第29話


 野営地に帰ってきたのは陽が傾き始めた頃だった。

 他のグループはまだ帰っておらず、昼と同様に食事の準備が始まった頃に帰ってきたようだ。

 準備に奔走する兵士や騎士を横目に、グループ全員で戦闘の反省会が行われている。

 早く実戦が終わり、時間が余った為、新しいことでもしてみようと振り返りの時間がとられた。

 

「今回の実戦。私の問題点は、敵の攻撃を見誤り防御に専念しなければならない時が出来てしまったことです。細川さんの援護がなければ楽に戦闘は進められなかったでしょう」


 生徒会長はそう言ってるけど、そもそも2人で戦闘をするんだから嫌がらせしながら、後衛に視線を向けさせないだけで十分だと思う。

 

「改善点として近距離での攻撃を避ける判断、受ける判断、逸らす判断をしていきたいですね」


 生徒会長が隣の細川に視線を向けて、発言を促す。

 この感じだと俺は4番目か。


「私は援護ばかりに専念していたのが問題だと思っています。盾を持っているので、攻撃を受ける役を一時的に交代出来るくらいには、これから訓練したいです」

「うーん、俺は槍を使っての近接戦を訓練してたから上手くなってた。でも相手に上手く防御されて一度も当たらなかった。これからは魔法で意識を逸らさせて、本命の槍を当てる訓練をしたい」

「私は魔法攻撃を続けて攻撃をさせないことに成功しましたが、迎撃されて相殺されるばかりでした。訓練では対魔法戦闘と杖を自在に操ることを目標にします」


 そう言えば水上の杖は金属製のモノに代わっていた。

 全てが金属製ではないだろうが、意匠を凝らしており人がそれを使っての近接戦では使いづらいように思えるものだった。

 水上は持つ必要がないから問題はないけど。


 大きさは刀よりは長かったが、桐島の長剣ほどの長さはなかった。

 思いつきとはいえ、俺も良い魔法を提案したなぁ。

 反省会も次は俺の番だと、話そうとすると生徒会長から待ったがかかる。


「坂堂さんは最後です。次は高橋さん」

「おう、俺は戦闘自体に反省点はほぼなかったと思う。ただ二刀流にしている所為なのか、そもそもの攻撃力が低くてオーガの上位種相手には傷を作るのも一苦労だった。今後は攻撃力を上げることを目標に訓練するつもりだ」

「俺は反省点が多いな。戦闘が相手のペースで進んでた。それに中途半端な魔法で距離を取ろうとしたときに突っ込んできて狼狽えた」


 戦闘の様子を桐島は思い出しているのか、俯いて虚空を見ている。

 その様子見たみんなも神妙な顔つきで話を聞き始めた。


「今後は手数が少ない武器だから一撃を当てられるようになる。魔法を使って、体の動きを使って、相手にとって脅威になる一撃を入れられるように訓練する」

「そうですね。今回の実戦では相手の耐久力が高く、攻撃力不足に悩まされる人が多いと思います。それでも全員が課題を得たことはよかったです」

「坂堂の反省点は?」

「坂堂さん、ありますか?」

「特にないが、影分身の魔法を崩壊させられたとき用に、魔法を考えるくらいかな」

「特にないみたいですね」

「いやいや、影分身崩壊させられたらどうするんだよ?」

「出せるだけ影分身出しておけばいいでしょう。ひとつ壊すのにも魔力をしっかり取られる訳ですから」


 俺の悩みは案外すぐに解消した。

 ただ生徒会長の方法は俺がしてしまうゴリ押しと同じだから、魔法としての状態を崩壊させない、もしくは崩壊させづらくする方法があれば探しておきたいものだ。

 反省会も終わり、野営地で食事を待っていると倉田がボーっとしながら言葉を漏らした。


「最初に比べると、ずいぶん精神的にタフになったな」

「そうですね。倉田さんは吐きそうでしたから」

「水上はあっけらかんとして、首落としてたからな」


 それを聞き、最初の実戦で同じグループではなかった3人、高橋、桐島、細川の視線が水上に向かう。

 3人の驚いた顔に気付いた水上は、恥ずかし気に笑っていた。


 反省会からしばらくして、夕食ができ始めた頃に他のグループは続々と帰ってきた。

 焚火で明るい野営地からは、森の中が真っ暗に見える。

 随分と遅くまで探索していた他のグループは、みんな疲れた顔をしていた。

 俺は相も変わらず質素が過ぎる食事をとりながら、他のグループの話を盗み聞いていくと、どうやら偵察のオーガしか発見していないようだ。


 俺以外のグループの皆は他グループに進捗状況を聞きに行っていたのか、食事を終えて続々と帰って来る。

 そこで他のグループの状況を共有してくれた。

 盗み聞きと内容はほぼ変わらず、どこのグループも偵察しか見つかっていないようだ。

 だから、明日は他のグループの手伝いで群れの捜索に加わるらしい。


 やめてくれ。

 俺は野営地で訓練して偶に森へ入って、ゆっくりすることを楽しみにしてたのに。

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