第26話


 翌日、機関車には前回と同じように乗り、しかし前回とは違い最初からグループで分かれている。

 というのも、今回の実戦はグループ毎で相手をするものが違うらしい。


「今回向かう辺境伯領の森には魔物の群れが4つあり、各群れに1グループで当たることになりました。どの群れも同じ魔物でオーガが相手です」

「オー、ガ」

 

 呻くような倉田の声に周囲も同じように少しの怯えを見せる。

 俺としては群れというのがどういう規模か心配なくらいで、実力は前回で足りると判断しているから、気にはならない。

 生徒会長も特に気にせず、騎士から更に情報を聞こうと質問を始めた。


「同じ魔物が複数の群れをつくることは普通ですか?」

「いえ。ただ魔物が活発化し始めている影響だと思われます。群れ同士の戦闘になると群れが群れを吸収して上位種が生まれやすくなるので、実戦が早まったのは辺境伯家としてはありがたいでしょう」


 今は辺境伯家の森に向かっているらしい。

 今日は機関車で辺境伯領の手前にある領まで向かい、そこで1泊する。

 明日は馬車で1日森の野営地まで移動して、さらに1泊するらしい。

 戦闘よりも移動がハードなのは、間違いない。


 移動中は特に何もなく、ようやく実戦日になった。

 馬車の移動は遅い以外の問題がなく、野営地も辺境伯家の兵士が見張りに付いており、何も気にせず朝を迎えられた。


 いや、ひとつだけ問題はあった。移動中と森に着いてからの食事が質素なことだ。

 他の皆は特に気にもしていないが、質は低く、量が多い。

 腹を空かせるよりは良いんだろうけど、美味いものを食べたい。


 今は朝食を食べながら、任された群れの大体の場所を騎士から教えられている。


「森の浅い場所には、ほぼいないでしょう。半ばまで行くと群れがいると思われます。群れから偵察のために数体のオーガが出ているでしょうから、警戒を怠ってはなりません」

「分かりました。群れの規模は分かりますか?」

「通常種は何体いるか分かりませんが、上位種は群れのリーダー含め4体いるそうです」

「他のグループの群れはもう少し数が多かったりしますか?」

「はい、人数が少ないので余裕を持って戦闘できる群れを割り当てられたようです」


 生徒会長は一通りの質問が終わると、思い悩んだような顔をした高橋と桐島に声を掛けた。

 よく見れば、倉田と細川も似たような顔をしている。


「高橋さんと桐島さん、そこまで思いつめるような事はありましたか?」

「いや、オーガだろ相手にするの。あの嶋野がデカい一撃で倒し切ったオーガ」

「はあ、坂堂さんを見てください」


 生徒会長の言葉に思わず、目を向けてしまう。

 2人は怪訝な顔で俺を見て、すぐに生徒会長に視線を移した。


「いつもとまるで変わらない、緊張感のない人です。余り柔らかくないパンが気に入らない様子を顔に出すくらいオーガに脅威を感じていないようです。自分の実力と努力に対して自信があるように感じられます」

「無頓着なだけだろ」

「そうだとしても、日頃から吠えている2人より戦えるでしょう」

「吠えるって……」


 無頓着について文句を言いたかったのだが、煽る生徒会長の所為で文句の言葉を忘れてしまった。

 高橋と桐島に結構ひどい言葉をかけている。

 俺にもひどい言葉をかけているが、確かにパンはもう少し柔らかい方が良い。

 

「そもそも前回から1月以上訓練しているわけです。2人の訓練を見ることはありましたが、質が悪いとか遊んでいるとかありませんでしたよね。自信を持つか、腹を括ってぶつかってください。分かりましたか?」

「お、おう」

「はいはい」

「全員ですよ」


 何だかうれしそうな2人を見ていると、生徒会長は人の扱いがやはりうまいのだと理解できる。

 俺が煽れば、煽り返されそうなのに、言葉で黙らせるなんてな。

 いると思しき神よ、生徒会長が勇者でよかったのでは?


