第21話
木剣を持って帰ってきたオルブライトに鎧を脱がしてもらっている騎士さんを見ながら、そういえば名前言ってたけど、従騎士のオルブライトしか思い出せないと考えていた。
まあ、生徒会長も騎士さんって言ってたから気にするほどの事でもないかも。
「坂堂さん、準備できました」
「分かった」
俺の装備は鎧下に革を縫い付け防御力を上げているだけの軽いモノ、騎士さんは鎧下を着て鎧を着けていた。オルブライトに鎧を脱がせてもらって現状は鎧下だけの状態だ。オルブライトは分厚い革鎧を着ている。
騎士と従騎士は体力のいる仕事なんだろう。
目標であるスタミナを付けるために、重い鎧を着て訓練すればいいかもしれない。
「坂堂様は真剣ですか?」
「いや、土だ」
土属性の魔力で2本の杖を作り出し、1本を空中に浮かせ、手にもう1本持つ。
魔力の壁を作り、邪属性で身体強化魔法を使って準備が完了した。
「坂堂様、行きます」
オルブライトが木剣を握って向かってくるのだが、模擬戦という言葉の解釈違いで身体強化をしていないようだ。
想像以上に遅い。
「オルブライト。身体強化と武器強化をしろ」
「はい」
騎士さんの言葉を聞き、すぐに両方を使用して走って来るオルブライトは、いつも相手にしている騎士たちよりも遅いが、力は強い。
最初は手に持っている杖で受けたが、土が崩れそうだった。
魔力で形を保っている土の杖が、オルブライトの木剣に流れる魔力で崩れかけて、急いで形を保つが今度は力で押されそうだった。
オルブライトの遅さを補うように騎士さんが途中で攻撃を仕掛けてきて、それを浮かせた杖で防御していく。
しばらく攻撃を受けていると、押し切れないことに焦れたオルブライトが身体強化の出力を上げて攻撃を仕掛けてくる。
騎士さんもそれを援護するように、浮かせていた杖に攻撃すると同時に魔力を一気に流して、杖の魔法としての状態を崩壊させた。
攻撃を受ける手段が持っている杖だけになったが、気にせず土属性の魔力を流して今度はガントレットを作る。
嘘だ。土の手袋で、厳密に言えばミトンだ。
ミトンでオルブライトの木剣を掴み、その隙に攻撃を仕掛けようとする騎士さんに片方のミトンを飛ばす。
土で作ったミトンのロケットパンチは防御させるだけの効果はあった。
それだけの時間があれば、大丈夫だ。
「はい、終了」
長い時間模擬戦を続けて、これ以上は魔力消費が増えるから実体のある武器がないとしたくない。
素振りを続けていた影分身を呼び寄せて、武器を返してもらう。
「2人ともありがとう。で、このあと町に出るんだけど今日、どこ行けばいい?」
「最初に行く場所はこちらが決めていますから、町を回っているうちに考えましょう」
「分かった。服はこれでいいのか?」
「他に服が無いのであればいいですが、恐らく侍女が上等な服を部屋に置いているのではないでしょうか?」
「それって他の皆が着てた華美なやつか?」
「そうです」
「そうか。じゃあ着替えてくるから、騎士さんはジャケット用意しといて」
返事を聞かずに宿舎へ走り出す。
俺はあの華美なジャケットを着たくない。
上下白のかっちりとした服を着て、ろくに見ていなかったが靴も別の物だろう。
宿舎に戻ると替えの訓練着を着て、短剣と刀を装備し宿舎を出た。
宿舎の外には鎧を着た騎士さんと、変わらず革鎧姿のオルブライトがいた。
騎士さんの手には、いい感じにくたびれてそうなジャケットがある。
「坂堂さん、オルブライトが先導して案内します」
騎士さんから渡された少しサイズの大きいジャケットを着ながら、話を聞き頷く。
それを確認したのかオルブライトは王城の出口へ歩き出した。
大きな門の横にある扉を抜けると、さらに大きな門がある。
「坂堂さん、この門を抜けると貴族街へ出ます」
後ろから騎士さんが話しかけている。だが、俺は先が見たくして仕方がない。
オルブライトの後を追い、門の扉を抜けると大量に家が並ぶ場所だった。
