第12話 学校へ行こう scrap
制服に着替えると、少しだけ身体がキツい。これは筋肉の違いであるが、服の上からなら分からない程度である。
「確かブレザーを着て、こうかな」
鏡に映った制服姿の自分を見ると、どこかずんぐりむっくりに見えるから、恥ずかしくなる。
「なんか、絶対制服が似合わないとか言われたことあるだろうなぁ」
中学から制服を着ることが無い特殊ない学校に通っていたから、グロアは制服が本当に着づらいし、違和感を抱きまくりであった。
「ま、いっか」
そう結論づけて、グロアはバッグを持ち家から出て行った。玄関を出る際は、あえて挨拶はしなかった。
マガマガはしない奴だと推測したのも理由だが、あの母親に話しかけるのが怖かったからだ。
学校がどこかは調べて分かったし、通学路の道もなんとなく分かっている。なので学校に行くのは簡単だと思っていた。だがグロアが考えたよりも学校に行く難易度は高かった。
ふふふ……クスクス……
(なんだろうかな感覚……笑われている?)
グロアも容姿が悪いし、それを自覚している。だからすれ違う人、特に同じ制服着ている生徒が笑っていると、自分が笑われている気分になってしまう。
特に女子の笑い声が聞こえるとそう思ってしまう。時々キャハハと笑うその声が自分への嘲笑に聞こえてしまうのだ。
近くで笑われても、少し遠くで笑われても何故か、その声はすぐそばでしていると勘違いしてしまう。
もちろんそれは全て勘違いであり、グロアの錯覚だ。しかし、その錯覚をしてしまう自分に対して自己嫌悪してしまう。
こういうことに対し、決して他人のせいにしないのがグロアの美点であるが、欠点でもある。そのことに本人は気づいていない。
ッチ
それは耳元でした音だ。突然鳴ったのでびっくりして肩を震わせた。
ッブハ!!
男子生徒の嘲笑が耳朶を打つ。見ると何人かの男子生徒が、こちらを見て盗み笑いしたり、お友達に耳打ちして、再びこちらを見て吹き出し笑いをする。
この嫌らしくて悪意がある笑いは、間違いなくグロアに向けているものであり、本人も気づいた。
何か背中についているのかと、グロアは身体をペタペタと触り確かめると、それを見て彼らは大爆笑。
何がおかしいのか分からない。だからグロアは彼らに近づくために早歩きをした。
一瞬、彼らのうちの何人かは、怯えた表情をしたが、残りは平然としている。
「あの……僕の」
「え??? なに!?」
一人が態とらしく大声を上がる。循環、前院プププと口を覆い笑い始めた。
「えっと、ぼくの」
「え!? なに!? 全然聞こえないんですが!!」
ギョロリと大きく開けて、上から舐めるように見るそいつは、間違いなくグロアに悪意を持っている.もちろん周りもギャハギャハと笑っている。
簡単な片手間だった。そらほされはそれに酒に強かった。
「あの、ぼくなにかやってしまいましたか?」
その瞬間そいつらの顔から笑顔が消えた。
みるみるうちに顔が引き攣り始める。
「おまえなめてんのか? あんなことしておいて」
「え? あっ」
そこで気付いた。これはグロアではなく、マガマガのことであると。だからグロアは何も知らない。
「浩三さんを見捨てた頃からおめえはさいてい人間なんだよ!!」
「ごめん!!」
その途端、急にグロアは頭を下げて謝った。
「本当にごめん。僕は最低なことをした」
グロアはとりあえず頭を下げる他なかった。それに今さっきチラッと裏切りという言葉が出て来たからマガマガが裏切ったのだと分かった。
あまりにも予想外の行動であったので、グロアを責めている奴ら全員固まってしまった。
頭を下げている男子とそれを見ている複数の男子。只事では無いことは分かる。
少しやめておこうと、何人かは思ったが血の気が熱い人物もいた。
「なにつまんねえ反応してんだてめえ!!」
言うが否や、その男子は振りかぶって思いっきり渾身のパンチを繰り出した。
パシッ
しかし、それはキャッチボールをするかのように簡単にとられてしまった。
そう、全く顔を上げずにいるグロアに。
