【8】ボーカル

ステージに上がって、歌い始めてからはあっという間だった。ただ、目の前のお客さんに向かって、ギターをかき鳴らし、歌声を響かせる。客席の皆が、腕を上げてリズムを取ったり、手を打ち鳴らしたりするたびに、私達の音楽はもっと一つになっていく。その感覚が、とても気持ちよかった。

今なら何でもできると、本気で思った。普段誤魔化して弾きがちなFコードも完璧だったし、歌の調子も最高。まるで自分がメガホンにでもなったかのように、簡単に大きくて通る声が出る。

それに呼応するように、隣の一年君も、今までで一番いい声を響かせていた。デビュー戦とは思えないくらいの堂々とした歌いっぷりが、シオンの言ったように、その練習の成果をこれでもかというほど表している。もともとぎこちなかったアイコンタクトも上々で、私達がハモるたびに客席が湧いて、とてもいい気分にさせてもらった。

後ろを振り向くと、配置的に、キーボードの一年ちゃんと目が合う。ずっとピアノを習っていただけあって、上手だけどとても硬派だった彼女も、自然と表情が砕けて、笑顔で鍵盤を叩いていた。以前、”ソロパートって楽譜のどこに書いてあるんですか?”と聞いてきたとは思えないほどの個性を見せつけている。ちょっと子供っぽいところがある一年君と、真面目な一年ちゃん。きっといいコンビになるだろうな。




全5曲、これでも大トリ特典として、他のバンドより1曲増やしてもらっているのに、流れるように時間は進んでいって、気づけば次は最後の曲、という場面に差し掛かっていた。ついさっき、4曲目が終わって、お客さんの目はこちらに釘付けになっている。そのとき、ふいに照明が落ちた。


「え?」

「何これ…」

「演出?」

客席から、さざ波のようにざわめきが広がっていく。お客さんは、次のフェーズを待っているけど、その反面、焦っていたのは一年生だった。リハではこのまま少しだけMCを挟んでラスト、と二人には伝えていたから、不測の事態だと思ってるんだろう。ちょっとだけ肩を寄せて耳打ちしようとした一年君を掌で押しとどめて、私はネックから手を離し、両手でスタンドマイクを握った。たった一本のスポットライトが私を照らす。


「えぇー、皆さん、今日のライブはいかがでしたか?」


突然の硬い喋りに、客席はどういう反応を返していいのか分からないといった様子で、沈黙に包まれた。ステージ上の一年生二人でさえも、固唾をのんでこちらを凝視している。さっきまでとは打って変わって、静かになってしまった雰囲気に気圧されながらも口を開いた。こうするのを望んだのは、他でもない私だった。


「私は、とても楽しかったです。

このライブももちろんそうだし、

これまでのことも全部含めて、音楽そのものが、とても楽しくて仕方がなかった。


生まれてこのかた、大切なものなんて一つもありませんでした。明日、いきなり世界が終わるって言われても、きっと悲しまなかったと思う。泣いたり叫んだり、そんな風に気持ちを爆発させるまで執着するものが、私にはなかった。

だけど、去年、ささいなきっかけで音楽に出会って、それから、私の世界は一転しました。


誰かの奏でる音に肌が震える感覚や、誰かの綺麗な声に嫉妬するほど魅了されること、音楽を通じて出会った人と交わした本気の言葉、それぞれの思惑を抱いた人達が、それぞれの楽器でぶつかりあうときの、怖いような、それでいて歯を見せて笑いたくなるような、どうしようもない衝動。


私の世界は、いつの間にか、そんな音楽に関わることで満たされていきました。今の私が音楽を奪われそうになったとしたら、きっと、いや絶対、大騒ぎして抵抗します。どんなに強い力を持っていても、私と音楽を引き離すことはできませんと、声を大にして叫びたい、そんな気持ちです。


