第19話

 

 変わり身の発見から1週間。

 生徒会長と渡辺を加えた3人で日々訓練を続けていた。

 生徒会長はあれから魔法の発動速度が向上して、俺に風穴空けようと躍起になっている。


 渡辺は影分身と近接戦の訓練をしており、槍以外にも身体の扱いがうまくなったようだ。

 俺自身、スタミナをつけるという目標以外は達成した。

 生徒会長の魔法を防御し続けながら、魔法で攻撃ができるようになったし、攻撃の種類も増えた。

 魔力を一気に消費した時は動けるように訓練したし、そもそも体が動けない状況になった時は変わり身を使ったり、影分身を使って自分を移動させるようにした。

 スタミナは日々の積み重ねだから、少しずつ伸びているはずだ。

 そんな訓練が続く中で、いま不思議なことが起こっている。

 

「なあ、坂堂。俺は遠距離魔法下手だからさ、近接戦で補おうとしてんだけど、上手くいかなかくてな」

「ああ、そうか」

「渡辺と一緒に訓練してもいいか?」

「それは渡辺に聞けよ」

「いや、影分身出してもらわないとだし」

「そうか。はい」

 

 倉田が影分身を伴って渡辺の方へ歩いて行った。

 たまに魔法についての話を聞かれたりすることはあったが、訓練を一緒にするというのはなかったから、不思議というより奇妙だ。

 いつも眺めているだけだった倉田が近づいてきたのは、訓練が行き詰っていたのだろう。


「坂堂さん」

「生徒会長、弾幕の訓練戻るか」

「いえ、水上さんが訓練に参加したいようで」

 

 生徒会長が呼ぶと、装備を着た水上が走って来る。

 弾幕を濃くしてくれたら、それだけ俺の訓練になるからありがたいが。


「坂堂さん。私の近接戦どうにかしてくれませんか?」

「そういうのは騎士に頼むといい」

「坂堂さん。騎士たちは長所を伸ばすように水上さんに言っているようですよ」


 俺が断ると分かっていたのか、すぐに事情を話してくる生徒会長。

 見ると水上は、しきりに頷いている。

 そこまでして近接戦を上手くなる必要はないと思うんだけどな。


「長所伸ばせばいいと思う」

「それは分かるんですけど……」

「というより生徒会長に頼むのはどうだ?」

「いえ、神本さんに話すと、坂堂さんに頼むように言われました」

「おい」

「そうですね。それなら3人でどうすればいいか考えましょう」


 生徒会長の提案を拒否しても、水上の問題が片付かないと話が終わらないだろう。

 仕方なく、うなずいて水上に質問をしていく。


「水上さんは近接戦をどうしたいんだ?」

「どうとは?」

「前衛くらい戦いたいとか、逃げ回れるくらいとか?」

「狙われても自衛できるくらいですかね?」


 自分で聞いたことだから言いづらいが、返答が分かりにくい。

 恐らくは前衛や中衛から魔物が抜けてきても、一時的に相対して時間稼ぎできるくらいということだろうか。


「それなら魔法でいいでしょう、坂堂さん」

「いや、徒手空拳最強の魔法使いになってもらおう」

「は、はい。がんばります!」

「いや、冗談ね」


 想像以上に気負っているのか、冗談が分からないみたいだ。

 何がそうさせているのか分からないが、まあ、魔法が上達すればどうにかなるだろう。


「坂堂さんは仏頂面なので冗談には見えないんですよ」

「それは置いといて。近接戦できる周囲の味方を傷つけない魔法をつくろう!」

「それは。難しいことを水上さんに求めるんですね」

「近接戦できるようになるよりも遥かに可能性の高いことだと思うけどな」


 訓練場の端へ向かい、魔力の一部を土属性に変換していく。

 机と3人分の椅子を作り出し、座り込む。


「はあ。水上さん一先ず座りましょう」


 これ見よがしな溜め息と責めるような視線を受けながら、2人が座ったのを確認して水上の新魔法の会話を再開する。


「で、水上さんは何属性が得意なんだ?」

「私の適性は土と風、得意なのは風です」

「土なら影分身でいいんじゃない?」

「坂堂さん、風の方が得意って言ってるでしょう。風で考えた方がいいんじゃないですか?」

「生徒会長は何か思い浮かぶのか?」

「私は風で防壁をつくって時間稼ぎするくらいだと思いますけど」


 残念。俺もそのくらいしか思いつかない。

 近接戦に使う魔法って、戦闘技とか無差別に攻撃を拡散させる魔法くらいしか思いつかないし、それを水上さんは徒手の間合いで使えないだろう。

 