これには他の男子もびっくりした。まさかグロアが拳を受け止めるとは誰も思っていなかった。
「もうわけありません。この度は本当にご迷惑をおかけしてしまいましたみなさんに、謝罪の言葉を」
グロアの目が睨んでいるように見えたのはこいつらの錯覚か、それとも本当に睨んでいたのかは不明である。
「もういい、行くぞ」
男子生徒の一人がそう言い離れていくと、金魚のフンのように他の男子もそれについて行った。
グロアは何が何だか分からなかった。
しかし、あの男子生徒のお陰で嘲笑を気にすることがどこかバカバカしくなり、その後は気にせず登校した。
マガマガに教えられた通りA組に入り、真ん中の1番後ろの席に座ろうとした。
しかし、その机は土や泥がついていて汚くなっていた。それを見て先程の男子たちがニヤニヤしている。
当の本人はというと。
(あれ、困ったな。少し机が汚れている。う〜ん、まあ大丈夫だよね、使っても)
「ウォータ・クリーン」
いきなりグロアは魔法を使った。
この魔法は水の魔法で汚れを落とす効果がある。そしてグロアほどの使い手になると、汚れを溜めた水を弾力性と富ませて跳ねさせることができる。
だから汚れを落とすと、窓の外に行き、誰もいない空いている足の地面に水を解放した。
ふう、一息つき振り返った時に気づいた。
クラスメイトたちがギョッとしているのを。しまったとグロアは思った。学校だからと言って魔法を使うのは制限がついているのかと。
しかしそれは全く違った。
グロアが何気なくした魔法とその活用方法。これは、最低でもこの学校の生徒が全員できない芸当であった。
ウォータ・クリーンという魔法も、その魔法に弾力性を富ませるのも、それを操作するのも、どれも難易度が高い街頭である。
それをグロアは難なくやってのけたのだ。
これは誰もが驚いて当たり前であった。
肝心の本人は凄さが分かっていないが。
その後も、グロアは様々ないじめの場面に遭遇するが、何の気無しに解決していった。
死んだ蛙が詰め込まれていれば、なんと蛙を生き返らせたりするし、椅子の上にニードルが敷かれていれば、座る前にそのニードルを操作して元の場所に返した。運動でもわざとボールを当てて怪我をさせようとしても、その球を難なくグロアはキャッチした。
それを見て、だんだん周りの目が変わっていく。
ねえ、あいつ意外とすごいの?
なんて声も女子から聞こえてきた。
これを聞いていよいよ面白く無いのは、グロアをいじめる男子生徒たちであった。
放課後のことだ。
今日は意外と何もなかったことに安心して、帰ろうとしていた。しかし
「あの……」
弱々しい声がしたので振り向くと、そこには気が弱そうに両手を合わせてガタガタふるえている小柄な男子がいた。
何やら怖がっている態度をしているから、これは自分に話しかける恐怖だとグロアは勘違いした。
「ど、どうしたんですか? 何か大切な用事でも」
できる限り、グロアは自分は敵じゃない、ということを伝えたつもりであったが、その男子はますます震え上がる。
「え、えーと、その、あの、えと、えと……」
その子がら手をモジモジさせて黙り始めた時、グロアは気づいた。彼は自分に怯えているのではない。誰かに何かを脅されている。
しかもそれの解放条件が自分であることに。
「分かった」
「え!?」
異様にビクビクしているその態度は、常日頃、父親に厳しい態度をされて怯える自分に似ていた。
そのせいか、少しだけ腹が立った。
なぜ自分と同じ態度をするこの男子に腹が立ちそうになったのか。その理由は恐らく、父が自分に対して苛立つ気持ちと同じだとグロアは思った。
(そうか、父はこういう気分だったんだな。何もしていない、何もする気が無いのに、こうも怯えられると、自分が何かしたみたいで嫌な気分になるよね)
だからなのか、逆にグロアはニッの歯を見せて微笑んで言った。
「大丈夫だ、案内してくれ。君を脅している奴らに」
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