第9話(後半)
「同じ、顔?」
先に声を出せたのは、先程までイジメで酷い暴力を受けていたマガマガノ方であった。
それを聞き、グロアもハッとして動作を取り戻した。
「あの、大丈夫ですか? ここで誰かに襲われたんですか?」
その声を聞き再びマガマガは驚愕。
声もほぼ同じであった。最低でも初めて聞いたらどちらがどっちか分からなくなるほど同じような声であった。
「声まで同じ……」
マガマガはそう声を漏らし、そのまた黙りこくり、顔を下にし、肩をガッカリ落とした。
この状況はどう対応するのが正解なのだろう、とグロアが思った時だ。
ク……クク……ククク……。
喉を押し殺したような苦しい笑い声が聞こえた。目の前にいるからすぐに分かった。
グロアはそれを静かに聞いていた。
「クク……クハッ!! ハッ!! フフ、ハハハ!! ッハッハッハッハ!!!」
笑ったのはなんとマガマガであった。
どういう意味か分からずグロアはただ見ることしかできない。
「俺と同じ顔の奴がいやがる!! なんだこりゃ夢かなんかか!? 世界には三人似てる人がいるって聞いたことあるけど……いやヤバいだろこれ! 俺に似てるとか前世でどんな業を背負ったらそうなんだよ!!」
ギャラギャハ息を切らしながらマガマガは大声で笑う。一方でグロアは何がそんなに面白いのか、よく分からなかった。
確かに自分と同じ顔の人間なんて面白いし、可哀想だとも思える。しかしそれでなぜこんなに悲しげに笑えるのか分からなかった。
やがて、マガマガは笑い疲れたのか、ふぅ〜と大きく息をついた。
「なあ、お前もあれか? 結構学校とかで酷い仕打ち受けているのか?」
「がっこう……」
その言葉はグロアにとって、懐かしいようで遠い単語であった。
「あの……実はその……僕は学校に行ってないんです」
「……は?」
マガマガは理解できず、間が抜けた顔をして
大口を開けた。
「あ、そのすみません。僕の言えば結構教育熱心なところがあり、家庭教師を何人も雇って色々と学問を習っているのです」
それを聞いても、マガマガは言っている意味が分からず、キョトンとしていたが、やがて静かに問う。
「お前、もしかして貴族か?」
「あ、はい、そうです。貴族で」
「ギャハハハハハハハハ!!!!」
グロアが最後まで言う前に、いきなりマガマガはバカ受けし始めた。
「んだよそれ!! 貴族って!いや貴族てどんだけ前世で徳積んできたんたよ!! そんなの勝ち組決定じゃん!!」
「勝ち……ぐみ?」
聞きなれない言葉にグロアは首を傾げる。
「やっぱアレだわ!! 色んなガチャ外れてもそう両親の資金ガチャが当たれば人生何とかなるわ!! 勝ち組決定!! クハッハッハ!! そうだよな!! どんなにブサイクでも才能ありゃ良いよな!! 頭が良ければ良い所に行けるし友だちを作ってもいいきょりかんあを保つことができる!! 金持ちとか人生ガチャ最高だろ!!」
それを聞いたグロアは、恐ろしいというより、腹が立つ感情が働いていた。
「違うよ……そんなこと全然」
「でたでた強者の余裕」
「そんなに僕は強くない。ぼくよりも、すごいやつなんて、意外と近くにあるもんだ」
「そんななんちゃって不幸話とかいいよ。興味ねえよ」
いつまでも金持ちだからか、話をまともに聞いてくれないマガマガにイラっときたのか、グロアの頭のどこかから、プツン、とキレる音がした?