そして、このライブは、そんな私と、音楽にとって、とても大切な一つの区切りになります。」


え?と再びざわめきだした会場をじっくり眺める。ここにある全ての要素が、私の音楽を作ってくれた。

シオンの親衛隊、『楽しみにしてるね』と言ってくれたクラスメイト、華やかな同級生、後輩、他校の人達、これまで、このライブを彩ってきたOBOG、何かと相談に乗ってくれたおじさん達。古い型の照明、擦り切れた床、ほこりっぽい機材置き場、そこにいるのは、少し心配そうにこちらを伺うタクミ先輩と、微笑んで、次の言葉を待ってくれてる夏樹先輩。

隣を見ると、不安そうに眉を下げている一年君、後ろには『え?』という風に口が開きっぱなしの一年ちゃん、そして、顎を引いて微笑んだシオンがいる。シオンにだけは、事前に話をしていた。


『大丈夫』

唇がそう刻む。背中を守って、支えてくれている。


私はもう一度マイクを握り直して、声に出した。




「私、ボーカルつむぎは、本日の公演を持ちまして、

このバンドを卒業させていただきます。」











「え、」「は…」

静まり返った会場で、一番初めに声を出したのは一年生達だった。衝撃過ぎて動けないようで、ただぽろんと、その声だけが口から転がり落ちたようだった。

それを皮切りに、客席も現実を取り戻したようだった。どうして、だってまだ二年生、何が原因、嫌だよ、色んな言葉が聞こえてくる。その反応は当たり前だと心を落ち着かせる。そうだ、私だって。私だって、今回の転校を聞かされたときは、初めて、そんな気持ちになったんだ。

嫌だ、音楽と、それが出会わせてくれた人達と、別れたくないって。

初めて、そう思ったんだ。




「転校に伴って、活動続行は難しくなり、結果このような形となりました。

私自身、これまで何度も転校を繰り返してきたはずなんですけど、どうしてか、今回は、今回だけは、本当に、辛いです。

でも、私がいなくなったって、このバンドは続いていきます。だから、新しいこのバンドも、どうか、愛していただければと思います。」




そう言って、人生で一番深いお辞儀をした。

悲しくないわけじゃない。だけど、後ろだけ向いてても、どうしようもないから。もう沢山悲しい思いは味わった。だから、これからは、あの人の世界が、笑顔で溢れますように。私との思い出が、どうか、素敵なものだったと、あの人の心に刻まれますように。




「なので、今、この場所で、新ボーカルを発表させていただきます。」




「「「「「えええーーーーーっ」」」」」

重大発表が多すぎて、客席は、それに対して深刻になるというより身を任せるようになってくれていた。まるで団体芸のようにそろった声である。そうそう、これこれ。最後はね、湿っぽいのよりよっぽど、こっちのほうがいいよ。

「えっ」「はぁ…?」「どういうこ…」

さすがにメンバーの三人はちゃんと動揺していた。さっきのメンバーに追加でシオンが混じっているのが面白い。

運塩係の人達と、段取りは完璧に組んであった。周りの驚きをを一切無視して、運営係の人に目くばせをする。

その瞬間、私の上のスポットライトが消えて、私の斜め後ろに光が刺さった。






「…うそっ」






「嘘じゃないよ。」






その声はマイクを通したけれど、たった一人に向けて言った。

会場全体が私の一挙手一投足に注目している中、スタンドからマイクを取って、その人の隣へと歩いていく。

スポットライトを向けられたときに、全てを悟ったんだろう。今日も昨日もその前も泣いていたのに、その人はまた涙を流していた。背筋を伸ばしたまま、しっかり私の背中を守ってくれていたその姿勢で。

