第20話
あれから水上さん以外にも訓練を手伝わされたり、手伝ったりしていた。
最後の実戦から3週間経った朝、もうそろそろ実戦が来るかと思っているところに騎士団長と宰相が食堂へ来た。
「この世界に来た時よりも随分と成長したと思います。ですので皆様には今一度『約束の剣』を抜けるか試していただきます」
「もう一つ、皆さんが一定以上の実力に達したと我々騎士団は判断いたしました。明日から5日間の休日になります。休日中騎士を伴うことを了承いただければ、城下へ外出ができるように手配いたします」
騎士団長の言葉に、俺も思わず声が漏れた。
ようやく王城の外に行ける。これからどうしようかと考えると楽しくなってくる。
食事を終え、そのまま全員が玉座に向かっていく。
今回は最後尾ではなく途中に紛れているのだが、周囲は明日以降の休日の話が止まらない。
玉座の間でも会話は続いた。
最初の時とは違い、みんな気にした風もなく玉座の後ろに回って帰って来る。
俺も順番は回って来るが、握って軽く上げて、すぐに下ろした。
変わらず上がってしまうようだ。
そんな中で変化があったのは、嶋野の順番だった。
「なッ……ひ、光だ!」
宰相が何やら叫んでいるから、視線を向けると玉座の後ろから光が漏れていた。
玉座の後ろから出てきた嶋野に詰め寄る宰相。
俺は生徒会長に視線を向けたが、こちらを見て笑っていた。
勇者になったのか?
という俺の疑問だったのだが、その後の訓練の時に、魔法を使っただけだと否定された。
苦しい話だ。なりたい人がいるんだから、なってもらえばいいのに。
翌朝、朝食をとっていると皆が高級な服を着ていた。
渡辺や生徒会長も似たようなもので、デザインは揃いで1人1人体に合った服を着ている。
何というか、訓練の時に来ていた服よりも華美で可動域が狭そうな服だ。
女子はフリルのシャツに白のダブルジャケット。男子はシャツに変わらず白のダブルジャケット。ボタンや装飾は金色で肩には紐の束みたいな装飾が揺れている。
こんなのを着なければならないのか。
「あきら? 外出しないのか?」
「朝に訓練してから行くつもりだけど」
「なるほど、俺は城下を満喫してくる」
「ああ、いってら」
食事を終えると、訓練場で素振りをはじめ、影分身にも素振りをさせる。
しかし体感で1時間もしない内にすることが無くなった。
いつも誰かに訓練相手をしてもらうから、できることが少ない。
騎士がいないかと周囲を見回すと、訓練場の隅で立っている騎士1人と革鎧の剣士を見つけた。
「おーい、そこにいる2人。来てくれる?」
呼びかけると走って来るのだが、騎士はよく訓練を手伝ってくれる人で、剣士は若く、顔を見たことない人だった。
2人とも剣を差しているが、騎士の剣と剣士の剣は作りが違っている。
「騎士さん。こっちの人は?」
「坂堂さん。こちらは私、トバイアス・クライアの従騎士、ケイシー・オルブライトです」
騎士さんが剣士に頷くと、姿勢を正し従騎士として挨拶を始める。
見た感じ俺よりも若いと思うけど、異世界人だから分からない。
それに騎士さんよりも体は小さいけど、俺よりはデカいからより分からない。
「従騎士ケイシー・オルブライトです。はじめまして坂堂様」
様?
騎士さんはそう言わないけど。
「あ、ああ、はじめまして。それより2人で訓練の相手してほしい」
「どういう訓練をするのですか?」
「いつも通りに多対1で模擬戦」
「坂堂さん、オルブライトはそこまで近接戦闘が上手くありませんがいいですか?」
「騎士って上手いんじゃないの?」
「いえ、オルブライトは従騎士ですから、騎士よりも実戦経験が浅いのです」
「それならオルブライトは好きに攻撃して、騎士さんが合わせればいい」
「分かりました。真剣で行いますか?」
「模擬戦終われば、町に出るから木刀で軽くしよう」
「はい。オルブライトは木剣を2本取ってこい」
「はい」
随分と急いで走っていくオルブライトを見ながら、騎士さんに声を掛ける。
「騎士さん、重いだろうから鎧を脱ぐ?」
「はい。そうしたいのですが、王都で過ごすときの鎧は1人で装備できないので、オルブライトを待ちます」
「へー。そうなんだ」
「はい。野外で実戦した時は1人で装備でき、動き回れる鎧でした」
「へー」
それは騎士さんだけだったんだよね、と言いたいがそんなわけないだろう。
あれだけの重そうな鎧を、動き回れる鎧と言うとは鍛え方が足りないのか俺は。
騎士さんは重そうな鎧を着ているし、重そうな鎧を薦める人だなと思っていた。
もしかして自分が着ているから似ているようなものを薦めていたのか。
「そういえば、オルブライトは何で今日いるの?」
「はい、坂堂さんがおひとりで訓練なされるとは騎士団の誰も思っておらず、付き添いが足りなくなったため、私の従騎士を出しました」
「へー。模擬戦って言っても、こっちはあんまり攻撃しないから、従騎士のいい訓練相手だと思ってよ」
「はい」
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