2つの町と五円、利発との再会
健太とジーナは手書きの授業が多い学校で書道の練習を終え、胸元に銛の刺繍が入ったベージュのベストとズボンを着用した寡黙とともに漂着物専門店が立ち並ぶヴィンテージタウンに来ていた。
「青果店もあり、1日10便水上バスが出ている」寡黙が説明し、青果店の男性店主に「マンゴーとレタス、アボカドをくれ」と言ってサメのヒレが彫られた紺色の硬貨・フィンを10枚渡し、紙袋を受け取った。
「パーカー、5着で5フィン!」通行人たちに呼びかけていたニシキアナゴが寡黙に気づき、「住処に帰れてほっとしました。ありがとうございます」と一礼した。
「健太とジーナに買う。仕事用の撥水シャツも2枚」「パーカーとのまとめ買いで5フィンにしますね。お礼です」寡黙は驚きながらも5フィンを支払い、陶器店へ向かった。
カメの置物を見ていた健太は棚の上にいた五円と目が合い、驚愕。「貫徹さんとしらさ、緻密から『顔が見たい』って伝言を預かってるんだ。元気そうでよかった」と笑顔を見せる。
「ありがとう」「うん。このあとギャーベージタウンで行われる清掃にも参加するよ」五円は箱の形になり、健太の風呂敷に入った。
「寡黙。ジーナに陶器のカップは渡したのか?」店主に聞かれ、「いえ」と答える。
「なに?長になって12年、惚れ込んでいるんだろう」店主は寡黙の肩をたたき、「吉報を待つ」と付け加えた。
水上バスに乗ると「このバスは、ギャーベージタウン行きです。悪臭に注意してください」と目つきの鋭い男性運転手・重鎮が乗客たちに呼びかけ、見習いの男子・利発が一礼。トマトやニンジンの皮から出る悪臭が漂い、漂着物が山積みになっている町に停まった。
健太とジーナは漂着物の多さに呆然としながら渡されたトングで皮や石を拾い集め、未着用の衣服をたたんで持参した風呂敷に収納。五円は製氷機に付着した汚泥や砂をヒレで取り除いている。
「ギャーベージタウンは服の過剰生産で破綻し、寂れた」重鎮が二人に説明し、「使ってくれ」と水をろ過するポンプと製氷機を渡した。
「健太!」車内の清掃を終えた利発が駆け寄って来て、嬉しそうに笑う。アーケードゲームに熱中し、対戦相手の意表をついていた同級生だ。
「座席の清掃とお客様に渡す地図の作成で、毎日忙しくて」「バスの運転手になるなんてな」
「面接時に言葉づかいと身だしなみを改善し、見習いとして勤務し始める。肩や足、胸元が出ている服装は禁止」「重鎮さんにしごかれただろ」「ああ」二人が話していると、重鎮が近づいてきた。
「健太。これを渡しておこう」防水ビニールに覆われた一冊の本だった。どうやら児童書らしい。
「ありがとうございます」「ああ。また清掃に参加してくれ」「健太!また話そうな」「おう!」
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