第23話

 俺は店主に呼ばれて声を掛けた。

「どうしました?」

「刀を使われるのでしたら、おすすめの店があるのですが、いかがでしょう?」

「この後、行きます。どこにあるんですか?」

「坂堂さん、私が聞いておきます」


 騎士さんが場所を聞いてくれた。

 俺の場合はここからの道を教えてもらわないとだから、騎士さんであれば「大体ここ」でわかるだろう。

 話を終えた騎士さんと外に出ると、結構いたのか日は中天に近い。


「生徒会長も来るのか?」

「そのつもりでしたけど」

「そうか。先に飯を食わないか?」

「そうですね。ホーストンさん食事にしましょう」


 生徒会長についてきた騎士はホーストンというらしい。

 騎士さんとホーストンは短い会話をした後、前後に分かれて歩き始めた。

 ホーストンの先導で食事に向かう。

 今回食事に向かった場所は中流街の定食屋みたいなところだった。

 味は王城よりは悪いが、前回の所よりはおいしい。

 素材の味がしっかりとしており、調味料がそこまで必要にならないのがよかった。

 

 食後、ホーストンの先導で向かっているのは上流街と呼ばれる場所。

 上流街に近づくにつれて、鎚を叩く音が聞こえてくる。

 しばらく上流街を歩いていると、周囲の建物からは音が聞こえず、ガチャガチャと音が聞こえる建物に着いた。

 周囲の建物に人はおらず、人も近くにいないこの建物。

 ホーストンの先導でその建物に入っていく。目的地で間違いないようだ。


「入るぞ」

「騎士様。どうした、こんな客も来ないような店に?」


 店に入ると同時に聞こえた低い声は、人を馬鹿にした感じだった。

 ただその声の男は、警戒が強いのか腕を組んで睨みつけてくる。

 黄ばんだシャツに頑丈そうなズボン、盛り上がった筋肉に厳めしい顔つき。頑固さがにじみ出ているみたいだ。

 音は消えており、何だったのか周囲を見てみると男の足元にいくつかの武器がある。それが音の原因だったのだろう。


「客だ。ギデオンの防具専門店で紹介されてきた」

「騎士様が紹介された訳じゃないんだろ」

「俺です」


 手を挙げて出て行くと、胡乱気な目で俺をじっくりと見ていくが腰で視線を止めたのが分かった。

 剣帯から刀を外して渡す。

 おっさんは刀を抜いて、じっくりと刀身を見始めた。

 さっきの警戒はどこかへ行ったのか、周囲を気にすることも無く集中している。


「お前、馬鹿みたいな使い方してるな」

「って言うと?」

「攻撃を受ければコイツは折れる。それを魔力を流して力技で折れないようにしている」


 そう言われると確かに、馬鹿だ。

 普通にしたら壊れるから、壊れないまで魔力で強化すればいいって。


「手入れはしてあるが、質はあまり良くないのか。壊れそうだぞ」

「壊れるのか?」

「そりゃあ、そもそも鉄の刀だからな。魔力で引き上げてるとはいえ性能の限界がある。どれだけ扱いが上手くても、素材の問題で切れないものはある」

「それは知らなかった。それなら俺はどういう刀を使えばいい?」

「ハハッ、よくぞ聞いてくれた。俺の作った刀だ」

「具体的にどういう素材の刀だ?」

「素材で言えば鉄とミスリル、いくつかの魔物素材じゃないか」

「それを作る依頼してる間に使えばいい刀はどれなんだ?」

 

 店を見回すと刀は至る所にある。

 どの刀も拵えがないから、本当に刀身むき出しの状態だ。


 「ハハッ、ちょっと待ってろ」


 そう言うと、店の奥に消えていった。

 それにしても刀身だけだったとしても、盗まれたりしないんだろうか。

 店の奥でガチャガチャと音が聞こえて、しばらく経ってから男は出てきた。

 

「おう、こいつ使っとけ」


 そう言って見せてきたのは、今までの刀よりも少し長くて分厚い刀だった。

 鍔だけが細かい装飾をされており、他は無骨な拵えだ。

 見てもいいのかと手を伸ばすと、あと少しという所で引かれる。


「コイツの値引きするから、お前の元の刀を貰ってもいいか?」

「貰って何するんだ?」

「そこに飾るんだよ」


 店の周囲に手を向け、刀身むき出しの刀を見せる。

 ここにおいても売り物にはならないと思うんだけど、そもそも客いないし。


「飾ってどうするんだ?」

「馬鹿な貴族に売りつけるんだよ」

「普通の客も来ないのに、貴族の客なんか来るのか?」

「来るぞ。刀を作るといえば王都では俺だからな。美術品を欲しがる貴族はいるんだよ。そういう奴に売りつけて生活してるんだ」


 騎士として、こういう発言をする奴はどうなのかと2人を見る。

 特に気にした風もなく聞いていた。

 『貴族を騙して何て野郎だ!』とかあると思っていただけに、ドライなんだな。


「2人は騎士として、こういう発言はいいのか?」

「そういう輩は領主を子供に任せて引退した貴族とか、中年文官とかなんです。彼らも騙される可能性を分かってますよ。それに、最初の内は騙されて眼を養うものだと誰もが思っています」


 逞しいな異世界人。世知辛いな異世界。

 まあ、金が余っている人の道楽だろう。


「それならいい。刀の依頼分とこの刀の金を払えばいいんだな?」

「おう。ま、金は騎士様が払ってくれんだろう? 勇者様?」

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