「僕は勝ち組じゃない!!」
その叫びはマガマガを黙らせた。
「僕には……僕にはぜんっぜん自由が無い!! 他の子どもや大人がしているみたいに、どこかに誰かと遊びに行ったり、グッズとか買ったりイベント行ったり、かーど? みたいなオモチャとかも分からない!! あにめ、とかげーむ、みたいなのは見ることしかできなくて、買うなんてとんでもない。一回執事に頼んでやったことがあるけど、面白い!! すっごい面白い!! アニメだって面白かった!! でも両親はげーむもあにめも下らないから執事の物も全て廃棄!! ほとんどが誰かが死んだり、主人公や恋人に不幸が訪れるノワールや悲劇の映画しか見れない。たまには僕だってハッピーエンドが見たいのに!! 来る日も来る日も勉強や特訓で全く自分の時間がない。それに容姿だって悪いなら君だって想像できるだろ!? 例えばこの間、許嫁だった子とあったら陰で泣かれたし、あるのとないこと色々吹き込んでいた!! その苦しみが」
「待った」
そこでマガマガは手を前に突き出し話を制止させた。我を失いすぎたと、グロアも深呼吸して自身を落ち着かせた。
「なんだ」
「今はどうして町にいるんだ?」
「それは、やっと自由な時間が取れたから久方ぶりの休みで」
「自由な時間あるじゃん」
「は? いやこれは本当に久しぶりで」
「はいはい久しぶりの休日ね。俺の知ってる奴にもいるんだそうやって自分だけが大変で人よりも苦労していて時間がないとか言う奴に限って、三時間くらい自由な時間があって電子書籍読みまくりの寝まくりなんだ。どうせお前もそうなんだよ。貴族の癖に不幸ぶるのはやめろ」
「な……僕には不満を言う権利もないのか?」
「待て待てまだ質問は終わってねえよ……許嫁って言ったよな」
「ああ、いたさ。もう縁談が断られてその子は別な人と一緒になるらしい」
駆け落ちしたなんてことは言う必要ないと判断した。
「でも家族に入れば、貴族の可愛いお嬢さんとそいとぐことが出来るんだろ?」
「まあ、そうかもしれないが」
「よし、替われ」
「……え?」
一瞬、何を言ったのかグロアは理解できなかった。途中から話をしたくなくて、あまり聞いていなかったのだ。
「お前と俺、外見が同じ、なら替われ。俺を貴族にしろ」
「そんなことできるわけ」
「市民の平穏を守るのは、上の立場にいる奴の義務じゃないのか?」
誠実な故に、グロアはその言葉にハッとしてしまった。
(誰かを、できるかぎり大勢の人を守れる人ってカッコいいと思うんだ)
それは昔、グロアが執事の村田に語っていた夢であった。
悪役の小物顔でも、歴史書や伝記に出てくるような英雄、偉人になりたかったのだ。
偶然だが、そこをマガマガにつけ込まれてしまった。
「…………分かった。僕と替わろう」
「え? マジ?」
マガマガがキョトンとするが、グロアはそれでも構わない。
「ああ、本当だ。僕と替わろう」
マガマガは心の中でガッツポーズをした。
無理もない。ずっと抜け出したかったイジメから抜け出せるのだから。それに加えて貴族になれる。
貴族になれば、美味しいメシをたらふく食い、欲しい物はなんでも手に入り、他人に偉そうな態度をとっても咎められない。これがマガマガが抱いている貴族のイメージだった。貴族というより、世間知らずのボンボンのイメージであった。
「よし!! じゃあさっさと替わろう!! 俺の学校とかは調べてくれ。あと家とかの住所は今、俺のマジホを見てくれ!!」
そう言い マガマガはさっさと自分がグロアと替わりたいのか飛び上がるように起き上がり、最新の携帯である『マジックホーン』略してマジホを取り出した。
「ああ、その前に回復するし、僕の住んでる屋敷について説明するから待っててくれ」
「ああそうだな。さっさと回復してくれ」
マガマガは、不貞不貞しく回復を催促するも、グロアは嫌な顔一つせず、回復に集中した。
「僕の住所についてなんだが、町に出ていれば自然と、僕の名前を呼んでくれる背が高めの白髪で白い髭を蓄えている高齢の男性が迎えにくる。それで車に乗れば、僕の家に自動的につく」
「なるほど分かった」
「そして、僕の家は一番礼儀とかに厳しいんだ。だから食事や、歩き方とかには注意していてくれ」
「了解」
すでにマガマガは聞くのが面倒くさくなっていた。しかし、止めるとグロアの気が変わるかもしれないのでじっと聞いていた。
そのまま十五分以上説明はかかった。
「以上でおわりです」
「分かった」
全く分かっていないのにマガマガはそう返事をした。そしてその時にはもうマガマガは全身がグロアの回復魔法で全快し、衣服も交換していた。互いの住所も。もちろん調べた。
「じゃあ、これで良いな」
「うん、そうだね。気をつけてくれ」
「ああ!!」
グロアが言葉を続けようとしたが、マガマガはいきなり走り出した。止めようと呼びかけたが、もうマガマガの耳には届かなかった。
「大丈夫かな。あんなに走る姿、父さんとかが見たらまずいんじゃ」
しかし、自分も人のことを気にしている場合ではなかった。手前のチャックを外し、バッグを開けると生徒手帳があった。
そこに学校の住所が書いてあった。
(何かとんでもないことをしてしまった気がする)
今さら、グロアは不安に思った。
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