第32話


 坂堂さんと混戦をしていた場所に戻ると、戦闘を終えて騎士達が片付けをしているところだった。

 生徒はおらず騎士だけで、野営地へ帰ろうかと考えていると、声を掛けられる。


「神本さん!」

「騎士さん、戦闘は終わったんですね」

「はい、それでお二人は何かあったんですか。奇襲するという話でしたが」

「はい。逆に奇襲を受けて戦闘をしていました。そのまま森の中で迷い、戻ってくるのが遅れました」

「どこで奇襲を受けたのですか?」

「はっきりとは覚えていません。奇襲を受けて態勢を整えるため一度この周囲から離れたので」

「そうですか。それでも無事でよかったです。一先ず野営地に帰りましょう」


 野営地に戻って、みんなに謝罪と説明をした。

 全員疑っている様子はなく、ただ心配してくれている。

 少しだけ罪悪感はあったが、その罪悪感も夕食時に帰ってきた最後のグループのリーダーによって消えた。


「随分と疲れてないか、神本」

「嶋野さん。オーガに奇襲を受けたから、恐らくはその所為でしょう」

「フンッ、おつかれサン」


 何だかやるせない気持ちでいると、坂堂さんが近くにいて、話を聞いていたようだ。

 ニヤリと笑いながら、話しかけてくる。

 

「生徒会長に対する勇ましさだけで、勇者になれる逸材だな」

「それにしたって、奇襲を受けたと言った相手を鼻で笑うことはないでしょう?」

「勇者の特権だ」

「特権というのは、鼻で笑う事ですか。それとも剣を光らせることですか?」

「ハハハハッ! 嶋野に聞かせてやりたいな、今の」

「まあ、そもそもは勇者が名乗り出てくれれば、この苦労も無かったんですけどね」

「それは……そうかもな。頑張ってくれ生徒会長」


 話の流れが悪い方に傾きだしたから、グループの場所に戻っていく坂堂さん。

 たとえ坂堂さんが今名乗り出ても、受け入れない人は結構な数いるだろう。

 私たちだけじゃなくて、異世界人側にもいるから苦労の方が多いはずだ。

 

 それでも、最も苦労するのは嶋野さんかもしれない。

 勇者という役になりたいのなら、誰よりも努力をしなければ結局は力不足で倒れるだろう。

 成り代われる役目だと思えないからこそ、嶋野さんの見通しは甘い。

 どうにかして約束の剣を抜かせる必要があるのかもしれない。

 剣を抜かせてしまえば、確実に勇者として認められるはずだ。

 その後の苦労も、倒れる覚悟も、全く持っていないだろうけど。


 食事中にグループの所に騎士が来て、黒いオーガがリーダーの群れはいないこと、全グループが実戦の目標を達成したから、明日には帰ることを伝えられた。


 食事を終えた私は、テントへ入り横になる。

 今日は上手く自分のしたいことを達成できた日だった。

 妙なオーガの行動から強い魔法を持っていると考え、坂堂さんを説得して共に討伐。

 その結果として、スキルをコピーすることができた。

 

 ステータス画面から、その成果を見る。

 新しく使用可能になった魔法は、影分身、変わり身、土弾。全てもしものために坂堂さんからコピーした。

 

 さらに今日一番の成果は2本角の黒いオーガからコピーしたスキル、『配下強化』

 それに加えて前回の実戦で鬼を発見した謎のスキル、『命の危機察知くん』


 『配下強化』の方はパッシブスキルというもので現状は発動しないようにしている。

 『命の危機察知くん』これは恐らくは神が関わっているスキルだと思う。名前からしてもそうだし、スキルが増えたタイミングも都合が良すぎる。

 人にスキルを与えられるなら、すぐにでも嶋野さんを勇者にしてほしい。

 それで、全てが丸く収まるはずだから。


 はぁ。

 私自身がどうすることも出来ない問題よりも、明日以降の訓練で盾を新しくしたいことをホーストンさんに伝えないとな。

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