第18話
「お二人さん、すごい訓練してんね」
「渡辺さん。ちょうどよかったです」
「そうだな、俺の訓練相手してくれ」
「俺も生徒会長と一緒にあきらへ魔法撃てばいいのか?」
「ちげーよ、1対1だよ。生徒会長は影分身に相手してもらう」
生徒会長は目の前に出現した影分身を指さして、顔をゆがめている。
そこまで嫌なのかと、影分身にも生徒会長を指差させる。
それを見た生徒会長は影分身の指を殴った。
「渡辺さんは坂堂さんに余裕を与えない魔法攻撃できますか?」
「今の生徒会長くらいはできるけど、それ以上になると無理かな?」
「それなら2人で坂堂さんを攻撃しましょう」
「分かった。2人でいいけど、当たっても問題の無い威力の攻撃だけにしてくれ」
「了解。休憩終われば始めるのか?」
生徒会長が頷いて、休憩を再開した。
俺も地面に座り込んで、周囲の訓練を眺める。
他の生徒は各々模擬戦、素振り、威力の高い魔法を試していた。
ただ全員が魔物の群れとの戦いを経て、訓練に熱が入っているように思う。
俺の隣に渡辺が座り込む。
「この前の実戦、嶋野すごかったよな」
「へー」
「おま……あきら。興味無さそうだけど見てないとか無いよな?」
「見たよ。見たけど覚えてない」
「どの戦闘みたんだよ?」
「オーガに光ってる剣振ったとこ」
「あれ以外を見てほしかった」
「他にどういうのがすごかったんだ?」
「群れに飛び込んで魔物を一気に切ったところとか?」
「それなら生徒会長も出来るだろ?」
俺が思わずそう言うと、生徒会長がこちらに歩いてくる。
そこまで遠くないから聞こえたらしい。
気に障った生徒会長の武力行使に備えて、近くに4体の影分身を出す。
「生徒会長できるの?」
「できますけど、しませんからね。これから坂堂さんに攻撃しますから」
「あきら、休憩終わりだって」
「せっかく出した影分身が無駄に」
「あきらのこれ、偶に急に出てこないか?」
「影分身か?」
「そう。気付いたら、そこに影分身が立ってたとかあるけど」
「邪属性がそういう事を起こしてるのかな?」
「違いますよ」
俺の希望で口にした言葉は、生徒会長からすぐに否定された。
まあでも、夜番の時に影分身を出しているのがバレたから違うのか。
「坂堂さんは魔力を魔法に使い切ることが多いんです。だから魔法を発動しているのが分からなかったりするんです。後、邪属性や闇属性は暗い場所で隠れやすい特徴があります」
なにそれ?
全く知らなかったんだけど。魔法士団長も言ってなかった気がする。
「あー、最初の時に言ってたな」
「ほんとか?」
「あきら、聞いてなかったんだろ。影分身じゃなくて自分で試してみたら?」
渡辺に言われた通り、身体強化魔法を邪属性の魔力でしてみる。
上手くいっているのかよく分からないが、邪属性でも身体強化と変わらない効果が出ているみたいだ。
影分身を右側に移動させ、並んで立ってみる。
「さあ、どっちがホンモノだ?」
「いや、あきらに変化はないからバレバレだぞ」
なじみのあるツッコミとともに、渡辺の手刀が頭に衝撃を与えようとした。
俺は甘んじて手刀を受けようと目を閉じて待っていたのだが、いつまでたっても衝撃が来ない。
ゆっくりと目を開けると、渡辺は左側の影分身に手刀を振り下ろしていた。
「何だよ、俺じゃねえのかよ」
俺が手刀を渡辺に振り下ろすと、ゆっくりとこちらを見て口を開く。
「お前、忍者極まってきたな」
「え? あれ、場所変わってる?」
「坂堂さんの影分身の特徴が分かりましたね」
「えーっと、あきらの影分身は変わり身ってやつか?」
「だろうな。俺が使ってる魔法なのに分からなかった」
その日は訓練していた、というよりも検証をした。
変わり身は完全に自動なのか、意識的に行えるのか、認識していない攻撃にも使えるのか、影分身を出しておく必要があるのかなど、検証を行った。
結果、影分身を出していなくても変わり身はできる。
影分身に付随する魔法だと思っていたが、恐らくは影分身を使うことができ、邪属性で身体強化を行っていることが『変わり身』を使える要素だと推測できた。
他にも、攻撃を認識すれば変わり身は自動で発動する。
不意打ちなど認識していない攻撃には発動しない。
攻撃がない時にも任意で発動できることが分かった。
ただ、影分身がない場合はもと居た場所から決まった範囲内に移動するため、面で攻撃された場合は発動しても意味がない。
加えて、影分身が使えても一定以上の距離ができると、影分身がない時と同じ範囲にしか移動できない。
色々と制約はあるが、圧倒的に使用頻度の高い魔法を使えるようになった。
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