「はい。それでは気を取り直して、森に向かいましょう」

 

 出発前に全員をまとめ上げた生徒会長の号令で、森に入っていく。

 言われていた通り、森の浅い場所ではオーガを見つけることはできなかった。

 しかし、半ばまで来ると折られた木と近くに足跡を見つける。

 そこから警戒しながら探索を進めていると、木々の奥にオーガを発見した。

 数は3体、武器は持っていない。


「周囲の確認をお願いします」


 生徒会長が騎士にそう伝えると、騎士はすぐに動き出した。

 これから戦闘が始まるだろうと、全員の緊張感が少しずつ増していく。

 俺も準備運動を始める。


「騎士さん、オーガはどの程度の攻撃なら一撃で倒せますか?」

「そうですね……」


 騎士さんは運動中の俺の方を一度見て、悩むようなしぐさを見せる。

 一体何を言われるのかとヒヤヒヤしていると、騎士たちの一部が帰って来て周囲には群れがいないことを確認し、一部は周囲の警戒に置いてきたと伝えた。


「分かりました、ありがとうございます。それでどのくらいの攻撃ですか?」

「訓練で坂堂さんに撃ち込む火の魔法を少し強めにすると、オーガの通常種であれば一撃で倒せると思います」

「えっ?」


 言葉が漏れ出て2人を見ると、真剣な顔で話し合っているようだ。

 本気で言っているのかと、2人をジッと見る。


「なるほど、坂堂さんを貫く魔法を使えば良いという事ですね?」

「ハハハハ、そういう事です。坂堂さんはオーガ級の硬さを持つわけですから」

「オーガ級の坂堂さん……プッ」


 騎士さんが笑うと同時にこちらを見て、ニッと笑う生徒会長。

 堅物イメージが段々無くなっていくなと、生徒会長を見ながら思った。

 高橋と桐島を煽るくらいだから、堅物すぎる訳じゃないのだろう。

 それにしても笑いの沸点が不思議な所にあるものだ。


「ふーっ、はい。それより今回は奇襲を仕掛けます。群れと戦闘する前に数を減らして有利に進めたいという考えからです」

「分かりました」

「奇襲は私、高橋さんと桐島さん、坂堂さんで行います。1組1体です。私は火の魔法、2人は近接攻撃、坂堂さんは土の魔法を使ってください」

「分かった」

「近接攻撃だから2人なわけか」

「なるほど」

 

 2人という所が気にかかっていたらしい。

 間違いなく、高橋と桐島に自信は付いているようだ。


「坂堂さんは影分身をオーガが逃げても止められるように散開させてください。倉田さん、水上さんと細川さんは何か起きた場合に援護をお願いします」


 生徒会長の指示で影分身をオーガから離れたところに広げる。

 騎士も周囲に広がり、準備が完了した。


「いきますよ」

 

 生徒会長の号令で、魔法攻撃を始めた。

 生徒会長は火の弾を1発、俺は土の弾を2発撃ってオーガを倒すことができた。

 想像していたよりは呆気なく倒せてしまい、拍子抜けしてしまう。


「魔法で倒せた、次は近接だ!」


 2体が倒れる様を見た2人は、怯えていたことを忘れたように攻撃を始めた。

 片足を集中攻撃しているが、物理的な攻撃には耐性があるから上手くいってないようだ。

 何度かオーガも攻撃をするが、2人は危なげなく避けている。

 

 このまま、じわじわと削って時間がかかると思っていたら、2人は武器強化魔法の出力を上げることですぐに解決した。

 桐島が両手剣を振り抜いて、オーガの腿を半ばまで断ち切って転ばせる。

 その隙を逃さず、高橋が2つの剣で首を勢いよく切り裂いた。

 倒れたままのオーガは首に手を持っていこうとして、途中で事切れたのか動かなくなった。


「坂堂さん、影分身でオーガの状態を確認してください」

「分かった」

「2人も警戒してください」


 手を挙げて了解を示した2人を見て、近くに影分身を1体出す。

 影分身をオーガに近づけさせ、死亡を確認させた。


「死んでるみたい」

「そうですか、周囲の警戒をしながら片づけをして、次のオーガを探しましょう」


 片付けも終わり、オーガの偵察を再度探そうとしていたとき、騎士が1人走ってきた。

 戦闘で周囲の警戒をしているとき、群れがいると思われる場所を見つけたらしい。

 それなら群れの場所を把握しておこうと生徒会長は言い、騎士に先導してもらう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る