現し世の色

白里りこ

うつしよのいろ


秘めしものほど切なげで恐ろしい例えば人の血の柘榴色


深緋こきあけの業火を前に這いずるは浮世に住まう衆生のさだめ


逞しく芽吹く雛芥子ひととせで黄丹おうにの花も根も葉も絶える


手折られた黄菊の花弁ひらり落つ人目も供花くげも刹那に朽ちる


浅緑の小草の如く光だけたべて過ごして枯れていけたら


ばっさりと伐られ地に伏す青竹の気高いさまに心打たれる


悲しみは渓流のよう白群びゃくぐんの水がとめどもなく押し寄せる


俗界に生きる辛苦で零れ出た涙で出来た遠き蒼海


残光を受け天穹は紫苑色また鬱々と一日が去る


桃染ももぞめの夜明けを幾度むかえても憂いなき日は一度も来ない


今世に救い無しとは誠かと金色こんじきまとう御仏に訊く


鈍銀にぶぎんの梵鐘ついて念じても欲が消えない楽になれない


煩悶に耐え抜いて得た安らぎもたかが黒茶の淀の泡沫


懊悩も物も命もいつの日か枯茶からちゃの塵と化し風に散る


曇天の町は薄鼠いまわしい人生に似た陰気な眺め


灰色の夢から醒めるようにして終わりを告げる須臾しゅゆの生涯


苦難から解き放たれた人々が白骨だけを遺し飛び立つ


冥闇が統べる宇宙は黒すぎて迷ってしまう死出の旅路も


透明になる魂の行き着くは清き浄土か昏き輪廻か


空寂の世界で全て忘れたい痛みも愛も呼吸も色も

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現し世の色 白里りこ @Tomaten

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