第34話 運の良い坂堂の休日


 今日は休日、訓練も無い。

 暖かい日差しに冷たい風、とても気分が良い。

 こういう日は1人で過ごしたいと、城下に付いてきた騎士さん他数名を撒いた。


 もちろん気分が良い以外の理由で撒いたのもある。

 やって来たのは刀鍛冶の店だ。

 未だに名前を知らない人だから、今日は友好でも深めようと思っている。


「おはよう」

「おっ、勇者候補様じゃねぇか。うん? 1人か?」

「そうだけど」

「まあいいか。それでどうした?」

「刀の進捗と用事で」

「そうか。それじゃ、刀を見してみろ」


 特に断る理由も無かったため、刀を渡した。

 会話をしようと思ったのに、店主はジッと刀を見ている。


「この刀はどうだ?」

「最初に使っていたのより魔力を流しやすいし、重さも気にならなくなってきた」

「そうか、それで刀の前にそっちの用事済ませとくか」

「え、ああ。これなんだけど」


 俺はバッグから赤い石を取り出した。

 それは鬼から取っておいた謎の石だ。

 カウンターに置いた瞬間、店主は目をカッと開き、石を手に取った。


「で、刀の進捗は?」

「は、はは、ハハハハハ! アッハッハッハッハ!」

「おい、どうした?」


 急に笑い出した店主が怖くて声を掛けると、一息ついてこちらを見た。

 頑固な人だと思っていた鍛冶師は、楽し気な笑みを浮かべている。

 俺は分かりやすく眉間をしかめて見せた。


「悪い悪い」

「その石を売りたいんだけど」

「おおッ、本当か! 刀は渡せないけど、短剣くらいならタダでやるよ」

「金は?」

「騎士様に文句言われたくないから渡さないよ」

「そう、わかった。それで刀の進捗は?」

「ハハハ。たった今、1からになったところだ」


 赤い石を見せて、最初からになったという店主。

 どうやら赤い石は刀鍛冶に使うような素材だったと判明した。

 その後、俺は短剣を2本貰い、夕日が沈む前には帰ってきた。


「おっ、あきら。外に行ってたのか?」

「ああ、武器屋行ってた。そっちは休日何してたんだ?」


 渡辺は寝ぐせの付いた頭で話しかけてきた。

 服装も寝巻のままだ。

 

「朝から二度寝して、昼に起きて、また寝てた」

「ま、休日だし何してもいいけど、明日怠くならないか?」

「大丈夫だよ。あきらほどキツイ訓練してるわけじゃないからな」

「そのうち必要になると思うけどな」

「キツイ訓練が?」

「そう。少し前に聞いたけど、俺たち勇者以外のグループは魔物が活発化した国を回るんだろ?」

「そうだな」

「そこで自分たちよりも強い魔物が出てきたら、どうするんだ?」

「協力を求めるしかないな。現地の人に」

「俺たちさ、騎士よりも強いんだぞ。現地で強い奴なんてほぼいないだろ。たぶん」


 俺の言葉が伝わったのか、ずいっと顔を近づけてくる渡辺。

 

「ってことは、倒せなかったら、見捨てるか勇者を待つしかないのか?」

「さあ? 他の国の方が強い人は多いとか、めちゃくちゃ強い冒険者がいるとか、あるかもしれないけどな」

「まあ、少ないだろうな。現地勇者はいないのかな? はあ、訓練頑張るよ」

「がんばれ」

「俺さ、何であきらが訓練頑張ってるのか不思議だったんだけど、そういう事だったんだな。これから先の問題を考えて動いてた訳か」

「違うぞ」

「それなら、どうして?」

「魔法が楽しくて訓練してる。実力が少しずつ上がっていくからな」

「まあ。あきらはそういうのだよな」

「何で残念そうなんだ。いいだろ、楽しいわけだから」

「まあ、いいか。何だって」

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