人間不信の8歳男児と知恵者・長者


 「健太。鍋を出してくれるか?」「はい!」寡黙が巻貝とわかめを鍋に入れ、健太は火力を調節。完成した巻貝の汁物を保温用の水筒に入れて肩にかけ、徒歩でギャーベージタウンに向かった。

 

 猛暑で倒れ込んだ8歳の男児・エンリケにオスのカミツキガメ・長者(58歳)が駆け寄り、氷のうを当てていた。「長者さん。配達に来ました」「寡黙か。入れ」

 凍らせたタオルを首に当てられても、微動だにせず健太をねめつけていたエンリケが「健太お兄ちゃん。どうして人間は他の人にいばるの?」と涙声で聞く。「自分が相手よりもまさっていると思うからかな」と答えると、大声で泣き出す。

 慌てる健太に「エンリケは富裕層の男に罵られた経験から、人間不信なんだ」と寡黙が説明する。石の上にいたイシガニたちがテケテケと駆け寄り、落ち着かせた。

 

 「穏和とオオグチボヤの水仙が獲った、巻貝の汁物だ」エンリケの前に、寡黙が湯気の立つ輪島塗のおわんと収穫し炒った枝豆を置く。完食後、「ありがとう」とうれしそうな笑顔を見せた。

 「俺、この町に初めて来た時に驚愕してさ。漂着物がいかに多いか、実感した」「正直だな。ワシの知恵を渡そう」長者がひしゃくの水で健太の手を清め、オクラから得た『粘り強く続ける知恵』が譲渡された。


 宿泊施設に戻ると、ジーナが青果店で買ったトマトの苗を取り出していた。「土壌の改良が必要ね。健太くん、軍手を用意して」「はーい。五円も手伝ってくれるか?」「うん」

 

 「ジーナさんって、苗をよく買いますよね」「青果店に勤務してたから」小声で答え、顔を伏せる。苗を植えたあとに、五円がヒレで土をならしていく。

 「古着店に勤めていた妹の休職後、竜を狩るゲームに熱中・課金し、徐々に身だしなみも気にしなくなっていた。ハンマーヘッド諸島に飛ばされて寡黙さんと出会い、生活改善の一環として海中でゴミを集め始めたの」

 苗を健太に渡そうとした時に頭痛を感じ、気を失って倒れ込む。健太が慌てて寡黙を呼びに行く声が響いた。


 


 

 


 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る