第15話


 諦めから動くことにした。

 生徒会長の後を追い、視界がほぼない暗闇の中で森に入る。

 誰にも気付かれてもないのか、後を追う人、呼び止める人は恐らくいない。


 しばらく後を追っていると、目的地なのか少し開けた場所が見えてきた。

 森に入ってからそう遠くない場所だから、周辺は昼の間に魔物を倒しているはずだ。

 群れが進んでいる場所からは少し遠いだろうか。

 開けた場所には、鬼がいた。


「坂堂さん、私が戦闘している時に奇襲してください」


 止まって俺を見た生徒会長はそう言うと、開けている場所に歩き出した。

 周囲に影分身を8体展開しておく。

 俺は大回りに鬼の後ろへ移動していく。


 鬼は3mくらいだろうか。2本角、月明かりで見える体色は赤、腰布一丁の引き締まった無駄な筋肉のない体で武器は持っていない。

 戦闘がすぐに始まると思ったのだが、生徒会長は何かを話し始めた。

 少し遠いため話し声は聞こえない。


 しばらく待っていると、鬼は気合を入れるようにパァンと柏手を打った。すると両手に赤い陽炎が見え、戦闘態勢をとる。

 異世界に来て魔法を使うようになってからの感覚で、赤い陽炎は魔力だと理解できた。

 大量の魔力が体表に集まり、目に見える。


 生徒会長は剣を抜き、先に攻撃を仕掛けるが、陽炎の拳に拒まれた。

 拳と剣がぶつかって金属音が聞こえてくるのは、理解したくない現実だ。


 魔物とはいえ、剣を受けたのは拳で皮膚だけど。

 鬼は現状攻撃を防ぐことしかしていない。しかし、余裕が無さそうには見えない。

 会話で人語を解したのか分からないが、知能が高く強い魔物には違いない。


 身体強化魔法を発動し、影分身1体と走って攻撃を仕掛ける。

 影分身の膝裏への突進攻撃は入るが、全く効いた様子はない。

 突進攻撃の後に刀で背中を切る。

 背中に切り傷ができ赤い血は流れた。切り傷が出来て、ようやく気付いたように顔を向けた鬼。

 額に赤い石が付いており、手の陽炎と同じような色に思える。


「赤い手は何? 額のは?」

「わかりません」

「戦闘技頼む」


 短い会話しかしていないのだが、気に障ったのか防御から攻撃に転じる鬼。

 生徒会長に戦闘技を使ってほしいのだが、攻撃しようとした方に攻撃をしてくるから戦闘技を使えない。


 たまに攻撃できるが、軽いステップで避けられて身軽さを見せつけられる。

 体がデカいのに攻撃を避け、受けることもできる。しかも攻撃の威力も強い。


 攻撃をするためにギリギリで避けると拳の勢いで風が発生し、体がよろける。トラックが体のすぐそばを通り過ぎるのと変わらない。

 下手に避けるよりも、と防御をすると、受け止められず弾いて流すようになり、攻撃へ転じる前に次の攻撃が来る。

 しかし、それは現状のままだった場合だ。


「いくぞ!」


 声を上げ、周囲にいた影分身たちを集めて攻撃に転じる。

 強引に数の差をつくり上げ、足止めと攻撃を行っていく。

 攻撃途中に影分身の1体が赤い手の攻撃を受け、土塊になって動かなくなった。

 魔力の供給が強制的に途切れている。


 赤い手に魔力攻撃は効かないという訳か。

 身体強化にまわす魔力を増やして、攻撃の威力を上げていく。

 刀は皮膚だけでなく肉を切り、打撃は体内を震盪させる。


「どいて!」


 珍しく敬語じゃない生徒会長が、火で赤々と輝き陽炎を纏う剣を振り上げている。

 影分身は足止めにおいておき、俺は急いで生徒会長の進行方向から離れた。

 鬼も危険だと悟ったのか赤い両手で受け止める。ガンッと金属音が響いて生徒会長の渾身の一撃は両手で止められた。