私はその、白くて綺麗で、でも熟練の分厚い手の上に、そっとマイクを置いた。


その人はゆっくりと私を見上げる。どうしたらいいの、と揺れ動きながら問いかける視線を受けて、私は細い体をぎゅっと抱きしめた。

「私と音楽を出会わせてくれて、ありがとう。

今度は私が、新しい世界に連れて行ってあげる。」

マイクを持ったその手を私の手で包み込んで上に引き、立ち上がらせて、私がいつもいる真ん中に連れて行く。

そして息を吸う。






「新しいボーカルは、私の相棒・シオンですっ‼」






ざわめきがぴたっと止まる。そのあと、わああああっっと会場全体が揺れるほどの歓声が、私達に、いや、シオンに降り注いだ。

「うそ、うそ、うそ、…え、どうして」

呆然としたシオンが、赤くなった瞳をこちらに向ける。

「どうしてもこうしてもないよ。

ただ、私は、このバンドに相応しい声を選んだだけ。

一年ちょっとだけど、ボーカルを務めた私の勘が、シオンだよって、そう言ってただけ。」

「でもこのバンドの曲はつむぎの声が要でっ」

「本当に?」

そう言って前を指し示す。そこには沢山の歓声と拍手を送るお客さんがいた。皆、こちらにきらきらした瞳を向けて、期待を抑えられずにいる。ばらばらだった声は、そのうちに統制が取れて来て、

「「「「「シーオーンっ、シーオーンっ…」」」」」

とコールの様になっていた。


まだ信じられないという顔をするシオンを、もう一度抱きしめる。大丈夫だよと何度も背を撫でる。シオンが出会わせてくれた音楽が、私をここまで昂らせる音楽が、こんなにも温かい人達を魅了する音楽が、シオンを必ず、新しい世界に連れて行ってくれる。そう、一年前、シオンが私を変えてくれたように。

ふいに背中に、新しい温もりが触れる。振り返ると、そこには一年生の二人がいて、私達を抱きしめてくれていた。

「何でそんな大切なこと黙ってたんですかとか、色んな事言いたいですけど、

今は一言だけ言わせてください。

何があっても、たとえつむぎ先輩が遠くに行ったとしたって、俺達の音楽は繋がってますから。シオン先輩の声に乗せて、絶対に届けますから。」

「…そうです。絶対、ぜったいっ…」

かっこいいことを言う一年生君に対して、一年生ちゃんはぼろっぼろになって泣いている。どうしてこんなときだけ言葉が達者なのよと一年生君に悪態をつきながら、私とシオンの背中を熱くなるほど擦っていた。

「ごめんね、私も、受け入れたくなくてさ…言い訳できない身なのは、わかってるんだけど…」

「許しますからぁ」

私も二人の背中を撫でる。心配かけてごめんねと、精一杯の思いを込める。私、知らない間に、こんなに愛されていたのか。

泣かないと決めていたのに、鼻の奥がつんとしてくる。だめだ、私は泣いちゃだめだ。それを何とか誤魔化すために、顔を上げた。

「最後一曲、聞いててもいい?」

みんな、と三人を見る。

よく見ると唇を噛んで何かを耐えているけれど、それでも笑顔の一年生君。

普段はしゃっきりしているけれど、今は顔を真っ赤にさせている一年生ちゃん。

そして私の顔と手のマイクを交互に見るシオン。



「「「「「シーオーンっ、シーオーンっ、…」」」」」



まだ続く声に背中を押されるようにシオンは涙を腕で乱雑に拭い、そして動いた。



「本日の公演まで、あなたがボーカルでしょっ」



掌に押し付けられるマイク。

え、と今度はこちらが驚く番だった。

シオンのマイクがなくなるじゃんと思ったそのとき、一年生君がそっと自分のスタンドマイクを動かして、ドラムの横に置いた。

「俺はこれからまだまだこのバンドに居座りますから。

今日マイクがなくたって、何の支障もありませんっ…」

最後の言葉が涙で滲んでいるのを聞き取って、私は手の中のマイクをぎゅっと握りしめて、何とか、自分の中のそれを抑えた。

私達を見ていた会場のお客さんが、コールを続ける。だけど、それはさっきと少し変わっていて、前方から後方へと、その言葉の波が広がっていった。




「「「「「シーオーンっ、つーむーぎっ、シーオーンっ、つーむーぎっ、…」」」」」




手拍子が、声が、期待がこもった瞳が、私に向いている。…いいの?私がまだ、歌っていいの?喉の奥がかっと痛くなって、瞼が熱くなる。握りしめられたマイクが、苦しそうにぐっ…と軋んだのが聞こえて、私は我を取り戻した。

