第7話 マガマガ みんなに責められる



 キーンコーンカーンコーン


「はい!! 今日はボンディラー教の一番最初の概要部分のお話しをしました。次回、もっとそれについて、突き詰めたところに入ります。はい、では以上です。ありがとうございました」


 ありがとうございました


 ……あ、もう授業が終わったのか。


 次は移動教室だ。早く、早く行かないと早く。机の上で支度をしていると、気のせいか周りの視界が暗くなった。


 顔を上げると、セキヅイたちが目の前に立っていた。ニヤニヤしながら俺の周りを囲むように立っていた。


「仲間とか、友だちとかって裏切るのは死刑ってのかボンディラー教の信条の一つにあるよな」


「でも実際いるの? そんな死刑になるような裏切り起こすやつって」


「さあ、でもさぁ裏切りってどっからどこまでの範囲なんだろうな」


「お前それ友だちいない奴の、友だちってどこからが友だちが分からないって言うのと同じじゃん!」


 大口開けて大爆笑。


「あれ、てか何で俺らここで話したんだっけ」


「え? 知らね」


「たしかにそうだよな。移動教室行かねえとな。それにちょっとここ臭えし」


「え? マジ? ちょっと確かめるわ………う〜わっ!! くっさ!!」


 再び大口開けて大唾飛ばして大爆笑。


「え? マジ? うっわ!! マジで臭え!! マジくっさ!!」


「えマ? それまウロロロロオオエ!! くっさくっさ!! ここ臭えわ!! 卑怯モンの臭いがする!!」

 

 ブハッ!!!

 

 少し向こうにいる冴えない男子グループが吹き出した。


「え? 卑怯モン? どんなどんな? どんな卑怯な臭い?」

 

「え? あ、あれよあれ。友だち売る裏切りモンの臭い」


「やば!! ヤバいじゃん!! ボンディラー教なら死刑じゃん!! 死刑!!」


「てかもう顔が死刑みてえな顔してんじゃん!!」


 その言葉が終わると、教室中、核爆弾を落としたようにゲラゲラと笑う大爆笑。それにより口から臭う唾の津波がこちらに押し寄せて来る。


 そうだ、これがこいつらのやり方だった。前は今よりも酷くなかったが、俺の近くで俺を噂するようなことを言う。それに俺が反応すると、お前には関係ねえ話したんだから反応すんじゃねえよ、と言ったり、勝手にこっちが絡んできたとか言って被害者面して好き勝手に責めたり殴ったり蹴ったりする。


 そうだった。こいつらはこういう罠をかけるのがうまかったんだ。クソが。


「…………ど、どっちが……卑怯者だよ」


 ピタッと大爆笑は止まった。


「え? 何か聞こえた?」


「さあ、卑怯モンの脱糞音じゃね?」


「は? じゃあ掃除しなきゃ、じゃね!!」


 カーン!! 


 いきなり隣にいた奴が思いっきり椅子を蹴ってきた。その威力の強さで椅子が倒れてしまい、俺は地面にすっ転んだ。


「は? 何こいつ。勝手に転んでんだけど。てか誰だよこいつ」


「アレじゃね? 名もなき卑怯者」


「やば、そんな曲ありそう」


「うるせえよ」


 あ???


 全員苛立ちを目にためてこっちを睨んできた。だけどさ、だけどこっちもそれ同じなんだわ。


「言いたいことがあるなら、直接言ってください……その……ひきょうも」


「ねえ何言ってっか聞こえねえんだけど。んにボソボソ喋ったんだよ」


「そうそう、腹から声出せ」


「腹から声出せは流石に草」


 再び下品な笑い声を上げようとしているがそうはさせない。


「ちゃんとこっちに言えってことだよ!! 卑怯モンの犯罪者集団が!!」


 シン……


 教室にいるクラスメイトのほとんどがこっちを見た。ほとんどの男子はニヤニヤしたり、耳打ちしていた。女子はヤバいものを見る目をしたり、睨んでいる奴らがいた。


 なあ……これそこまで俺悪いか?

 怒鳴りたくなるだろ? ゼロ距離で自分の悪口を、間接的に回りくどく言われるって。


 腹立つに決まってるよな。睨むのべきなのは俺じゃなくてコイツらだろ。


「は? 逆ギレ? コイツのせいで今もまだアジユーが入院しているのに?」

 

「てか、ライン超してね?」


「……ちょっと待てコイツ……俺らを犯罪者呼ばわりしなかった?    は?」


 奥歯がギリリと鳴るのが分かった。


「こんなやり方で人を責める君たちは犯罪者だろ。一個のことをいつまでもいつまでも引きずって、何回もしつこく言って、それでコイツは責めても良いと思って責める。大勢の意見が無いと何も行動できない馬鹿奴隷。アレだろ? 女にモテたいからしてんだろどうせ俺ら面白だろ俺ら少し悪いだろアピールだろ小物にもならないしなんならマンガで言えば一ページに一コマしか載れないし顔が描写されないか全員クソを塗りたくったようなキモオタ顔だよなお前らそのものの顔だ!??」


 鼻に衝撃。机に激突? 


 キャアアアアア


 なんか女子の悲鳴が聞こえる。え……なに、が……いてえ、鼻が……痛えし……目がなんか変……あ、何だ……景色がブレてて前が全然見えない。


「カッ!!! きったねえな顔!!」


 パン、パン、パン、と大振りで手を叩く音が聞こえた気がした。


「こいつ……泣いてやがるよ!! さっきまでいきがってたくせに泣いてやがる!!」


 は? 泣いて……。


 頬から涙特有の温い液体が伝ってきた。


 鼻水が止まらない、口の中に入ると鉄の味がした。これは鼻血だ。


「なっ……ない……んん……ない……」

 

 ダメだうまく言葉を話せない。しゃっくりみたいなのが出てくる。


「ちょっと仲直りしよう」


 グループの中の一人がそう言った。  


 白けること言うな、と他の奴らが見ているのは辛うじて見えた。すると、そいつはのう言った。


「場所、移動しようか」


 直後、コイツもコイツ以外もニヤリと笑った。何を考えているのか分かってしまった。







 町というのは、表は明るいが少し裏に入ればたちまち陰湿な闇が広がっている。そして表にいる人はそんな裏の存在を、見て見ぬふりなのか知らないのか、全く認識しない。


 表に裏の人間がいてもそれは同じことが多い。


 だから、裏の中でも端っこの隅の落書きにすら使われないような目立たない壁に、酷い殴打痕で腫らした顔の俺を見向きする者などいるはずが無かった。



 

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