第4話 久方ぶりに学校に行く
サボろう
一瞬だけそれを考えた。けどやめた。
サボってどうする。ゲーセンとかに行く。
制服を着てるからゲーセンの店員に学生だとバレる。
同意書とか何かで学校もバレることもある、先生に連絡される、先生来る。
生徒指導室へ直行。
もうそれが目に見える。そして最悪の場合、家の中で夫婦喧嘩が起こり、カオス状態になる。
だからサボるのは最大の悪手、ならどうする。
ドンッ
「あ、すいませ……」
ッチ パンッ パンッ さいっあく
だいじょうぶ〜?
ねー ありえなくなーい? ップ、てかそんなに肩払わなくてもよくな〜い?
それな〜どんだけ気持ちわる……キャハ!! ねえ……ぷぷ……見てる見てるこっち見てるって
ほんっとマジさいあく……ねえ……大丈夫? 臭いついてない? ちょっと嗅いでみ?
え〜??!! や〜だもう……くっさ
キャハハハハハハハハ!!!
ついこの間、なんかの話題とかアニメとかの感想とかで、オタクに優しいギャル、のスレがあった。
あん時はいたら良いな、なんて夢見てたけど……いるわけねえよそんなの。ここに三人くらいのメイク決めてるギャルが俺を笑ってるんだから。
姦しい……なるほど、女を3つ書いて姦しい。分かるわ、そういう漢字ができたの。
随分と距離が空いているのに、未だあのギャル三人の会話が聞こえてくるもんな。
ってかいつまでこっちわチラチラ見んだよ。俺のあいつらの互いに初対面なのにこんなに笑われることあるか?
少し前までの俺なら、あんな態度取られても、無視されるよりマシとか思ってたり、下手すりゃ好意があるんじゃないか、なんてことも思っていた。
どんどん卑屈な方にしか成長しないな俺は……いや、これ成長か? 退化じゃないか?
まあ、どうでも良いか。
そんなことを考えていると、いつの間にか学校の正門前に着いてしまった。
……やばい、なんで学校に着いた現実を直視してしまったんだ。正門、校舎、体育館、脇に生えてる木、武道館ですら二回りも大きく見える。
ふと、視線を感じたからその方向を見る。
ギョッとさた。そこには顔見知り程度のクラスメイトの顔があった。ほぼ一瞬だったがこちらを見て、え? と疑問に思うような顔をした。
当たり前だが二度と来ないと思っていた奴が来たら、誰だってビックリする。それも正門前で突っ立っていたら更にビックリする。
俺だってそうなる。
だからそんなに意味がある行動じゃない。
それが分かっていても、俺の足は止まった。前にも進めなければ後ろを振り向くこともできない。
もう多くの生徒が登校する時間になったのか、後ろから男女の喋り声が鼓膜を掻き乱してくる。
進むのも嫌だが振り向いて、そいつらが登校する中、逆行するのもキツい。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
どうしよ「どうしようどうし」
ガシッ
急に手を掴まれた。危機感が全身の毛を逆立たせる。反射的に逃げようとした時。
「マガマガ君」
その声で止まったのは、知り合いだったからじゃない。むしろ全く知らない奴で、生徒の声じゃなかったからだ。
顔を上げると、たしかカウンセラーの役割がある白衣を着た男性の先生が立っていた。
「おはよう」
「おはようございます」
「うん……じゃあ、とりあえず着いてきてくれ」
そう言ってその先生は、先に進まながらこちらを手招きする。指示が来たから足も動くようになった。
生徒指導室に行く、なんてことになったら普通は説教を覚悟するものだと思う。だけど今回、俺はどこか安心していた。それはこの先生の雰囲気がそうさせているんだろう。
「さ、入って」
今日室を開けると快く入室することを、促してくれた。
さっきはよく見てなかったけど、この先生、顔の皺からしてかなりお年を召しているのが分かる。
でもその皺は柔らかで、笑顔だからか余計に優しく見えてくる。関係ないけど眼鏡も優しそうだ。
「ありがとうございます」
礼を言って入り、向こう側の席に向かう。
もちろん、先生の指示があるまで座らないつもりだ。
流石にそこまで常識が無いわけじゃない。
それを見て先生はニコッしてくれた。
「マガマガ君、凄いね。高校生でもそういう礼儀が分かる人は中々いないよ。すごく努力したんだね」
「あ、ありがとうございます」
マジか、気づいてくれるとは思わなかった。こんなに褒められるなんて、しかも嫌味っぽく聞こえないのが不思議だ。
「どうぞ」
「はい」
俺が席に座ると、先生もすぐに席に座った。背も小柄だから威圧感とかを感じさせないでくれてるのかもしれない。
「大丈夫?」
「え」
「さっき、校門の前で立ち尽くしてたから、もしかして、どこか具合が悪くなったのかなって思って」
「いえ、大丈夫です」
「そう? まあ、あまり無理はせずにというところだね。でも、来てくれてありがとう。すごく感謝してる」
「あはは……ありがとうございます」
その後、意外にも会話が弾んだと思う。
休んでいる間のこととか、家族とどこか行ったのか、外には出ているか、部屋では何を見ているのか、勉強をしているか聞いて今どこの範囲をクラスでやっているのか。
学校では俺のことを話している人は、見た限りだといないとか、僕が近い内に学校に来ることは話していて、その時の生徒の反応とか。
後は部活の優勝や意外な一回戦の敗退、魔法での事故などが起こったことや実験大会の時に、失敗して爆発を起こしてしまった人、などの話をした。
すっかり話し込んでいる時に気づいたが、自分が全く緊張せずに自然体で話していた。
だから先生にこう言われても、嫌な気持ちはしなかった。
「うん、会話とかについては大丈夫だね。僕もマガマガ君と話をしていて楽しかったし」
「ありがとうございます、先生」
「ああ、こちらこそありがとね。あと、先生だけだと固いからキクト先生の方が良いよ」
ハジョウ・キクト それが先生の名前だ。
「ありがとうございます、キクト先生」
「うん、じゃあ多分、担任の先生の方でもう話はしてあると思うから」
「はい」
生徒指導室から退室し、教員室へ向かう。
今は授業中だし、キクト先生との会話で、少し足取りが軽かった。だから大丈夫だと思っていた。
久しぶりに担任と会って、別に嫌な反応されたり嫌なことを言われなかったし、最近、俺が好きそうなゲームで新しいのが出るとか、気を遣って話してくれた。
だから大丈夫だと思っていたんだ。
教室に静かに入り、教室にいる生徒の顔を見るまでは。
六時間目の授業の時間に、俺は何気なくこっそり入ることになっていた。
席は一番後ろで真ん中あたりの席だった。
その列は一席だけ余分に余ったようにポツンと配置されている。
この配置は俺が不登校になる前からだったから、何も変なことは無い。
六時間目は生物歴史学で教室移動は無い。
窓から見ると、黒板にドラゴンと不死鳥が描かれている。今回はこの二つについての歴史らしい。
皆が授業を受けている中、先生がそっと誰も気づかない程、小さく扉を開く。
その音は本当に小さくて、誰も気付かなかった。
足音を立てずに自分の席に近づき、座ろうとする。
その時、斜め横の少し遠く視線を感じたので顔を向けると、主犯格の生徒だった。
やばいと思い急いで目を逸らした。
でも、逸らす前に見たそいつの目には、反省も謝罪も無かった。
ただただ、俺に対する敵意が目にたまっていた。
卑怯モンが
そんな声が聞こえた気がした。
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