第6話 高校時代 テセウスの船


 「というわけで思う存分トークしたまえ」


 科学部の面々が一通りAIニナへの自己紹介を終えたあと、皆で席に戻った。

そしてタケシが手元の茶を一口飲んだあと、そんなことを言い出す。


「急に言われてもなぁ」


 いざそう言われると、とくに話題は無い。


「あー、じゃあ」


 アキラには何か話題があるようだ、挙手をして注目を集めている。


「AIニナってよく出来てるよな。 あれもお前が作ったのか?」


 たしかに。

あのCGといい合成音声といい……いやそもそも対話型AIとやらを一から作る技術を持っていたとは。

もともと頭が良いのは知っていたが、俺たちが思っているよりもタケシは天才なのかもしれん。


「いや、あのAIシステムは貰い物だ」


 しかしタケシからの返事は肩透かしを食らうようなものだった。


「貰い物って?」


 ニナが小首を傾げる。

なんでいちいちそんなに可愛いのかよ。


「雛鳥総一郎氏からテスターとして譲り受けたんだよ。 ちょっとしたコネがあってな」


「誰?」


「知らんのかアキラ。 AI技術の権威であられる研究者の名を」


「知ってるわけないだろ」


 右に同じだし、左のニナも同じだろう。

しかし、権威と呼ばれる人とコネクションがあるのかタケシは……いや、そういえば。


「もしかして雛鳥さんって……」


「はい、雛鳥総一郎は私の祖父です」


 そういうことか……とはいえ、たかだか同じ部活の先輩のタケシに偉い人が贈り物なんてするのかな?

それとも、それほど雛鳥さんとタケシは深い仲なのか……もしかしたら付き合ってるのかもしれん。

なんか肩に手を置いてたりしてたし……くそ、うらやましいぞ。


「このAIシステム……名称をチルチルシステムというんだが、最新鋭のAI技術なんだぞ。 とても高機能でモデリングなんかも画像や音声データをそのままぶち込めば、あら不思議」


「このように自動的に出力されるわけです」


 モニター画面で無表情ながらダブルピースをするAIニナ。

なんかもう既にお調子者感があるな……本物ニナはそんなんじゃないぞ。


「というかAIニナの話題をしてどーする。 話題が悪いよ話題が。 もっと俺らしかできねートーク? 地元のダチ感? 出してこーぜ!」


「うざ」


 ふざけだしたタケシをたった二文字で斬り捨てるアキラ。

この二人は本気の喧嘩はしないものの、ちょっとした小突き合いが多いんだよな。


「マナブはどーだ、なんか話題ないか」


 タケシに振られたので、すこし考えてみる。

しかし、何も思いつかない。


 いや、あるにはあるんだが、全てゲームの話題になってしまう。

そして、この面々は俺ほどゲームに熱意がない人間ばかりだ。


 ハマっているMOBAで最近出た新キャラが強すぎでバランスぐっちゃぐちゃだね、という話をしても通じないだろうし、そもそもMOBAってなに? から始まってしまうだろう。


「んー……ないな、話題。 みんなと共有できるようなやつは」


「おいおい、なんでもいいから話してみろって」


「そうか? じゃあ……」


 そこまで言うなら語ってやろうじゃないか。


「最近でたキャラさー、明らかにバグってるよね。 全部のスキルに行動阻害系があるってどーよ? そんでサポキャラじゃなくて火力タイプじゃん? ダメージのタイプも両方だしさー。 なのに固さもあるんだよね。 なによりもアルティメット! 全範囲でスタンと沈黙とブラインド効果って狂ってるでしょ。 そりゃ新キャラは強く設定されるのがセオリーっちゃセオリーだけどやりすぎ。 それでナーフして産廃になるのがお決まりの流れだし、今強いからって触る気になれないんだよな。 かといってランク上げるにはやっぱ……」


「俺が悪かったから止めてくれ」


 めずらしくタケシが素直に謝った。

だから言ったのに。


「雛鳥後輩はどうだ? なにか話題あるか?」


「……ベニクラゲというクラゲの一種は、理論上不老不死であるとされ、死にかけるとポリプ……例えるなら卵のような状態に若返るそうです。 捕食される以外で死ぬことはほぼありません。 この不思議なメカニズムに着目して人類の不老不死を夢見る研究者も居ます」


 ……雑学?


