第10話 いじめられっ子の家庭



「ここ……か」


 グロアはマガマガが住んでいた家に着いた。マガマガの家は二階建てで、上の一室が全てマガマガの部屋であった。


「はは……ドラマのセットだけだとおもってたけど……あるんだね」


 グロアは今まで、桁違いに大きな屋敷に住んでいた。だからこの一軒家が小さく見えてしまうのも無理はなかった。


 グロアの屋敷と比べることが間違っているかもしれないが、所々サビついているようにグロアには見えた。


(色々と……苦労しているんだな)


 グロアがそんなことを思っていると、玄関のドアがガチャリと開いた。


「あ……」


 そこから母親が顔を覗かせたが、グロアは誰なのか見当つかなかった。というよりここでの問題点は、グロアが母親だと思わなかったことだ。


 自分の父親も大概怖い顔をするが、それでも期待、そして厳しさが顔に滲み出ていた。

 この女は厳しいの度合いを越している。


 期待もなければ愛情もない。


 あるのは侮蔑、嫌悪、お願いだから面倒ごとを起こすな、という意思であった。


(もしかして、ここは彼の住所ではなかったのか?)

 

 そんなことを思い、両手を合わせてお辞儀をした。


「失礼しました!」


 さっさと立ち去ろうとした時だ。


「は??」


 大口を開けて、思い切り小バカにするような顔をした。胸に不快感を抱いたからさっさと立ち去ろうと、足を動かすと「ちょっと!! どこ行くの!?」と母親は止めた。


 え? と思い振り向くと、母親は大振りで大袈裟に手招きをしていた。


 周りを見ても自分しかいない。ということはやはり自分を手招きしているのか。


「何ふざけてんの!! さっさと来なさい!!」


 母親は怒鳴り始めた。仕方なくグロアは家の中に入って扉を閉めた。


「さっき、先生から連絡あったんだけど」


「連絡?」


「あんた掃除中どこかに行ったんだって?」


 それにグロアは心当たり無かった。

 当たり前だ。これはマガマガがしていた行動なのだから。


「何で何も言わないのよ!!」


 突発的に母親は怒号をならす。マガマガの母親は、いきなり感情を爆発させる特徴があることが分かった。自分の周りにはいなかった人物なのでグロアは異様に見えた。


 母親は手が腫れているにも関わらず、その手を壁に何回も打ち付ける。腹がどんどんひどくなり血が少し流れてきた。


「あ、あのおかあさ……母さんやめて」


 いつもの癖で自分の親を様付けで読んでしまうところであったが、マガマガがそんな呼び方しているわけないと思い、母さんと呼んだ。すると母親はピタッと腕を止めた。


「あんた、今日に限ってやけに丁寧ね。いつもババアって、言うのに」


(マガマガさんそんな口調なの!?)


 自分の親をジジイやババア呼ばわりするなんて、グロアにとって信じられなかったから出来ることは、苦笑いしかなかった。


「何笑ってんのあんた」


 母親は自分の息子に異物でもみるかのような目を向ける。ここで罵倒することはグロアは性格的に出来なく、かと言って誤魔化し笑いだと不審に思われる。


 どんな対応をすれば良いのかわからなかった。


「ねえ、あんたどうしたの? 何か変よ?」


 訝しげに睨む目をする。グロアはどう答えれば良いか迷っているの、母親は、まさか、と声に出した。バレたかと思ったが……。


「あんた、何かやばいことでも犯したんじゃないでしようね?」


「へ?」


 全くもって予想外の答えだったからグロアはキョトンとしてしまった。しかしそれは良くなかった。


「あんた本当に何かしたの!?!?」


 その顔だけで母親は息子が何か問題を起こしたと思った。グロアが弁解するのも許さない。


「あんた何やったの!? 誰かと喧嘩して怪我させたの!? ねえ!! 答えて!!」


(……なるほど、そうか)


 グロアは認識した。これがこの母親の通常なのだと。少しでも自分が変だと思うと勝手に話を自分の中で進める。


 それは時に自分勝手であり、自分の息子の気持ちを蔑ろにするものでもあったが、流石のグロアもそれには気づかなかった。


「いや、本当に何もやってない」


「ホント? ホントなの!? あんたの本当って信用できないのよね」


 この母親に対する態度にどう返事をすれば良いのか分からず、グロアはすっかり困り果ててしまった。

 

(こんな時、彼なら、マガマガ君ならどうするのだろうか)


 マガマガの自分に対する言葉や態度、この母親の言葉などからグロアはマガマガがどのような性格をしているのか考えた。


 考えた結果……。


「嘘なわけねえだろババア」


 心苦しいが思い切り他人の母親を睨んだ。


 母親は、ひっ、と恐怖から小さく叫び身を引いた。


「わ、分かった。分かったから」


 今度は自分を疑う言葉をかけなかった。


(やはりか、彼は母親にこんな態度をとっていたのか)


 母親の目は怯えていただが、どこか安心を抱いている顔であった。これは息子がいつもと同じであり、変なことをした訳じゃないと安堵した顔であった。


 グロアはそのまま何も言わずに、足をキビキビと動かし、階段を駆け上がった。


(だけど、親と子っていうのは繋がりが強いから、自分の息子か他人かなんてすぐわかるものだとおもっていたが、案外そうでもないのかもしれない)


 自分の機嫌悪そうな態度に安心していた母親を見てそう思った。




 部屋に入ると、ひどい散らかりようである。何があるか全く分からない。

  

 少しグロアは躊躇った。今すぐこの部屋を掃除したくてしたくてたまらない。しかしこれがマガマガの通常ならいきなりするのは変である。しかしこの汚さはグロアの許容範囲を一線超えてた。


(だめだ掃除しよう)


 そう決めるや否やゴミ袋などは別だが、せめて整理することは出来る。だから本棚、床、ベッドを整理整頓した。


(う、このベッド、ひどい臭いだ。なんと言うか……排泄物、吐瀉物が混ざったような臭いだ)

 

 それほどの悪臭が溜まっているベッドだが彼は何とか耐えて、掃除した。その異臭に何度も何度も吐きそうになったが、なんとか耐えた。


「とりあえず……これで……なんとかなったのか」


 意識を失いつつも、目の前には先ほどとは全く違い、机の上はごちゃごちゃしていないし、本棚も前に余計な物は無くしっかり本を撮れるようになっている。ベッドは異臭は少し収まり、食べかすや髪の毛が無くなり、外見は綺麗になった。


 とりあえず疲れたから、グロアはベッドではなく、机に突っ伏した。


 ほこりを払い散々、除菌スプレーをかけたからベッドよりかはマシな臭いであった。


(マガマガ君はよくこんな環境で集中できていたな)


 そんなことを考えている内に、気づけば眠ってしまったいた。

 


 コン コンコン


「んが!?」


 大人しいドアのノック音で、グロアは目が覚めた。


(あ……僕は寝ていたのか)


 寝起きで意識を整える時間を、ノックの主は与えてくれなかった。


 トン トントン トントントントン ドン


 急激に短い間隔でノックの音が強くなった。


 何だろうと思いグロアは、返事をせずに急いで部屋の扉に駆け寄った。


 カチャリと弱々しく扉を開くと、そこにはマガマガの父親がいた。マガマガの父親はグロアを、睨むように見据えた。


「お前、その言葉遣い。今日は随分と丁寧なんだな」

 

 声を聞いただけで、マガマガの父親が怒っていることを悟った。


 

 


 

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