 しかし、受け止めた鬼の両手、その周囲に剣から炎が広がり、赤い手以外を燃やし始める。

 鬼は思わず手で顔を覆った。

 大きな隙を晒したその背中に、魔力を流した刀を振り下ろす。

 戦闘技ではない、ただ魔力を流した攻撃は、骨に阻まれた。


 武器に流した魔力によって耐久力を上げているから、骨に拒まれ魔力消費が一気に増える。

 それでも、そのまま魔力を流し続けて、骨ごと切断した。

 しかし、鬼はまだ生きていた。

 のそりと動き、こちらを振り返る。


 命の危険を感じながら、体が動かせない自分の身に起こっていることを認識していく。

 どうやら、魔力を一気に消費したことで体が動かせないみたいだ。

 現状の俺に追撃は出来ない。

 動けない状態で反撃が来るかと思ったが、深手だった鬼は地面に手をついていた。


 トドメを頼もうと生徒会長をどうにか見ると、剣を首に振り下ろした所だった。

 行動が早くて助かる。

 首が落ちた鬼は跡形もなくなり、額にあった球型の石だけが残った。

 

 動けるようになって球型の赤い石を腰のバッグにしまい、生徒会長を見ると剣を支えに立っている。

 俺の体は疲れ切っているが、気分は爽快だ。問題が証拠の石だけを残して消えたのだから。


 「一先ず、クリーンだな」


 体や鎧についた汚れを無属性魔法で落とす。

 体についていた血や土の汚れが消えて、寝る前の状態に戻る。


「ふぅ。坂堂さん、向こうも終わりそうなので急いで戻りましょう」

「クリーン掛けたか?」

「疲れたので、頼めますか?」

「おう」

 

 静かにバレないように帰った野営地では、体の大きな筋肉の分厚い鬼がいた。

 騎士に魔物の事を聞くと、オーガという魔物らしい。

 力が強く、動きもオークよりは早い。しかし、鬼と比べると、圧倒的に遅い。

 耐久力もあるが、嶋野の光る剣によってオーガはスパッと両断された。

 騎士から離れて生徒会長と戦闘を見守る。


「あの細マッチョの方が強いよな」

「そうでしょう。あの光る剣で切れるなら、私の戦闘技切れますから」


 炎が噴き出した戦闘技の話だろう。

 あれは切る技だったらしい。防御される前提で炎が噴き出すものとばかり。

 まあ、それが糸口となって鬼が倒れるまでダメージを与えられた訳だし。


 それにしても今回の戦闘、防御で手一杯になっていた。

 これからは、防御だけにならないように攻撃手段を増やしたい。

 拳を防御するばかりでロクに魔法を使えなかった。

 刀を振りながら、遠距離魔法を多数使って、影分身で嫌がらせをする。


 俺も鬼みたいに相手に防御をさせて、より大きな攻撃の隙を作らないと勝てなくなりそうだ。

 生徒会長がいなかったら、負けてた相手だったな。


「それでは点呼をお願いします。その後、負傷者を確認して休んでください」


 いつの間にか前衛の近くにいた生徒会長と騎士団長。

 生徒会長の点呼を聞きながら、周囲の偵察に向かう騎士達を見る。

 誰もがキビキビと動き、松明を持って森に入っていく。


 戦闘では勝てるかもしれないが、同じくらいの実力を持っている奴らが騎士くらい動き続けることができると辛いだろうな。

 継続戦闘能力も足りないかもしれない、動き続けられる体力と魔力。

 魔力を一気に消費しても動けるように訓練しないと。


「坂堂さん」

「はい」


 逸れた思考を戻し、返事を終えると全員がテントに戻る。

 夜番は必要ないのか続々とテントに入っていく。

 俺もテントに入って、ようやく眠ることができた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る