「へー、すごいね」


 ニナのような単純な感想しか出てこないぞ。

それとも不老不死というワードで話を広げるべきか?

……俺の年齢で、それを大真面目にするにはキツいものがある。


「……ニナはどうだ?」


 同様に感じたのか、雛鳥さんの話題を聞かなかったことにしたタケシがニナに話題の提供を求めた。


「うーんとね、昨日ね、クッキー焼いたの。 レモンクッキー」


 ……この話題を『へーそうなんだ』で終わらせてしまう男はモテない。

そんなことは分かってる、分かってるんだが、それ以外の感想が出てこない。


 この難問をどうやって解決すればいいんだ。


「……え~すご~い! おいしかったぁ~?」


 おお、タケシは自身に想像上の女子高生を憑依させることで話題を広げようとしているぞ!


「おいしかったよ~」


「あたしもね~昨日ね~プリン作ったの~!」


「へぇ~そうなんだ~」


 会話終了。

ニナがそれを言うのか。


 見ろよ、タケシが決定的シュートを外したサッカー選手のように、腰に手を当てて俯いているじゃないか。


「……アキラ、面白い話、しろ」


「お前がしろよ」


 悪あがきでアキラに襲い掛かるも、返す刀で一刀両断されるタケシ。

そして重い沈黙が場を支配する……。


 あれ、俺たちって、こんな話題の続かない集団だったっけ。

いやいや、これはタケシが悪いはずだ、さあ雑談どうぞと言われてしまったから、変に身構えてしまって上手く出来ないだけだ。


 雑談ってのは、もっと自然発生的にするもんだ。

だから、こういう空気になってしまった以上、もう軽快なトークは望めそうも無い。


 そこに、救いの手が差し伸べられた。


「思考実験で遊ぶのはどうでしょう?」


「おっ、なるほどそれだ! でかしたぞAIニナ」


 降って湧いた合成音声の提案に、それだ! とばかりに飛びつくタケシ。


「思考実験ってなんだよ」


 アキラが問う、俺も同じ気持ちだ。

思考実験という単語は初めて聞いた。


「答えの無いなぞなぞのようなものだ。 まぁやってみれば分かる。 ええと、何にするかな……」


「テセウスの船、はいかがでしょう?」


「いいね、じゃあ……えーと」


 そのテセウスの船という答えの無いなぞなぞを検索しようとしてるのか、タケシがスマホを弄りだしたが……。


「むかしむかし、あるところにテセウスという人が居ました」


 急にAIニナが語り始める。

なぞなぞが始まったんだよな? ……昔話じゃなくて。


「テセウスさんは一から船を造ってみようと、木を切り出して材料を手に入れるところからはじめました。 とても頑張って、一人で船を造りあげました。 その船でテセウスさんは海を冒険します。 すると船の一部の部品が壊れましたので、壊れた部品を捨てて新しい部品で修理しました。 するとまた、別の古い部分が壊れたので、同じようにします。 それが繰り返されます。 そして全ての古い部品が、新しい物に入れ替わったとき、それは元あったテセウスの船と呼べるのでしょうか?」


「呼べる」


 即答したのは、アキラだった。


「その心は?」


 その答えの理由について聞いてくるAIニナに、アキラは淀みなく答えた。


「船を人間の身体に例えてみて、そして新陳代謝のことを考えればいい。 俺たちの身体の細胞は古びて消えていく、それを補うためにメシを食う。 数年で人体の細胞が全て入れ替わるっていう話を聞いたことがないか? つまり俺たちは既に過去に持っていた部品を全て捨ててしまっているが、それでも俺は俺だという自意識がある。 そのテセウスの船ってのも同じことが言えるんじゃないか?」


