小6男子健太、ハンマーヘッド島へ

porksoup (ポークスープ)

口論とハンマーヘッド島


 深夜1時。「健太!まだゲームをやっているのか⁉」廃品回収業者で51歳の父・貫徹の怒声が響き、小6の息子・健太のゲーム機を段ボールに投げ込む。9歳の弟・一途は大声で泣いていた。

 「俺のつらさや困りごと、把握してよ!」「ゲーム三昧で家事もやらない息子のことなど、把握しない‼」一喝された直後、健太の体が砂に覆われ消えた。



 マングローブが浮かび、太陽光が差し込む海の前に着地する。「『ハンマーヘッド諸島』?」穴だらけの運動靴で浅瀬を歩いていると、「あ~!踏まないで~‼」と声がし、1体のオオグチボヤが砂の中から顔を出した。「ごめん!俺は健太」「わたしはオオグチボヤ。よろしくね」


 「困っていることは?」「ゲームがやめられなくて、寝坊が多い。字を書いた時に、紙からはみ出る」「わかった」オオグチボヤはマングローブの茂る廃墟へ潜っていった。


イカを食べ終えた巨体のアカシュモクザメが水面から顔を出し、健太の前で静止した。「僕は穏和。ハンマーヘッド諸島では運動や家事、清掃の習慣をつけながら生活を改善する」と言い、シャワールーム付きの宿泊施設や無料で通える学校を指す。

 「手書きを習慣にする授業が2時間ずつ行われる」「へー」「字の大きさを調整してみよう」と言って便箋と鉛筆を用意し、健太の練習を見守る。「これだと見づらい。線の上に収まるように書いて」20回の練習で形が整い、見やすくなった。


 シャワーと洗顔を終えた健太に、穏和がTシャツとズボン、薄手のパーカーを渡す。「未着用の漂着物なんだ。日光消毒して活用する」「へー」漂着物のハサミと新聞紙を使い、健太の肩まで伸びた髪を切って行く。

 「短くなった!ありがとう穏和さん」「迷路で、網と銛を集めて来て」「おう」


 汗だくになりながら使い古された銛と網を集めて浅瀬に戻ると、「ありがとう。密猟者対策の巡回用なんだ」と穏和が声を潜める。

 「パイナップルやチェリートマト、いよかんの木が植えられてる」「水分を抜いて乾燥させ、朝食にも出してる」オオグチボヤが説明し、「保管庫も漂流物で、干物も作れるよ」と付け加えた。


 濃紺の短髪で灰色のシャツに黒いズボンとサンダルを着用した目つきの鋭い男性が、銛を持って浅瀬を巡回している。

 「健太、彼はライフセーバーの寡黙」「はじめまして」「おう。清掃員のジーナと一緒に、チェリートマトを保管庫に運んでくれ」「はい!」

 青く染めた髪を結んだ33歳のジーナが「朝食で出されるソース用」と説明しながら健太が収穫した300個のチェリートマトの水分を抜いて保管庫に入れ、嬉しそうな笑顔を見せた。

 個室で日記を書きながら(ゲームなしの生活に慣れるぞ!)と意気込む健太を、密猟者の男性が憎悪のこもった目で見ていた。



 

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