ごめん、ごめん、ごめん。謝らなくてはならないことは山ほどあって、でも求められているものは、本当に伝えなきゃいけないものはそう、ただの言葉じゃなくて、きっと旋律の中にあるから、だから…

「ありがとうっ」

それだけしか、伝えられなかった。そんな私の頭を、シオンの手が撫でる。

温かい、いつも私に差し伸べてくれる手だった。


「いっくよぉぉぉっっっ‼‼」


シオンが珍しく地声で叫ぶ。

それに呼応するように、会場のコールが止み、そしてうおおおおおっっっと雄叫びが上がる。親衛隊をはじめとする、シオンや、私達のことが大好きな人達の声だ。

シオンは颯爽と身を翻し、ドラムの椅子に戻って、そしてマイクスタンドの高さを自分に合わせた。

それを見て、体の奥底、何かが滾るのを感じた。あぁやばい、上がって来る。ぞくぞくするほど心待ちにしてた、前人未到の音楽の予感。思わず足を踏み鳴らす。

定位置に戻った一年生達がこちらを見て頷く。シオンは何も言わず、ただ顎をしゃくって、不敵に笑ってみせた。


あぁ最後だ。でも、最高かもしれない。








私は腕を振り上げて、全身を使って叫んだ。




「ラスト、お願いしまああああっす‼」




歓声に続いて、シオンのスティックが鳴る。

カン、カン、カンカンカンカン。








瞬間、これまでで一番肌を震わせる音が響き渡る。

ピックを動かす手が止まらない。それに共鳴するように、ベースもキーボードもドラムも、全てが色濃く音を奏でる。

全身を楽器にしたいくらい、今は、音に対する気持ちが止まらない。足で激しくリズムを取ると、制服のスカートがちらちらと太ももを擦った。そう、私達のステージ衣装は制服だ。等身大の自分を表す服。今は当たり前だけど、いずれ必ず脱いでしまう一張羅。他のバンドのきらびやかな衣装と比べて、昔はこれを、少し味気ないと思ったこともあった。だけど、今なら分かる。

これを着ていたから、私達は子供でいられた。まだ大人じゃない、弱い自分を認めることが出来た。余計なものを背負うことなく、ありのままでいることが出来た。ぶつかることも、仲直りすることも、言いたいことを言うことも、そして、こうやって、心から何かを楽しむことも。大人になったらできないかもしれない、たった一瞬の、雨上がりの虹のような奇跡に近い時間を、めいっぱい味わうことができる。

全く違う音色を奏でるはずの音が、それぞれの全力をぶつけ合う。音階、音質、奏法、全部違うのに、どうしてか、心臓を揺さぶるほどの衝動を与える。あぁ、そうだ。私、これが好きなんだ。




《あぁ、簡単に

大人になんかなれっこない

弱虫で臆病な僕は

今年も日差しに背を向けた》




重なる声。それはいつもより少し高く、私より低い。後ろを振り向く。

シオンは笑っていた。片方だけ唇を吊り上げた、いじわるで可愛らしい笑み。

私にボーカルを押し付けるんでしょ。お手本、見せてよね。

そんな声が聞こえる。そのたびに何度も、私のギアは上がっていく。シオンのスティックを振る腕も、それと同じようにどんどん激しくなる。



《傷つくことにも体力は必要で

受け止めることはもっと難しくて

楽しくなんてなくていいから

夏なんて来なければいい》



この曲は、私達の持ち曲だ。これまで、どの音楽よりも歌ってきた。だけど今日は一番上手な自信がある。だってほら、こんなにも楽しいんだから。

後ろを振り向くと、ぼろぼろ涙をこぼしながら、まっすぐ前を見て鍵盤を叩いている一年生ちゃんと目が合う。一瞬、表情が固まったけれど、絶対に手は止めなかった。焼き付けるようにこちらを見ながら、ずっと。

隣の一年生君もベースを弾き鳴らしながらこちらを見ている。誘うように笑ったので、ボディを前に出して、お互いに挑発し合うように音をぶつけ合った。



《「いつまでそうしているの?」

腕を引かれた先は最後尾

「遅いから何も見えないよ」

頬を膨らませた君の

不満そうだけど微笑んだ

そんな表情が僕には見えている》



そう、私にも、腕を引いてくれる人がいたんだ。

しっかり者で可愛くて、でも弱いところもあって。ドラムを叩く手はとても綺麗だけど、同じくらい強いんだ。

無色透明だった私の世界を、もう戻れないところまで色づけていった。

ねぇ相棒。

顔を上げて目を合わせる。


いけるよね?

