだ彼らは)


 高笑いする男の後ろや隣で、長々と詠唱を男たちは唱え始めている。


 この時にはもうグロアは、石ころを全て躱していた。ふと後ろを見ると全ての石ころが壁に激突していた。


 それを見て石ころを浮かせた男が舌打ちと共に怒鳴り始めた。


「っ〜しにのってんじゃねえぞクソが!! てめえらも全員やれ!! ぶっ殺せ!!」


 その男子の言葉と共に一斉にみな先ほどと同じように命令系の呪文を唱え始めた。


 大量のビームがグロアに向かっていく。

 グロアは直撃するまで、呆然としていた。


 波動と電気女と共に煙が辺りを包み込む。


「せ、セキヅイ大丈夫なのかよ。ただでさえ学校とかで無闇に攻撃魔法唱えちゃいけないのに、それを当てるなんて……下手すりゃ俺たち終わったんじゃねえか?」


「大丈夫だよビビんな。それに攻撃系の魔法を使ったのはあいつだって同じだ。ウォータ・クリーン。あれも中級の攻撃魔法だろ? それを何の気無しに使ったんだ。あいつもダメだろ」


「けどヨォ、これはやりすぎだったんじゃ」


 突然セキヅイは仲間の頭をガッと掴んだ。


「何言ってんだ!! あいつは仲間を、友だちを見捨てて逃げたんだぞ!? そんな奴は男としていや、人間としてダメだよなぁ。いいか? 男で友だち見捨てるようなクズには何をやっても許されるんだ。分かるだろ?」


 仲間たちはコクコク素早く頷いた。

 それを見てセキヅイはかすかに笑う。


「そうだ、俺たちは正しいことをしている。友だちのために、仲間のために戦っている。裏切り者だろうと敵だろうと友だちや仲間は何よりも大切だ。どの媒体でも、大人も、教科書や道徳の残業とかでも言っている。だから仲間のために戦っている俺たちは間違っているはずがない!! 正しいんだ!!」


「そう言うことですか」


 その場にいる全員、ギョッとした。

 グロアがさも平然、無傷でいるような平坦な声を煙の中から出している。自分たちの攻撃を受けたはずなのにこの余裕、ありえないと思っていた。


「たしかに、仲間を裏切る奴はクズとされて突然かもしれません。自分たちよりどんなに強い相手でも、負けると分かっていても、戦ったら死ぬと分かっていても、仲間のためなら命を懸けることは美徳とされます。ですが、その場面で逃げ出した者は何されても良い、その言葉には私は賛同できません」


 あり得ない、無事なはずがない、などともうグロアの声は彼らには聞こえていなかった。


「仲間に逃げることを禁止し、強制するならそれは仲間や友だちの関係ではありません。雇用主とその下にいる人材、その関係としか思えません」


 やがて煙が晴れると、そこには無傷のグロアがいた。


「弱さを赦し、涙を乾かす。それが僕がなりたい勇気ある仲間です」


 グロアの姿は、自分たちが昨日まで知っているマガマガの姿ではなかった。自分たちの目の前にいるのは、百戦錬磨の歴戦の戦士が君臨しているようにしか見えなかった。


 しかし、つい昨日まで馬鹿にしていじめていた奴が急にこんなに変化して認められるかというと、認められるわけがない。


 奇声があたり一面に響く。


 セキヅイが拒絶の喚起をすると仲間たちが再び詠唱を始めたが、次はグロアも手を出した。


「ロック・バレッツ」


 グロアが唱えると、先ほどまで、セキヅイの魔法により浮かび上がりそうになっていた石ころがすべてセキヅイに向かい弾丸のように飛んでいく。


 そしてそのままセキヅイの身体に突き刺さっていく。


 ごぷっ、


 セキヅイは吐きそうな声を出し、その場にうずくまる。


(やり過ぎてしまった)


 グロアは後悔したが、セキヅイはまだ闘志が消えていなかった。息を絶え絶え吐きながら立ち上がる。


「この、裏切りもんの癖に一丁前にカッコつけやがって……仲間売った裏切りモンは仲間に嬲り殺しにされるべきだろうが!!」


 どこに持っていたのか、セキヅイは腰から小刀を取り出し、グロアに襲いかかる。


 グロアはその攻撃を近くに落ちている石ころを掴みセキヅイの小刀を抑えた。


「なんなんだ……なんなんだお前は!!」


 焦ったのかセキヅイはめちゃくちゃに小刀を振り、一心不乱に斬り殺そうとする。しかし、グロアにらは全く当たらない。


 紙一重で避けているのだ。そうすることにより相手の遠近感を混乱させる戦い方である。


 だんだん疲れたのか、セキヅイは刀を振れなくなくなってしまった。



「くそ・クソ……!! 裏切りもんのくせに……裏切り……グハッ!! ハッ!!」


「そんなに裏切りが許せないんですか?」


「あたりまえだ!! なんでも物語っていうのは裏切ら無い精神が大事だ、それ以外は全てモブ!!」


「本当ですか? 本当は体良く暴力を振るう理由を探していただけなんじゃないですか?」


 その瞬間、セキヅイの腕がピタッと停止。


「……違う」


 セキヅイの目が異様に血走っていることにグロアは気づき、彼が正気でなくなりつつあることを察した。


「違う、違う違うちがうチガウ!!」  


 大きくセキヅイは跳び上がり、殴りかかった。グロアは裏拳でカウンター。


 グシャア


(いてえ!!)


 セキヅイは顔面に鈍い痛みが走る。


(ふざける……な……なんでこんな……みそっかすに……いい子ちゃんの……みそっ……かすなんか、に)


 セキヅイの視界がどんどん暗くなり、やがて意識を失った。


「えっと、保健室に運んだ方が良いのかな」


 グロアはどうすれば良いか考えていたが、その時間を与えてはくれなかった。


「何をしているお前たち!!」


 タイミング悪く教師たちがこの場所に来始めた。


 グロアは先刻、セキヅイのお友だちの言葉を思い出した。


『ただでさえ学校とかで無闇に攻撃魔法唱えちゃいけないのに』


 そう、学校で攻撃魔法を使ってしまった。

 生活指導されることは確かであった。


 普通の生徒なら、セキヅイのお友だちと同じように逃げようとするが、グロアはその場から動かなかった。


 その後、生活指導として職員室で、懇々と説教されたのは言うまでもなかった。

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