第1話
私は昔から正義感が強い人間だった。道行くご老人を助けたり、探し物を手伝ったり。
周りから感謝されることの優越感に浸っていたのだろう。
それが発端となって、私はリャザン空挺軍大学に入った。
祖国を自分の手で守りたいと思ったのだ。
私はそこで様々な訓練を積んだ。
武装障害走、冬季戦技教育、市街戦を想定した射撃訓練、空中機動訓練、近接戦闘訓練、シベリアでの雪中行軍、空挺降下訓練、4日間不眠不休の行進訓練など、それらは1年中行われた。
確実な任務の遂行のため、精鋭のみが食らいついていける訓練だった。
「我が軍に凡人はいらない」
教官の言葉だ。
その言葉の通り、成績が芳しくない者や反共産主義的な者達は退学となった。
しかし祖国の為、音を上げるわけにはいかなかった。
偉大なるソビエトを、屈強なる祖国を、母なるロシアを守り、人民の盾となり、レーニンの名のもとに社会主義の優越性を証明するため、血の滲むような努力を続けた。
そんな事を続けて3年が経った。私は今、1週間後の前線配備に向け試験を行っている。
―リャザン空挺軍大学 射撃場―
コンクリートの外壁で仕切られた射撃場、150m先に設置されているのは人型の的10体。射撃の正確性や反動の制御能力を測る試験である。
ピー
無機質なブザーが会場に鳴り響く、射撃開始の合図だ。
パァン パァン パァン パァン パァン パァン パァン
小指の爪くらいの高さに見える的に照準を合わせ、撃ち抜く。
長年の訓練のおかげか、これくらいは一瞬でできるようになった。
パァン パァン パァン
「記録、7秒6」
記録係が告げる。まあまあと言ったところか。
「射撃試験終了。次は指揮・判断の試験だ。ヴァルヴァーラ・メルクシェヴナ士官候補生。ついて来るように」
「了解しました」
教官の後に続き、大学内を移動する。
「ここだ、座りたまえ」
白い壁にフローリングの床。なんの変哲もないただの部屋だ。
「さて。ヴァルヴァーラ・メルクシェヴナ士官候補生、想定環境:森林、想定条件:島嶼占領、この状況で取るべき戦術を述べよ」
「はい、敵陣地付近に散開し包囲、ゲリラ戦術を用いて攻勢箇所において主導権と数的優位を取ることが最適かと考えます」
「次、想定環境:都市部、想定条件:都市占領、かつ敵戦力が優勢の場合は?」
「味方陸上部隊、戦闘機部隊と連携を取り敵主力を正面に引きつけた後、迂回し敵側面を3倍の数的優位を確保し叩きます」
「次、想定環境:都市部、想定条件:防衛、かつ敵戦力が優勢であり増援が見込めず包囲されている場合」
「はい、一点突破かつ遅延部隊を設け、離脱します」
「次、想定環境:山間部…」
30分後
「これにて試験は終了だ。疲れただろう。明日はフィンランド国境付近での哨戒訓練だ、よく休む様に」
「お気遣いありがとうございます。アレクサンドル・セルゲエヴィチ教官」
卒業がかかった試験とはいえ、大分緊張した。
さて、寮に戻って寝るとするか…
―リャザン空挺軍大学 寮 082号室―
「おかえり。ヴァーリャ。試験は順調だった?」
「ああ、エカテリーナ。うまく行ったよ」
「相変わらず他人行儀ね。ヴァーリャは」
「しょうがないだろう?そういう性分なんだからさ」
彼女はエカテリーナ・イヴァノヴナ・エローヒナ、ルームメイトだ。
「そういえば、あんたがいつも見てるプラウダ(新聞)、借りてきたわよ」
「ありがとう」
“祖国防衛戦争、戦果は上々。敵損害は我が軍の3倍”
“5ヶ月前より開戦した祖国防衛戦争、アメリカ率いる帝国主義連合(NATO)は愚かにも我が祖国に戦いを仕掛け、我が祖国を破壊せしめんと結託している。
偉大なるウラジミール・ウラジーミロヴィチ書記長はソビエト連邦最高会議にて素早い戦時体制への移行を採決し、国内の生産を軍需物資へと集中させ、自給自足経済への移行を開始、予備役等の召集も行われた。
また、勇敢なる第1ベラルーシ戦線の部隊は迅速にスバウキ回廊(リトアニアとポーランドの国境部分)を抑え、ラトビア東部の同胞の解放へ貢献した。
祖国は着実に勝利へと前進しつつある。ソビエトに栄光あれ!”
戦況は好調の様だ。願わくばこのまま勝利へと向かいたい。
「もう少しで卒業ね…あんたは戦場に出る覚悟はできてる?」
「もちろんさ。私たちはこの訓練で十分な準備を積んできた。私たちは空挺軍、エリート中のエリートさ。どんな任務でも完遂できるさ」
ベットに横になって天井を見上げる。今でも同志達が祖国の為、戦場を飛び交っているであろう空を見上げ、敬意の念を送る。
「そういえばエカテリーナ。今回の防衛戦争を君はどう思っているんだい?」
「もちろん、祖国のために命をとして戦うつもりよ。でも…少し怖い。“人を殺すという恐怖”これはずっと消えそうにないわね」
「その恐怖は誰もが感じるものさ。しかし、それを乗り越え国を守るために私たちは訓練を続けてきた。しかし、仲間と共に一緒に進むことで、その恐怖も薄れると思うよ」
「ええ、祖国のために、勝利の為に」
エカテリーナが拳を突き出してくる。私も拳を握り、突き合わせる。
「正義と栄光のために、共に戦おう」
ガラガラガラ
「お前らいつまで電気つけてるんだ?もう消灯の時間だぞ」
当直の教官が注意しに来た。内容が聞こえていたのかあまり怒っていない様子だ。
「「申し訳ありません」」
「まあいい、早く寝ろよ」
「「了解しました」」
ガラガラガラ
教官が出ていく、明日も早いしそろそろ寝るか。
「おやすみ、ヴァーリャ」
「良い夢を、エカテリーナ」
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