第30話


 翌日、移動も含めれば実戦の4日目だ。

 朝食を終えると、顔と名前を知らないグループに割り当てられた群れのいる場所を探索していた。

 同じ森だから特に変化も感じない。

 

 群れの場所を把握できていないのは出現範囲が広いからだろう。

 それも偵察の場所を見つけさえすれば、楽になると思うんだが、それだけでは見つけられない理由があるんだろうな。


 周囲の警戒を騎士に任せて、生徒会長を先頭に森を歩いていると後ろから騎士ではない足音が聞こえてきた。


「坂堂さん、お話が」

「ん? ジン、話って」


 騎士と共に行動を続けていたジンが話しかけてきた。

 基本仏頂面だから、この実戦4日目で初めて話しかけてきても真剣な話か分からない。

 性格上無駄なことはしないだろうから、重要なことだろうけど。


「はい、昨日戦闘をした上位種よりも強い魔物がいることを感知しました」

「感知? どうやって感知したんだ?」

「はい。周囲を漂う魔力に自分の無属性魔力を流し、感知しています」

 

 全く理解できないが、俺が攻撃を感知している魔力の壁と同じようなものだろう。

 ジンを見て、再度本当の事かと問いかける。


「間違いないんだな?」

「はい。確信してます」

「分かった。生徒会長に話すから、来てくれ」

 

 先頭を歩いている生徒会長にジンの話を説明すると、ジンが先導することになった。

 迷うことなく歩いているジンの後に続いていると、生徒会長に肩を叩かれる。


「坂堂さん、あの人は何者ですか?」

「ジン、男、年齢不明」

「詳細は分からないんですか?」

「わからん。国が許可してるんだし、問題ないだろ。たぶん」

「そうですか。どうやって場所が分かったのか聞きました?」

「ああ。周囲を漂う魔力に、自分の無属性魔力を流して感知、だったかな」

「はぁ。坂堂さんは周囲を漂う魔力、分かりますか?」

「いや」

「そういう事です。漂ってはいるけど、魔力として感知できないのが周囲を漂う魔力です。でも私達の魔力は体外に放出すると、すぐに分かります」

「そうか。魔力操作が異常に上手いわけか」

「そうですね。それこそ達人とか言われても、おかしくないくらいですよ」


 生徒会長からの話を聞いていると、ジンが振り返って静かにするようにと合図を出した。

 強い魔物の近くに来ているということだろう。

 静かに歩き始めたジンに続いていると、木々の隙間からオーガが見えた。

 そこから更に少しだけ歩いた場所で止まり、オーガ達を見ていく。

 通常種に見えるが体の大きいオーガ15体。

 上位種が3体、そのうちの体色が黒い2本角のオーガがリーダーだろう。


「これって、探してた群れなのか?」

「いえ、恐らくは違うでしょう。上位種が5体いる群れのはずですから、この群れの所為で場所を移動しているのかもしれません」

「さすがに俺達だけで倒すってわけにもいかないか、神本」

「そうですね、高橋さん。冷静で助かります」


 高橋が冷静になったのは、群れのリーダーをしている黒いオーガの上位種が異質だからだろう。

 黒いオーガが指示を出すと、通常種を含めた全員が拳を握り、正拳突きを始めた。

 魔物が訓練で強くなるなら、人間は早々に倒れているはずだから、あれがおかしいだけだろう。


「神本さん、私達は他のグループに報告する必要が出来ましたから、一度野営地に戻りませんか?」


 騎士に提案された生徒会長は了承して、俺達は昨日よりも早く野営地へ戻ることになった。

 野営地に戻ると騎士1人だけ残り、他の騎士は森に入っていく。

 睡眠か訓練しかすることのない俺はジンを呼んだ。


「それで感知するのは、具体的にどうやればできるようになるんだ?」

「まずは周囲に漂う魔力を知覚できるようになることです。」

「え?」


 無理って話じゃなかった?

 空気中の窒素を呼吸で感じてくださいとか、海に砂糖ひとつまみ混ぜたから甘味を感じろとか、そのレベルの話をしているのか?

 魔力操作だけで済む話じゃないらしい。

 まずは知覚できないものを出来るようになることからか。

 うん、無理じゃないか。

 

「どうやるんだ?」

「帰ってからでないとできない訓練と気長にする訓練があります」

「へー、どんなの?」

「気長な方は自分の魔力を体内に押し留めて、体外の魔力を知覚できるまでジッとすることです」

「食事までそれするけど、もうひとつは?」

「体内の魔力を使い切って、朦朧とした意識の中で周囲の魔力を知覚する方法です」

「それをすれば、絶対に知覚できるのか?」

「いえ、何度も何度も行い、意識を手放すことなく魔力に飢えなければ知覚できません」

「そ、そう。検討はしとく」


 過酷すぎる。

 体からギリギリまで水分を失くして、呼吸で水分補給しろってみたいなものか。

 とはいえ、俺はまだ魔力を使い切ったことがない。

 魔力を使い切ると、翌日に響くかもわからないから一度は経験してもいいかもしれない。


 テント近くのタープを張った場所で横になり、発動していた魔法を解除。

 周囲の魔力の壁が無くなり、影分身は土塊に、そのまま体内に魔力を押し留めていく。

 呆気なくそこまではできてしまう。だが、そのまま周囲の魔力は知覚できることなく昼食の時間になった。


「坂堂さん、私たちは訓練してましたけど仮眠してたんですか?」

「違う。ジンから感知の方法教えてもらって訓練してた」

「進捗はどうですか?」

「全くできる予感がしない。魔力空にして訓練する方が上手くできそうだ」

「それはまた、過酷な訓練ですね」

「その訓練に次いで、この昼食はひどい」

「はいはい。昼からは群れの捜索しますから、しっかり食べて休みましょう」


 昼食も終わり、休憩をしていると森からガチャガチャと音がした為、他のグループが帰ってきたのかと見ていると、騎士が走ってきた。

 1人だ。

 野営地を見回して騎士を見つけると、走り寄って会話を始めた。

 いやな予感がする。

 話を聞いた騎士はすぐに生徒会長に話をし、俺たちに集合がかかった。


「2つの群れが戦闘を始めてしまったようです。混戦になってしまい、手が足りないので貸してほしいと話が来ました。このままだと他の群れまで反応しかねないので、急ぎだという事です。これから向かいます」


 訓練して野営地で粗食をとるピクニックのはずだったのになぁ。

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