第31話


 急いで帰ってきた騎士を先頭にして、戦闘が起こっているという場所に急ぐ。

 戦闘音とオーガの声が聞こえてからしばらく移動して、戦闘している場所を見つける。

 野営地からは随分と遠く、群れがいたであろう木々のない場所から、木がまばらに生えている場所まで広く戦闘が行われていた。

 オーガと人、オーガとオーガで混戦模様だ。

 

「私と坂堂さんで他グループが戦闘している反対側から奇襲します。皆さんは前衛と後衛に分かれて加勢してください。騎士は周囲を固めて援護をお願いします」

「神本さん騎士を数人つけます」

「いえ、大丈夫です。私達は奇襲して動き回るだけですから、集団戦になる方についてください」

「分かりました」

「はい。ホーストンさんの指示に従うようにお願いします。坂堂さん、向かいますよ」

「ああ」


 歩き始めた生徒会長に付いて行く。

 戦闘しているところを大回りして反対側に向かうんだろう。

 しばらく歩いていると、戦闘音も遠くなった場所で生徒会長はこちらを振り返る。


「坂堂さん、今回も前回と一緒です」

「っていうと?」

「全員が倒れる前に、こちらで倒してバレるのを防ごうということです」

「あー、あの群れか」

「はい」

「鬼ほどの強さはないだろ? 嶋野でも倒せるし、他の人でも倒せる」

「そうかもしれませんが、騎士は死に、何人か重傷を負うでしょう」

「そうか? 群れの規模は小さい、上位種もリーダー含めて3体だぞ。通常種を倒しておけばどうにかなるだろ?」


 生徒会長はジッと俺を見て、ため息を吐いた。

 ただそれは俺に対してではないようだ。

 

「はぁ。別の理由で私が倒したいんです」

「具体的には?」

「具体的には言いませんが、私自身が倒したいというのは大きな理由です」


 加えて、と続ける生徒会長は再度俺の目をジッと見て、話し出した。


「坂堂さんは自分であれば倒せる魔物に、他の人が殺されそうな状況で動かないという選択はできないでしょう?」

「それは、無理だな」

「そういう事です。疑わしくてもバレなければ問題ないんです。坂堂さんが動こうと考える状況は確実にバレるんですから」

「なるほど」

「そういうことです。混戦が続いている間に帰る方が疑われないので急ぎましょう」


 返事を聞くことなく生徒会長は走り出した。

 俺は現状、森のどこにいるか理解していないから、生徒会長に付いて行くしかない。

 だから連れ出された時点で、生徒会長のする事に付き合うしかないわけだ。

 生徒会長はそれを理解はしていないだろうけど。


 しばらく走り続けていると、生徒会長が歩きに変えた。

 先の方を見ると、群れを少し先に発見した。

 偵察はいないのか、群れには変わらず黒いオーガを含む上位種3体、通常種が15体。

 これからの戦闘をどう行うのか、提案してくるだろうと、待っていると生徒会長から肩を叩かれる。


「坂堂さん、どう戦いましょう? 通常種を減らしたいんですが」

「試してみたい魔法があったんだ。他の奴らがいたから使えなかったけど、今ならいいよな」

「それで通常種は倒せますか?」

「問題ないはずだけど、一応注意しといてくれ」


 邪属性の身体強化に通常の影分身を1体、更に19体の影分身を作り、それに魔法を仕込む。

 魔力消費量が多い魔法だから、一息ついてから生徒会長に準備ができたことを伝える。


「坂堂さんが突撃の合図をしてください。私は黒いオーガを相手しますから、他をお願いします」

「分かった。影分身が突っ込んでしばらくしたら合図する」


 影分身に指示を出し、俺達のいる場所とは逆の場所から突撃させた。

 オーガ1体に影分身1体を向かわせ、体にしがみつかせていく。

 上位種に向かわせた影分身はしがみつけずに攻撃を受けているから、仕込んだ魔法を発動させた。

 影分身の周囲に陽炎が揺らめき、次の瞬間には爆発した。

 爆発音の後、生徒会長に合図を出す。


「生徒会長」

「いきますよ!」


 生徒会長の背をゆっくりと追いながら、通常種をすべて倒したことを確認した。

 上位種3体を見ると、1体がケガをしていて黒いオーガは無傷。

 どうやら1体が3体分の影分身を受けて瀕死状態になっているようだ。

 生徒会長は黒いオーガの所に向かい、上位種1体がその後を追おうとしてため、横から土の弾を撃って視線をこちらへ向けさせる。

 

 上位種には土の弾が上手く効いていないようで刀に武器強化を使い、拳の攻撃を避けながらオーガの脇腹を切り裂く。

 背後で腹を押さえながら膝をつくオーガの首を落とした。

 生徒会長と黒いオーガの戦闘に援護は現状必要ないと判断し、瀕死の上位種の首も落とす。

 未だに魔物の効率的な倒し方が分からないから、強引に爆発させたり首を落としたりしている。

 帰ったら調べるか。


 2体を倒し終え、生徒会長と黒いオーガの戦闘を見ると、鬼よりは弱いものの長期戦になりそうな感じだった。

 拳を盾で受け、剣と魔法で攻撃をしていくが、黒いオーガは魔法を魔法で、剣を拳で迎撃している。

 少しの間見ていると、生徒会長の視線がこちらへ向いた。

 

 顎でこっちに来いと示してきて、恐らくは加勢するようにと言っている。

 戻って戦闘することも考えて節約して勝つつもりらしい。

 生徒会長の方へ影分身を向かわせ、爆発する影分身と一緒に黒いオーガへ走り込む。

 邪属性の身体強化、体の近くに魔力の壁、生徒会長の方へ向かう影分身との距離を確認して問題ないと判断した。


「おい! こっち向け!」


 言いながら威力を上げた魔法で攻撃すると、生徒会長よりも俺が面倒だと判断して攻撃してくる。

 振りぬかれる拳の前に体を晒し、変わり身を発動した。

 変わり身で生徒会長の近くの影分身に移動して、黒いオーガから急いで離れていく。

 走りながら仕込んだ魔法を発動させると、爆風で身体を押されて体勢を崩した。


「坂堂さん、爆発早いです」

「わるい」

「オーガは?」


 背後を見ると、黒いオーガは膝立ちの状態で傷だらけだった。

 生徒会長はそれを見て、黒いオーガへ近づき碌に動かないことを確認したのか、オーガの首に手を添えている。

 もしかして、火の魔法で首を切るとかエグいことするのか?

 意図が分からず見ていると、頷いた生徒会長は片手剣を抜いて首を刎ねた。


「坂堂さん、片付けをして帰りますよ」

「分かった」


 影分身を5体出し、オーガをひとまとめにして土魔法で穴を掘る。

 オーガ達を掘った穴に放り込む影分身を見ながら、生徒会長に頼みごとをした。


「魔力使うの怠いからクリーンかけてくれ」

「そうでしたね」


 自分の鎧を見て、土まみれだったのを思い出したのか、すぐにクリーンを掛けてくれた。

 しばらくして影分身達はオーガを穴に入れ終えた。

 最後に土魔法で表面がカチカチになるまで固め終えると、急いで帰る。

 まだ戦闘中であってくれと思いつつも、さすがに終えてるだろうなと冷静な頭は考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る