当たり前でしょ?




《大きく咲いた花火が

君の瞳の中で輝いた

これまでに見た何よりも綺麗で

僕は口をつぐむしかなかった》




サビに辿り着く。他の楽器もボルテージが上がっていて、音にエッジが効いている。それが最高に気持ちいい。

顔を上げると、そこには全力で音楽を楽しむお客さん達がいた。手を挙げて、頭を振って、熱すぎるほど熱されている。いつの間にか出番の終わった演者の方々も出て来ていて、そのノリが広がっていく。

この人達がいてこそのライブだ。今日は驚かせてしまったけれど、ちゃんと最後まで聞いてくれた。本当に、感謝しかない。

更に上げた視線の向こう、そこに、大切な人達を見つけた。


タクミ先輩、そして夏樹先輩。


二人はこの空間の中で、唯一、こちらをまっすぐ見据えていた。タクミ先輩は目を細めて、安心したような表情をしている。夏樹先輩は、わかってたよと言うように、ほんのり口角を上げていた。




そうです、先輩。これが、私の届けたい思い。そして、答え。


大切なものは、大切な人に渡します。


これが、ずっと自分の心から目を背けてきた、私の本当の気持ちだ。だから先輩にも見て欲しかった。

私の大切な人…先輩にも、手探りだけど出した答えを、それを導き出した私のことを、ほんの少しだけだけど、私の成長を、直で感じて欲しかった。




《本当は言いたかった言葉を

八重歯でぐっとすり潰した

火花と一緒に散って

いっそ消えてしまえばよかったのに

舌の上に残ったままの

苦い気持ちと精一杯の言葉》




さぁ、最後だ。

言葉も時も有限で、終わりは平等に訪れる。

だからこそ、その一瞬に、眩しいほどの輝きを残したいと、全力をかけるんだ。

最初で最後の、お客さんの前で響かせる私達の声。

叶わないけれど、もしかしたら、口に出せば、巡り巡っていいことが起きるかもしれないから。


楽器の音が止む。

それと同時に振り向いて、息を合わせて吸った。




できることならさ、




視線で伝える。きらりと光ったアーモンド形の瞳は、同じことを言っていた。




《「来年もまた」》




わああああっ、鳴りやまない歓声。その中で、最後の一音まで、一つ一つ奏でていく。

ねぇ、私がどこかで歌っていたら、弾いていたら、聞こえるよね。

だからさ、シオンも叩いて、歌い続けてよ。

どこにいたって、絶対に聞くから。


そして諦めないから。

絶対にまた会える。私達が私達である限り、絶対に。




フェードアウト。音楽が終わる。

あぁ、終わってしまった。だけど、うぅん、言葉じゃ上手く表せられないね。

でも、最高とだけは言える。

これ以上ないよ。もしあるとしたらそれは、私達だけが更新できる代物だ。

次に会って、お互いパワーアップした私達だけが。




自然と四人で集まって、一列になって手を繋ぐ。皆、やり切った顔で笑っていた。右にはシオン、左には一年生ちゃんその向こうには一年生君。

シオンの手は熱く火照っていた。



「「「「ありがとうございました!」」」」



深々と頭を下げる。


頭を貫く歓声が、いつまでたっても止まなかった。




ありがとう、シオン。

遠く離れたとしても、シオンがくれたこの経験は、絶対に私の何かを変えてくれたし、決してなくならないよ。

だからどうか、シオンも、音楽を手放さないでね。

また会うために。私達の道が再び繋がる、そのときまで。






ぎゅっと、シオンの手を握りしめた。

シオンも、同じように返してくれた。


それだけで、十分だった。

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