「なるほど、それがアキラさまの考えですか。 素晴らしいです」


 俺も内心、感心していた。

こいつに、こんな知的な部分があったとは。


「しかし、気分を害されるかもしれませんが、一つだけ訂正させてください」


「なんだよ」


「細胞が全て入れ替わるというのはデマです。 一生、変わらない細胞もあります。 たとえば……脳細胞などがそうです」


 ちょっとびっくりしてしまった。

数年で細胞が入れ替わるという話は俺も聞いたことがあって、信じていたからだ。


 しかし脳細胞が不変のものとなると……アキラの考えは破綻する。

そもそも有機物と無機物を同列にして例えること自体、破綻しているものかもしれないが、その脳細胞の件も加味するとなれば……やはり無茶があるように思える。


 絶対に替えのきかない部品が人間にある以上、その人間とテセウスの船を同一視したのならば、船にも絶対に変えてはならない部品がなければおかしい。


 全てを入れ替えてしまったのならば、それはもうテセウスの船ではない。

そういう結論になる。


「だけどよ」


 しかし、それでもアキラは食い下がる。


「例えば……脳細胞も全て入れ替わっている特殊体質のやつが居たらどうする? それが俺だったら? もちろん、俺は記憶も入れ替わらずに存在しているぜ」


 子供染みた反論だ。

なぜかアキラはムキになってしまっている。

どうしてだろう。


「その場合は、アキラ様の理論は完璧なものとなります。 テセウスの船という思考実験に対する、一つの真なる解答になるでしょう」


 そのAIニナの言葉は、言外に『そんなことは有り得ないから、そんな答えも有り得ない』と示しつつも、仕方がないから認めてやるといったニュアンスがあるように俺は感じた。


「…………」


 そのまま黙り込んだアキラが、俺と同じことを思ったのかは、その無の表情からは読み取れなかった。


「しかしAIニナよ、なんか随分と脚色したテセウスの船を話し出したな」


 そこで、今度はタケシが口を開いた。


「ええ、ちょっと面白い試みを思いついたもので」


「面白い試み?」


「はい、ちょっとストーリーを替えてみるんです。 では皆さん、ご清聴を……むかしむかし、あるところにテセウスという人が居ました」


 すると、またもやAIニナは同じ出だしで語り出すが、その内容は言葉通り改変されていた。


「テセウスさんは一から船を造りました。 そして海に出ました。 その理由は、海で悪さをする海賊を退治するためです。 みごと、海賊を倒したテセウスさんは英雄と讃えられることになりました。 この戦いの際、船は一切壊れなかったとします。 さて、テセウスさんは死後も国の英雄として語り継がれることになり、彼の作った船は博物館に展示されることになりました。 だけど、彼の死後から100年経ったとき、博物館に隕石が降ってきて船は粉々になってしまいます」


 ちょっとどころか、かなりストーリーが変わってしまっているとツッコミたいところを我慢しつつ、黙って続きを聞く。


「国民たちはテセウスの船を再建しようと試みます。 しかし古びた設計書には材料まで書かれていませんでした。 なので仕方なく適当な材料で船を造り直します。 それは結果的に元の船とは違う材料となってしまいました。 さて、作る人も違えば材料も違う、見た目だけそっくりなこの船は、テセウスの船と呼べるのでしょうか?」


 今度のストーリーは、誰も即答する人間は居なかった。

俺も悩んでいる……それはテセウスの船か、そうではないかを。


「呼べないだろうな、それは」


 先陣を切って答えたのはタケシだった。


「どうして、そう思うのですか?」


 AIニナが聞く。


「ミソは製作意図だと思う。 テセウスは悪い海賊をやっつけるために船を作った。 国民たちはテセウスの偉業を残し続けるために船を造った。 だからそれは、テセウスの船ではなく『テセウスの船を再現した』ものだ。 国民たちだってさすがに『これは一回本物が壊れちゃったので再現したものですよー』っていう注釈の入れた看板くらい立てるだろう。 良識ある国民性を持っているのならな」


