第2話

ブツッ

 昔ながらの放送機器によくある、起動時の雑音がなる。起床の時間だ。

 直後に起床の合図が鳴り響く。全員が飛び起き、反射的に着替えを始める。

 教官の清掃点検に間に合わなくてはまずいので、私も即座に制服を羽織り、身なりを整え、ベッドを整える。

 ドアを開け、戸と平行になるように部屋の入口に立つ。

カッカッカッカッ…

 教官の足音が近づいて来るのが聞こえる。

 そして、隣の部屋の前で足を止め、90度方向転換し、部屋の中を確認している。

「第80営内班、清掃終了しました!」

 隣の部屋長の声である。

 少し緊張も見える聞き慣れた声だ。

 教官が少し苦い顔を見せた後、部屋の中へと入っていく

バサッ ドスッ バラバラ

 掛け布団は放り投げられ、マットレスは地面へと叩きつけられる、枕が宙を舞い、部屋の中がめちゃくちゃに荒らされていく、これは嵐と呼ばれておりかなり恐れられている。

「シーツが整ってない!やり直し!」

「了解しました!」

カッカッカッカッ…

 教官が近づいてくる。

「第81営内班、清掃終了しました!」

 …

 不安と緊張に襲われながら結果を待つ。

「問題なし!」

カッカッカッカッ…

 教官が去っていく音が聞こえる。安堵からか少し気が緩むが、そうしてはいられない。

 食堂へと向かう、最近導入されたバイキング形式である。

 スクランブルエッグ、キノコのバターソテー、様々な種類のトマトや玉ねぎが入ったスープ、小松菜のバターソテーなど美味しそうな沢山ある。

 以前の刑務所の食事のような給食形式のメニューよりだいぶ改善された。

 適当に食べ物を皿によそって席につく、娯楽の少ないこの環境で数少ない楽しみだ。

 


―リャザン空挺軍大学 会議室―


「我々は今からレニングラード州のヴィボルグに向かい、そこで定点哨戒および偵察哨戒を行う。地図と配置場所はスマートフォンに送信してある。6人班を組んで哨戒任務につけ。」

「「「「「「了解しました」」」」」」」

「認識票を渡しておく、つけておけよ」

 ステンレス製で氏名、生年月日、性別、血液型、所属軍、認識番号が記載されているものだ。

 ヴァルヴァーラ・メルクシェヴナ・ニキートヴァ、2001年7月23日、女、B型、ソビエト連邦空挺軍の様に記載されている。

 Il-76に乗り、ベゾヴェツ空軍基地に向かう。



―Il-76 貨物室内―


「ヴァルヴァーラ・メルクシェヴナだ。よろしく頼む。」

「セルゲイ・ニキートヴィチだ。よろしく」

「ミハイル・ミハイロヴィチだ」

「イヴァン・マキシモヴィチだ。短い間だがよろしく。」

「ドミトリイ・イリイチだ。どうもよろしく」

「エカテリーナ・イヴァノヴナよ。よろしく!」

「私達の班は第4区画に配置される。気を引き締めていこう。」

「「「「「了解」」」」」



―レニングラード州 ヴィボルグ―


「我々はレニングラード軍管区隷下の第32歩兵旅団と合同で哨戒任務にあたる。各班配置につけ」

「「「「「「了解しました」」」」」」」

 徒歩で配置場所へと向かう。燦々と太陽が輝き、青い空が祖国を照らしている。少しピリついた空気を除けば非常時とは思えない平和さだ。

………

「ここだ。我々はドローンによる偵察哨戒を行う。君たちはあそこにある監視塔から定点哨戒を行なってくれ。配置人数は1基あたり2人だ」

「「「「「「了解しました」」」」」」

……

 塔の近くまで歩くとコンクリートの土台に木製の骨組みと柵がついた簡易的な監視塔が設置してあった。

 全長は15mくらいだろうか。風通しが良さそうだが少し頼りない。

……

 階段を登り、望遠鏡で国境付近を眺める。

「何もない…平和だな」

 味方の軍用ドローンが飛んでいる以外は特に異常はない。平時となんら変わらない光景だ。

 このまま何も起こらなければいいが…

「エカテリーナ、そっちはなにかあった?」

「なにもない。平和そのものね」

ドゴォォォォン

「「⁉︎」」

 突然の轟音に驚き、音の方向を確認する。

 どうやらドローンの撃墜音のようだ。

『こちら第32歩兵旅団。敵ドローンの攻撃を確認。至急攻撃元の特定を要請する。オーバー』

『こちら司令部。了解した』

 爆発音を合図に周囲の空気が張り詰める。

 平和な空気感が一瞬にして戦場へと変化する。

 今回の訓練は困難なものになりそうだ。

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