第13話


 野営地に戻り始めた時、陽も落ち始め周囲が黄金色に照らされる。

 日本と同じ基準で語れば、森は西側にあるらしく、野営地に戻って来た時には周囲が暗くなり始めていた。


 馬車は2台だけになり、馬は5頭。送ってくれた馬車たちは物資を乗せた馬車を残して帰った。

 野営地の真ん中には大きな焚火があり、何人かの騎士が囲んで食事を摂っている。

 各テントの近くにも焚火が用意してあり、各グループで夜番を立てのるかもしれない。


「みんな、2人1組の交代で夜番を立てることになりました。時間に関しては騎士から指示があるらしいです。それと私たちの班は7人なので1人余りますが、今回は他の班もいることから1人だけでも大丈夫らしいです」

「それなら最初の番、1人で俺がする」


 娯楽の少ない世界で、1人用の娯楽などほぼない。

 眠ることか、訓練が趣味になりつつある俺。しっかり見張りをしなくても良い状況で誰よりも長く眠るチャンスは逃せない。


「はあ、まあいいです」


 不快そうに歪んだ生徒会長の顔は、ため息とともに呆れへと変わった。

 もうちょっと表情の薄い奴だと思っていたけど、想像以上に顔に出す。

 昼の細川さんの時も、今も。


「それよりも食事です。食事しながらペアを考えましょう」


 昼以上に戦闘を行い、疲れている体においしい食事が欲しい。

 まあ、近接戦闘を一度も行っていないから魔力が減って疲れただけだが。

 焚火の近くに座り込み、短剣以外の武器を外して体を伸ばす。

 柔軟体操をそのまま続けていると、覚えのある硬いものが後頭部に当たる。


「坂堂さん」


 柄尻で小突いてくる生徒会長から夕食を渡された。

 昼食からするとグレードは落ちるが、バゲットと香辛料が入ったスープ、スープに放り込まれている麦粥。

 見た目は悪いが、香辛料のおかげでそこまで気にならない。

 健康に気を使った食事だと言われれば、納得できるものだから問題ない。

 食事は全員がゆっくりと食べていたため、夜番の始まりが遅くなった。


 俺、水上と倉田、細川と桐島、生徒会長と高橋になり、この順番で夜番を行う。

 焚火周辺以外は月明かりに頼るほかないくらいに暗くなり、もしものための松明を大きな焚火の横には用意してあるようだ。


「坂堂さん、水上さんを起こすときは刀の柄で起こしてください」

「分かってるよ。何なら生徒会長起こして水上さん起こすの頼もうか?」

「冗談でも腹が立つものですね」


 何一つ面白いことがないのに、にっこりと笑ってテントに入っていく生徒会長。

 明らかに怒っているが、眠れば元に戻るだろう。

 勝手に納得していると水上さんが苦笑いで俺を見て、何も言わずテントに入っていった。

 女子だけかと思っていたが、男子も似たような表情をしてテントに入っていく。


「ただの冗談。はぁ」


 思わず漏れた溜め息が他の班の会話で聞こえない。班の違いを如実に表しているようだった。

 まあ、これから眠るまでの間だけ悩めばいい。

 それに悩むこともすぐに忘れる。

 なにせ、これから魔法の訓練をするからだ。


 夜番をしている雰囲気を出すために、暗い場所に影分身を4体送り込む。

 今から始める訓練は、俺にない探知、感知の魔法をつくれないか試す。

 感知は影分身が攻撃されれば似たようなことはできるが、状況が限定的過ぎて使えない。


 これから試すのは土、風の属性を使った探知、感知の魔法。

 土の属性魔力を使って地表を動くものを探す。

 風の属性魔力を使って動くものの形を捉える。

 2つをやってみようと思ったが、寝ている人が多い場所で初めての魔法を使うのは危険かもしれないと思いなおし、影分身を扱うだけにした。


 試すのは影分身との感覚共有、何度もしているが、できるようで上手くいかない。

 痛覚は共有されても困るけど、五感くらいはできれば便利に使えるだろう。

 今までの訓練で色々と試しており、ゴーレムに目と耳、鼻をつくったり、俺と瓜二つにしてみたりしたのだが失敗している。

 どうすればいいものか。


「あきら、焚火消えそうだぞ」

「お、わるい」


 普段通りに返事をして、薪を追加していると渡辺が近くに来ていた。

 渡辺は別の班で中衛として上手く役割を得ているらしい。


「どうした、眠くて散歩でもしてたのか?」

「いや、夕飯前に寝て夜番の最初で起きたから眠くない」

「俺もそうすればよかったな」

「ハハッ、眠くてボーっとしてたのか?」

「違う、影分身の視界を見ることができるようにするにはどうすればいいのか、考えてた」

「ここまで来て訓練しなくていいだろう。今日は実戦だし」

「それもそうか」

「でも、魔力でゴーレムとつながってるわけだし、どうにかなるんじゃないの?」

「うーん、魔力とつながっているか」

「あー。言わない方がよかったかもな」


 なるほど。

 魔力がつながっている、それは分かってるんだけど、どうすればいいんだろうか?

 まずは視覚共有を第一に考えよう。


 魔力はつながっている。でも部位別に魔力ではつながっていない。

 俺がゴーレムに供給するだけで、テキトーに流れているそれだけだ。

 流れている魔力に加えて目に魔力を流して、目に流した魔力をゴーレム側の目に流していく。感覚的なモノのためじっくりと行う。

 ゴーレムに流れる魔力が1本の線だとすると、目からの魔力が加わって2本になった。


 上手くいくと思ったのだが、ただ魔力の消費が多くなっただけだった。

 やっぱり実際に目としての機能が必要なのだろうか。

 それか土・闇・邪以外の属性で対応可能なのかもしれないな。


「うーん、難しい」

「あの。交代の時間です」

「え?」


 気付くと、焚火には薪が足されており、騎士が心配そうに俺に声を掛けてきた。

 夜番として何もしていないが、どうにかなったようだ。


「薪、足してくれたんですね」

「はい。時々声を掛けていたんですけど、返事がなかったので」

「ありがとうございます。交代してきます」


 どのくらい経ったのか不明だが、体が汗だくだから結構時間は経ってそうだ。

 これからの睡眠を堪能するため、最後の仕事へ向かう。

 水上さんを起こしにテントへ歩いていると、大きな唸り声が森から聞こえてきた。

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