第8話 (前編)ついに入れ替わり!! やっと物語が始まった!!
その頃、彼は再びお忍びで町にいた。
またコンビニの限定フードが目的だった。
(ふう、またお忍びで、町に行ってしまった。村田さんには本当に世話になるな)
彼はグロア・ブレイブ。ブレイブ家の長男であり、様々な学問や格闘に長けている。
しかし背丈があまり大きくないのと、顔が想像だにしないほど悪いことが欠点であった。
整形を考える者も家の中にいたが、ブレイブ家は偽ってはならないと、いう家の文言から、整形を許すことは無かった。
ありのままの自分を愛するのだと、親は言う。グロアも、それを目標にしているが、それを達成するには中々時間がかかっている。
今もあまり自分が好きではない。だからこそそれ以外のことに関してを完璧にこなそうとした。
しかし、今はなぜかスペックが高くても容姿が良くないと、付き合うことすらできない時代だ。
そんな中グロアは許嫁などと言い、初めから結婚相手が決まっていた。
なぜ過去形なのか。それは今はそういう人がいないからである。
グロアは一度、許嫁に会ったことがある。
両親の意向でそうしたのもあるが、自分自身もその子がどういう性格をしているのか確かめる必要があると思ったからそうした。
しかし、許嫁に紹介された時のことだった。目の前に気品高く少し高飛車そうだが強く、優しそうな女の子であった。
話してみてグロアは、この許嫁の子は嫌いではない女の子であった。少し自分を気持ち悪がった女の子と似た雰囲気があり、嫌いではないが好きでもない女の子てあった。
しかしそんなワガママを言える立場ではないと思い、受け入れた。
彼女の方から積極的に話しかけてきたからか、その日で年分以上、たくさん喋った気がした。
しかしそれは急に起きた。
会話の途中、いきなり彼女の両目から大粒の涙が零れてきた。
もちろん驚いたグロアは、大丈夫か尋ねた。
しかし、何も答えずにごめんなさい、と謝り部屋から出て行った。
しばらく経っても全く帰ってこないから、どこか身体に甚大な傷ができたのか心配し、廊下に出た。
探してから数分後にそれは見えた。
「お父様の嘘つき!!」
「しかたないだろ、あの方は成績が全てにおいて最高なんた。お前はそう言う人が自分にふさわしいと思ってるんだろ?」
だが女の子は思い切り頭を張った。
「確かにそうかとしれないけど、あれは限度を越してます!! とても受け入れられません!! それに……私には好きな人がいたのに……その気持ちを台無しにするなんて」
彼女には好きな人がいた。しかし、その人たちとは縁を切って俺と付き合いなさいと、事前に話し合っていたらしい。
そこで実際に会って考えるとのことでここに彼女は来たのだ。
楽しいと思っていたのは、こちらだけであった。彼女は今すぐこの部屋から抜け出して自分が結びたいと思う相手と会話したいと父親に訴えかけていた。
自分を騙して酷い、写真と全く別人で酷い、あいつが気持ち悪い、半分脂ぎった顔がきもい。あいつが私のことを会った時からすごくいやらしい目で舐めるように見てきた変態、などと散々な言い方であった。
しかしその父親も、そんなことを言うのはやめなさい、誰かに聞かれたらどうする、仕方ないそれが現実だ。
そう言って一度もグロアがそういう言動をしていたことを否定することは無かった。
やはり自分はそういうイメージなのだと、グロアは改めて自覚した。
グロアは二人の言い合いを聞いている内に、ある場面をおもいだして、小さく呟いた。
「まるで……悪役だ」
グロアは何回か、家の中にあるBDで映画鑑賞したことがあるが、その中でも印象に残っているのは、ある恋愛系の映画であった。
主人公は自分と同じく、貴族として生まれたお嬢様の話であった。
その子は好きな人がいるのに、政略結婚を理由に、嫁ぐことを求められていた。
しかし主人公の少女は、幼馴染でずっと好きな男の子がいて、その子と結ばれたいと思い主張した。
その物語の途中で、許嫁に会うことになる。会った瞬間、あまりの不細工さに開いた口が塞がらなかった。