「風の防壁は相手の遠距離攻撃を防御するために使えますけど、近接戦には強度が足りなくて使えないんです」

「だって」

「坂堂さんの意見はありますか?」

「水上さんは近接戦がそもそも出来ないから、その距離に近づかれた場合の攻撃に反応出来ないと思うんだけど。どう?」

「そう、ですね。自信はありません」

「それなら自動で迎撃してくれる、くらいのものが必要だろ」

「というとどういうものになるんでしょう?」


 話しながら想像していたが、特に浮かばない。

 どういう属性なら、これらの条件が可能なのか。


「うーん、上位属性は使えないの?」

「まだほとんど成功したことがありません」


 魔力は使用者の適性ある属性に変換することができる。加えて、属性魔力を上手く操れるようになると上位属性と呼ばれる強化した属性を操ることができる。

 それを使えるのなら簡単な話だったかもしれないが、そもそも自分が使わない魔法はよく分からないから仕方ない。


「武器の適性は?」

「こういう杖です」


 見せてくれたのは、俺のイメージで大魔法使いが持ってそうな木のねじくれた杖だった。

 歩くのを補助するような杖で、戦闘も一応はできるかもしれない。

 俺は土属性で真っすぐな棒を作り出し、席から離れてそれを少し振る。

 重心の位置や重さを考えて、水上の持っている杖よりは短くなったがそれでも刀よりは長い。


「水上さん、これを杖だと思って握ってください」

「は、はあ」


 納得できないのは仕方ないが、これでうまくいけば簡単な話になる。

 水上さんも椅子から立ち上がり、俺から渡される棒を持ってみるが、しっくり来た感じはないようだ。


「うーん、杖じゃないみたいですね」

「それならちょっと面倒だけど、得物は頑丈な金属製のものを買ってもらって」


 返してもらった棒を土に還しながら、短剣を抜いた。

 短剣に何度か魔力を流しながら、感覚をつかんでいく。


「生徒会長。少し間を置きながら魔法撃って来てよ」

「わかりました」


 座っていた場所から少し離れて、魔力を短剣に流しながら魔力で掴む。

 手から離れて空中を浮遊している短剣を右手で持っているイメージ。

 ふらふらとしていた短剣がピタッと停止して、しっかりと握った感覚がある。

 更に、体の周囲5メートルくらいに魔力の壁を作った。

 生徒会長が少しだけ離れた場所からそれを見て、呆れたと言わんばかりの視線を投げてきたが、無視して魔法を待つ。


 火の玉が生徒会長の近くに現れ、それがゆっくりと飛んできた。

 上手くいくか分からないから、手加減してくれているようだ。

 フワフワと飛んできた火の玉を宙に浮いた短剣が薙ぐ。

 それを何度か繰り返した。


「生徒会長、次は近接攻撃で頼む」

「本気で攻撃しますけど、大丈夫ですか?」

「俺自身の防御と変わり身を準備しとく」


 刀を構えて魔力の壁を体の近くに変更し、片手半剣を抜いた生徒会長の攻撃を待つ。

 無難に袈裟切りを選択した生徒会長の攻撃は、受けを選択した俺の刀へ当たる前に短剣が攻撃を受けた。

 攻撃を受けると魔力消費は増えたが、土属性で壁を作り出すよりも少ない。

 これなら問題なさそうだ。

 俺自身も問題だった感知の方法が見つかったし、上手くいった。


「問題なさそうだな」

「それ、難易度高そうですね」

「近接戦を覚えるよりは早い」


 水上さんのもとへ戻って、魔力を使って武器を浮かし時間稼ぎする方法を教える。

 しばらく持っていた杖で試していたが、案外早く動かしていた。

 そもそも火の玉や風の刃の役目を武器にさせるわけだから、すぐに出来るのも納得だ。

 ただ攻撃には無防備で、軽く蹴ると抵抗なく飛ばすことができてしまう。


「しばらく練習だな。影分身に邪魔させるから頑張れ」


 水上さんが杖を防御に使えるようになったのは、それから2週間後の事だった。

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