清掃員のジーナと密漁船
―――2週間後、朝7時。洗面所で顔と歯を洗っていると、青いダイビングスーツを着用したジーナが「健太くん、おはよう」と声をかけてきた。「おはようございます、ジーナさん」「髪がはねてる!身だしなみは大事だよ」「はーい」
トマトソースをつけた白ソーセージやイカの酢漬け、果汁したたるいよかんを食べていると「ゲームのない生活に慣れそう?」と聞かれた。「ええ。寝ている時、カーペットにあごをぶつけますけど」「順応が早いね」
ジーナは布巾で椅子の汚れを取りながら「密漁船が頻繁に来て、漂着した硬貨や紙幣が持ち去られてる」と声を潜めた。
浅瀬に向かうと、俊敏な動きでニシキアナゴの体から釣り糸を外して砂地に帰し、背ビレに斜めの切り傷があるアオザメに戻った寡黙が「健太。銛をつけた密漁船がうろついてるから、巡回に行くぞ」と言って健太を背中に乗せ、海中へ潜る。
「丸窓のついた一室に、サメの皮が保管されてますね」小声で言うと「ジーナに執着し追っている密猟者・ゴージャスの船だ。俺の弟も剥製になり、保管されている」と怒りのこもった声で答えた。
穏和と一緒に獲ったアワビを廃墟で食べながら「11歳の男子・緻密は、ゲームに毎月800万つぎ込んでます」とオスで112歳のジンベエザメ・静観に打ち明ける。「ゲームは人を熱中させ、抜け出せなくしてしまう。ジーナもハンマーヘッド諸島に来た当初は寝坊が多かったが、徐々に改善していった」と言って好物の海藻・アカモクを食べ終え、胸ビレで健太のほおをなでた。
海中で発見した紙幣を素焼きのつぼに保管してふたを閉め、机の上に置く。日記を書いているとジーナが荒い息を吐きながら茂みに逃げ込み、「健太はどこだ!」とほおが腫れ上がったゴージャスの怒声が響いた。
灰色のシャツと黒いズボン、サンダルを着用した寡黙がジーナにハンカチを渡し、「健太。つぼを預かっていいか?」と聞く。「ええ」つぼを渡すと、ゴージャスと部下の男が茂みの前を通り過ぎていくのが見えた。
「肝が冷えた」茂みから出た健太は真っ暗になった浅瀬に座り込む。「ゴージャスに剣の刃先を向けられたの」ジーナが小声で言い、涙をハンカチで拭く。
寡黙が色あせた2本のバチでコーヒーの缶をたたくと「何用か」とゆったりした声とともに200歳でオスのシロワニ・泰然が現れ、巨体と鋭い目つきにジーナが顔面蒼白になり気絶した。
「泰然様。ゴージャスの動きは?」「ジーナを捕えようと、『スマートグラス』と呼ばれ別の場所に映像を送れるものも用意している」
黒いめがねを着用した寡黙は「廃墟のひびや海中の漂流物がはっきり見える」と驚く。泰然は「清掃や船内全体の把握に活用しよう」と豪快に笑い、すみかの洞窟へ戻っていった。
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