そして一方的に喋り続け、化粧が得意な女は信用できないなどのモラハラ。自身の身体についてのセクハラオンパレードをその許嫁は口からぺちゃくちゃと吐いた。
そして主人公はドン引きする場面があった。
結局、主人公はその幼馴染と結ばれることになり物語は終わった。
その物語の中の気持ち悪い言動をした許婚と自分が正に今、同じ立ち位置にいた。政略結婚させる側としての立場、主人公に嫌われて恋の邪魔をする最低なライバル役。
それが今のグロアと同じだった。もちろん不細工なところもだ。
唯一、あの物語と違うのは、グロアも結婚、そしてヒロインに良いイメージが無いことだ。
本当言うと決められた相手と結婚したくない。これは女性だけじゃなくて男性にも起こり得ることだとグロアは認識していた。
しかしそんなことにも関わらず、政略結婚や望まない結婚の話は、大抵、男が悪くて女が被害者の位置にあった。
だからこの状況も、どう考えても誰がみても自分が悪いことになると思った。
しかし、自分が最低な悪役みたいな扱いをされるのは傷ついた。こっちも結婚をそこまで望んでいないからだ。
それなのに、いかにも自分が今日の相手に変なセクハラめいたことをしてきたみたいな言い方されるのは、少し嫌だった。
その後、縁談は彼女の方から断ってきた。
というより彼女が家からいなくなったのだ。捜査をしていくと、同じ時期に彼女と同じ年頃の男性が行方不明になった。
まるで映画の展開のようだとグロアは思った。彼女とその男がヒロインとヒーロー。
そして自分は小物の悪役。
誰だってそう思うとグロアは思った。
自分だって側から見ればそう思うのだから。
その経験から、グロアは自然とこう思った。
自分はどんな時も悪役にしかなれない。
いくら学力や体術とか芸術方面の技術とかがあったって、気味悪がられるこの容姿がそうさせてくれない、と。
目的のフードを買いコンビニから出て、三十分後、グロアは近くの噴水広場のベンチに座り、袋の中を覗き込む。
ハチミツが充満に塗られているチキンは、湯気が立ち、ジュウジュウと所々から小さな出汁の飛沫を上げていた。湯気がハチミツと混じり、香ばしさと甘さが合わさり、鼻から全身をくすぐってくる。食べる前から美味しいことが丸わかりだった。
しかし、グロアはある異変に気付いた。
それはチキンに関係なく周りに対してであった。何かこの広場や町に似つかわしくない声が聞こえるのである。
呻き声のように、喉から必死で出している苦しそうな声が、耳の中で木霊している。
(これは……怪我をしている? でもどこから聞こえて……)
左右上下を見渡し、グロアは声の主を探していく。
(違う、違う……ここか? ……違うかった)
グロアは必死で路地裏の回路を思い出した。その中で声が近づいている方と、声が遠くなっている方を仕分けて、予想する。
すると、とうとう見つけた。
すぐさまグロアは立ち上がり、その人物がどこにいるのか、分析の方法で確かめたところをなぞっていくと、その人物はうつ伏せになって倒れていた。
辺りの地面に、血が少し飛び散っており、鉄の匂いがした。その血の中で彼は倒れていた。
その時、グロアは少し違和感を持った。
背丈、身体の体型、髪などがどこか自分に似ているのだ。しかし、そんなことを気にしている場合ではない。急いでグロアはその人物の元へ駆け寄った。
「あのすみません大丈夫ですか!? 意識はありますか!?」
声をかけた時、うぅ〜ん、とその人物は小さな呻き声を上げた。それを聞きホッと息をつき、グロアは安心した。とりあえず死んではいないからだ。
それならなんとかなる、と思い事情を聞きながら傷を回復させようと思った。
しかし、見上げた彼の顔を見て、二人とも言葉と思考を失った。
二人とも身体を微動だにせず、目を皿にして目の前にいる人物を見ている。
信じられなかった。目の前にいる人物は、格好がちがうだけで、他、例えば顔、背丈、体型などが全て同じだったのだ。
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