もう少し高い場所に王城があると思っていたから、見晴らしが悪くてテンションが下がっていく。
門の正面には家が数軒ならんでおり、奥に壁が見えた。
「坂堂様、こちらです」
門を出て左に向き、城壁と家の間にある道を真っすぐ行くと、遠くに大きな建物が見える。
他の建物よりも目立ち、いい予感はしない。
「坂堂さん。あの少し遠い場所にある建物が最初に向かう場所です」
「どういう場所?」
「隣国のアリア聖国の教会があります」
「へー」
「上の方へ行くと、眺めも良いので楽しめると思います」
しばらく歩いていると、壁の切れ目に来た。門は無いが見張りがいる場所だ。
奥の方にはたくさん人が歩いていて、貴族街のようにかっちりした服装の人ではなく俺が着ているような服装の人が多い。
「この先は中流街です。不躾な輩も多いですが、武力ではこちらが上ですから気にしなくて大丈夫です」
何を持って大丈夫なのか。武力でどう解決するのか分からないが、できるだけ相手にするなということだろう。
異世界的な種族がいるかもと思っていたが、パッと見では目につかない。
そこから不躾な輩とは出会うことなく教会に着いた。
「坂堂様、入りましょう」
教会にオルブライトの先導で入っていく。
清貧尊ぶのか華美なことも無く、静かな教会だ。外観も贅を凝らしたようなものではなく、年季の入った建物だった。
内部は映画で見たような教会と似た感じで、長椅子が大量に並び奥に神像のようなものがある。
「誰か、だれかおるか?」
入って誰もいないことが分かると、大きな声で呼び出しを始めたオルブライト。
思わず、頭を叩いたのは日本人的な性だろうか。
厳かな場所で大きな声を出すのは、違う気がする。
「普通は叫ぶのか?」
「いえ、坂堂様。普通は出入り口に聖職者が控えております」
「そう。なら探さなくていいぞ。次の場所に行こう」
「いえ、坂堂さん。ここの屋上で町を見ることが最初の案内です」
「臨機応変に行こう」
強引に教会から出ることにしたのは、町を見て回りたい欲の方が強いからだ。
加えて、周囲を見渡したいという欲よりも勇者だとバレるような可能性を増やすべきじゃないと考えた。触らぬ神になんとやらだ。
2人を無視して外に出る。すぐに出てきてオルブライトは先導を再開した。
「次はこの町で最も人が集まる市場です。人が多いので市場を見ることができる場所に行きます」
歩き出したオルブライトの後ろについて、騎士さんの話を聞く。
それにしても3食昼寝付きだからか、お腹が空いてきた。
もう少しすると食事時だから、町で食べるのか。
「騎士さん、昼飯はどうする?」
「こちらで店を決めております」
「わかった。いい時間に飯行こう」
「はい」
市場を見ることができる場所に着いたのは、体感で10分以上歩いてからだった。
町の中に水路があり、そこを移動するための橋は市場よりも高い場所にある。
そのため、橋から市場の様子を見ていた。
「坂堂様、市場の更に奥には王都外へ出るための門があります。この後は門3つに向かい、案内が終了します」
「わかった。それよりこの水はどこから来てるんだ?」
「水路は王都の側にある川の支流から引いています。水路の上流、鍛冶屋街にある水車の動力源になっています。ここ周辺が中流街というのも水路由来の名前です」
「へー。次、行こうか」
今日はそんな感じで外に出たけど、想像以上に面白くなかった。
食事も王城の方がおいしい。
町の散策も活気はあっていいが、時間と疲労の問題で決められた場所しか行けない今日は楽しくなかった。
ただ、明日は楽しいだろうという予感がある。
というのも今日の帰りに、明日は装備を作った店に行くことが決まったからだ。
そもそも案内してもらって周ったり、長々と話を聞くより好きに動ける方が楽しいはずだ。
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