第4話 違い
「そろそろ、腕相撲やめて、違うことする?」
琉生は、ふと思いついて言った。
「うん。オレもそう思ってた。よし、変えよう」
「じゃあさ、明日はさ、2人で手をつないでスキップで移動するのはどう?」
琉生が、笑いながら提案する。
「うんうん」
「でさ、腕相撲じゃなくて、移動途中でじゃんけんするのは?」
「いいね。じゃあさ、じゃんけんで負けた方が勝った方おんぶして、メインステージまで行くとか?」
「メインステージまでは遠いから、適当に途中で切り上げよう」
「そやな。最後は、さっとダッシュな」
「OK」
そんなことを話しているうちに、疲れているのも忘れてワクワクしてしまう。
今回のフェスは、EMエンタテインメント総出の祭りのようなものだから、演出にもけっこう遊びがあって、提案したこともいろいろ試させてくれるのだ。腕相撲の演出も、想太たちからの提案だった。
どのグループも、アイドルらしい曲では、可愛さもかっこよさもキラキラも、すべて溢れんばかりのパワー全開でやる。それでいて、おちゃらけるところは思いっきりはじけて、ノリノリで、観客をめちゃくちゃ笑わせて楽しませる。
それが、EMエンタテインメントのステージの魅力だ。歌もダンスも、お笑いも、全力でやる。
ただおシャレでカッコいいだけじゃない。そこがいい。
想太と琉生も、そんなステージを目指して、どう魅せるか、どう楽しませるか、をいつも考えずにはいられない。
降りる駅が近づいてくる。
「今日もめっちゃ面白かったな」
想太が琉生にほほ笑みかける。
「うん。面白かった。……明日のステージ、うちの従姉妹が来る。NIGHT&DAYのファンなんだ」
NIGHT&DAYは、EM所属のグループの中でも、琉生と想太が一番バックにつくことの多いグループだ。
「そうなんやぁ。じゃ、明日もいっぱい楽しんでもらえるように、がんばろな」
想太の笑顔は、人の心を柔らかくほぐす。
「うん。がんばろう」
琉生も笑顔で返す。
その笑顔が、透き通るようで眩しくて、想太は一瞬目を細めた。想太は、時々、琉生の背中には、透き通った天使の羽が生えてるんじゃないかと思ってしまうときがある。もちろん、琉生はそんなことは知らない。
2人の自宅のある最寄り駅について、駅から少し歩いたところで別れ、それぞれの自宅に向かう。
琉生の後ろ姿を少し見送ったあと、想太は、足を速めて家に向かう。
きっと、家では、父ちゃん(想太は父のことを、父ちゃんと呼んでいる)、圭が、想太と話をしたくて、うずうずしながら待っていることだろう。
圭に憧れて、アイドルを目指した想太はずっと思ってきた。
(いつかきっと、父ちゃんと一緒のステージに立ちたい。っていうか、立つ)
そう思ってきた。
その『いつか』は、意外と早くやってきた。けれど、一緒のステージに立ってみて、あらためてわかったこともたくさんある。
同じステージに立っていても、デビュー済みのグループと、研修生との間にある、様々な違い。
もちろん、周りからの扱いや立場の違いもある。楽屋がグループごとに割り振れらるデビュー組に対して、研修生や練習生は、みんなで一つの大きな部屋を使う。車の送迎があるデビュー組に対して、自分で現地まで行って帰る研修生や練習生。
でも、今回のフェスで、そんな扱いの違い以上に、想太や琉生が感じた、あまりにも大きな違いがあった。
――――オーラだ。
その輝きだ。
その場に登場するだけで、自然と目が吸い寄せられるような、圧倒的な光を放つ先輩たち。彼らの姿やパフォーマンスに、想太も琉生も目を奪われた。
「違う。全然違う。オレら、まだまだ、や」
想太の言葉に、琉生も力一杯うなずいたのだ。
「うん。全然、まだまだや」
「でも、絶対、いつかきっと」
「うん。いつかきっと、絶対」
今回のステージ上で、2人ががっちりと手を組むシーンには、いつかきっと、絶対に、2人でデビューして、先輩たち以上のパフォーマンスをする!
2人のそんな決意がこもっているのだ。
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