「なるほど。 他の方の意見も聞きたいですね……アキラ様はどうですか?」


「俺か? んーまあ、そうだな。 ほぼほぼタケシの意見に同意だ」


 さっきまでとは打って変わって、なんだか投げやりな意見だった。


「本物のニナ様は?」


「私は…………」


 何か思うところがあるのか、真剣に悩んでいるのか、そのまま口ごもるニナ。

しかしやがて、自分の意見を言い始める。


「本物なんじゃないかな……ううん、うまく言えないけど。 その人たちがテセウスさんの船を作ろうとして作ったのなら、それはテセウスさんの船だと、受け入れるべきなのかも……」


「本心でどう思うかではなく、そうであると受け入れる姿勢が大事だということですか?」


「んー……まあ、うん」


 歯切れの悪い感じではあるが、それでも肯定したニナ。


「では、マナブさんはどうでしょうか?」


 今度は俺の番か。

うーむ……理屈的にはタケシの言うことがもっともだと思う。

しかし、今ニナが言ったことも理解できる。


 要は捉え方というか、材料の問題でも無いのかもしれないという気持ちがある。

いわゆる騙すための芸術品の贋作とはまた違う、まったく同じものを作ろうとする国民の、テセウスという偉人の偉業を伝え残そうとする美しい精神性。


 それが作り上げた船を、いやでも偽物だよねと一方的に断じてしまうのは、どうだろうか?

しかし、かといって本物だ! と言い切れるほど俺は人情派でもないし。

どうしても材料が違う、製作者が違うという事実が引っかかってしまう。


 ……答えの無いなぞなぞとは、よく言ったものだ。


 …………いや、そういうことなら、こういう答え方もできるか?


「俺の答えは……わからない、かな?」


「わからない? その言葉の意味を教えていただけますでしょうか」


「タケシの言う通り、理屈で見るなら元の船とは違う船だろう。 でもそっくりに再現された船なんだろ? だったら、それはテセウスの船でもあるんじゃないか? 偽物でもあり、本物でもあると俺は思う。 だから、どちらかに決めろと言われたら俺は『わからない』と答える」


「おいおい待てよ、偽物に決まってるだろ」


 思わぬ横やりを入れてきたのはタケシだった。


「なんで決まってるんだ」


「だって材料も製作者も違うだろ。 形がそっくりってだけだ」


 ……こいつにどうやったら俺の意図が伝わるか考えてみる。

そのとき、ふとタケシの手元にある湯呑が目に入った。

緑色した、波のような凹凸があるデザインの、ありふれたものだった。


「それ、お前の湯呑か?」


「ああ、マイ湯呑だ」


「お気に入りか?」


「そこそこな」


 渋い趣味してんな、まあいい。


「例えば俺が陶芸教室に行って、それとそっくりの湯呑を作ったとする」


「ああ、それは、これそっくりの『お前が陶芸教室で作った偽物の湯呑』だな」


「もちろんそうだ。 しかし、わざわざそんなものを作った理由としてはこうだ……『お前がうっかりお気に入りの湯呑を割ってしまったので、哀れに思った俺が似た物を作ってあげた』という感じだ」


「そんなこと、本当にしたらキモいぞ」


 本当にそんなことするか! 例え話だこれは。


「とにかく、お前はそれを愛用することになる」


「すぐに捨てるぞ」


「することになるんだ! いいから黙って聞け! ……で、だ。 ある日お前のところに誰かが……俺のことを知らない誰か……そうだ、たとえば雛鳥総一郎さんが尋ねに来たとする」


 つい最近知った、見知らぬ顔の偉い人の名前を借りることにした。


「雛鳥総一郎さんは、お前の湯呑を見て、こう聞く……『それは愛用の湯呑かね』と」


「そして俺はこう答える……『キモい友人が作ったもので、使用することを強いられているのです』ってね」


「……どうして、そういう経緯に至ったのかも聞かれたら?」


 苛立ちを抑えつつ、俺はそう聞いた。


「まぁ、愛用していた湯呑が割れたことを話すだろうな」


「じゃあ『それは偽物ということかね?』と聞かれれば」


「迷いなく『YES』だ」


 だろうよ。

くそ、例え方が悪かったか……?

いや、じゃあこうしてみよう。


「わかった、それじゃあ、その新たに作られたそっくりの湯呑を、俺じゃなくてニナが作ったことにしよう」


「申し訳ありませんが、私に湯呑を製作する機能は付いておりません」


「君じゃなくて」


 本物のほうだ。


「私?」


「そう、ニナがタケシを可哀そうに思って、そっくりの湯呑を作った」


「む……」


 話の流れが見えたのか、タケシが小さく呻いた。


「そして同じようにして雛鳥総一郎さんが問いかける。 『愛用の湯飲みか?』『いいえ違います。 友人が割れた物そっくりのを作ってくれたんです』『では偽物ということか』 ……お前は、どう答える?」


「…………偽物と答えるが、しかし大事な物でもあると答える」


 くそ、まだ逃げるかタカシめ。

しかし、これ以上は俺も上手く説明できない。


 テセウスの船というテーマに対して、俺は俺が抱いた感想を完全には言語化できないからだ。


「先輩」


 そこに思わぬフォローが入ることになる。

雛鳥さんが声を上げたのだ。


「いま、先輩が『大事なものでもある』と言った空想上のニナ先輩作の湯呑は、かつて存在した『割れてしまった愛用の湯呑』という因果がなければ存在しえない物体です。 その部分がマナブ先輩の出したテセウスの船の解答なのではないのでしょうか」


「えっと……どういうことかな?」


 俺の気持ちを代弁してくれたようだが、当の本人である俺がイマイチ理解できていなかった。


「つまりテセウスの船……正確にはAIニナさんが話した二番目の話と一緒だということです。 テセウスの船は一度破壊され、そして新たに再現された。 この再現は破壊という現象が無ければ起こり得ないもの。 ならば国民が行ったことも『偽物を作った』というよりも『本物を再現』……いや『再生』したというのが的確ではないのでしょうか。 再生ならば、それは本物のテセウスの船であるともいえます」


「面白い言い方をするな雛鳥後輩よ。 再生だと?」


「ええ、そうです。 テセウスの船は再生した。 国民の思いやりという付加価値が与えられて蘇ったのです。 ニナ先輩の『架空の湯呑』にも同じことが言えます。 かつて存在した原初の『テセウスの船または愛用の湯呑』という存在意義を損なうものではありません。 だからこそ、偽物でもあり、本物でもある」


「ロマンチックな論理展開だな。 では君としては材料の違い、製作者の違いはどう捉えている?」


「小さな差異です。 人体に言い換えるなら手足を失った人がバイオテクノロジーで本物と遜色ない義手義足を身に着けることと同じです」


「ほーお、雛鳥後輩も船を人体に置き換えるか。 なら聞くが替えることのできない脳細胞は船のどの部品に当たるのかな?」


「脳細胞にあたる部分は船のどこにもありません」


「…………」


 どういうことだ? という問いを口を閉ざすことで暗に問いただそうとするタケシ。

俺も、どういうことか聞きたい。


「テセウスの船はパラドックスであり概念的なものでもあります。 物事をどう捉えるべきかに終始します。 そして船には心はありません。 だから、我々が認識することが全てです。 ならば船を人体に置き換えたとき、その思考する脳は我々の知性に宿すことが正解だと私は思います」


「ならば、船の部品を総取っ換えしても、その脳は俺たちの脳と同化しているわけだから、例えばマナブが『これはテセウスの船だ』だと言えばそうだし、俺が『偽物』だと言っても正解だというわけか……」


「その通りです。 思考実験とは答えの無いなぞなぞなのでしょう?」


「ふっ、確かにな」


 そのとき、急に拍手の音が鳴った。

見ると、モニタ上のAIニナが両手を叩き合わせている。


「素晴らしい議論でした。 私はとても満足で、己のレベルアップを感じています」


 AIニナはご満悦のようだった。


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