第12話


 陽は中天。

 枝葉の隙間から差す日光が温かいと感じる、すこし寒い森の中。

 最初に入った時と同じ場所から森へ入っている。


「出てこないな」

 剣の柄を握って、ソワソワしている高橋。

 桐島も同意するように頷いている。


「それなら小走りで移動しますか?」

「前衛はOK」

「中衛も」

「後衛も」

 俺以外の2人はなんとなく断る気がしたから、勝手に答えておいた。

 案の定、細川さんがメイスで肩を叩いてくる。

 刀よりも重い金属塊で叩かれて、痛い。


「はい?」

「あの、私はこの装備だから走るの難しいんだけど」

「大丈夫。考えてあるから」

「全員大丈夫なら、今から走っていきます」

 前衛中衛が走り始め、後衛もそれを追い始めるが俺以外の2人は遅れ始める。

 2人の方に手を向けると、現れた影分身が2人を横抱きにして走り始めた。


「またこれ!」

「うわっ!」

 小走りとはいえ走り続けていたから、想像よりも早く昼前にホブゴブリンがいたところへ着いた。飛び散った血の跡と埋めて処理をした跡がある。

 前衛が走りから歩きに戻したため、影分身を解除して歩いていく。

 暗くなるよりも前に帰るだろうが、朝よりは戦闘することが増えそうだ。


 しばらく歩いていると、先導の騎士が魔物の集団を見つけて手招きしてくる。

 見ると、オークの群れが周囲に見張りをつけてホブゴブリンをボコボコにしていた。

「かたき討ちか?」

「集団なのに殺していないのは遊びだからでしょう」

「数の力だな」

 前衛達が冷静に観察している後ろで、倉田の顔が引きつっている。

 好戦的な2人と並んで話をしている生徒会長を見ていると、3人で敵に突っ込んでも違和感なく見える。


「囲んでいるオークは5体、周囲には4体。前衛と中衛で4体を奇襲と同時に後衛が5体を攻撃します。後衛は攻撃後、前衛や中衛を待ちながら防御してください」

「分かりました」

 水上は返事をしているが、前衛と中衛を待つ間の防御は俺と細川さんになるだろう。

 細川さんは盾持ちのためどうにかなるかもしれないが、水上は逃げるだけになる。

 俺にどうにかさせるのか、生徒会長。


「それでは、奇襲するときの声に合わせて5体の方に魔法をお願いします」

 前衛と中衛は奇襲するため、オークを囲むように騎士と一緒に広がっていく。

 少し時間があるため、後衛2人と話すことにした。


「水上さんと細川さんは何体ずつ倒せる?」

「私は2体かな?」

「私は1体です」

「水上さんは2体で細川さんが1体。まあ、どうにかなるだろう」

 しばらく待っていると、奇襲担当は配置が完了していた。

 奇襲のタイミングを合わせようと、互いに目配せしているのが見える。

 生徒会長が他の奇襲担当に頷くと、こちらを見て頷く。


「行きますよ!」

 生徒会長の声が届くと、魔法を発動する。

 俺は土の弾丸を2体に、水上は風の刃を2体に、細川さんは水の球を1体に向けて放つ。

 土の弾丸はオークの頭を貫き、風の刃はオークの首を刎ね、水の球はオークに水を被せただけになった。

 確かに水で倒すなら窒息が一番か。


「おい! そっちに行った!」

 細川さんの魔法に絶望していると、倉田から声がかかる。

 奇襲を仕掛けた倉田は、オークの足止めが出来なかったようだ。

 他3人は戦闘中でこっちに来ることはできない。


 2体のオークと満身創痍のホブゴブリン1体、3体目掛けて土の弾丸を撃った。

 倉田が追いかけるオーク以外は一撃で仕留め、倉田のオークは膝を撃ち抜いて止めを任せる。

 その後はしばらく周囲の警戒をしながら待っていると、戦闘終了して全員が帰って来た。


「倉田さんは奇襲できなかったんですか?」

「出来たけど、軽傷だったから逃げられた」

 生徒会長の質問に申し訳なさそうに答える倉田。

 前衛の3人は近接戦闘で逃がさないように戦っていた。

 倉田には前衛と並ぶ動きを期待できないだろう。後衛と連携して動いてもらった方がよさそうだ。


「細川さんは他の相手を倒せる魔法攻撃ありますか?」

「あるんですけど、怖くて」

 細川さんの言葉に、生徒会長は頷くが納得した顔をしてはいない。

 話を聞いて一歩ずつ細川さんに近づいく生徒会長の顔は、誰が見て近づきたくないような恐ろしい笑みを浮かべている。


「細川さん」

「はい?」

「何が、どう怖いんですか?」

「模擬戦で騎士にケガさせてしまってから、強い魔法を使うのが怖くなってしまって」

「大丈夫です。ケガさせるどころか殺すことになるわけですから」

 理由を聞いて満足顔の生徒会長。

 想像していたよりもマシな理由だったのだろう。

 精神的な理由をマシだと俺には思えないのだが、生徒会長としてそうではないようだ。


「……でも」

「安心してください。魔物であればどれだけ傷つけても誰も文句を言いませんから。それに魔物を細川さんが攻撃しなければ他の人を間接的に傷つけることになります」

 安心する材料になっていない言葉は、細川さんに突き刺さった。

 苦笑いが引きつった笑みに変わり、最後には笑みが消えた。

 細川さんも他人が傷付くと分かれば、悩みを振り切って攻撃してくれるのだろうか。

 騎士も合わせると11人いるから、細川さんが攻撃しなくてもどうにかなるとは思うが。


 それ以降、魔物の群れと何度も戦闘になった。

 連携も取れるようになり、足止めと攻撃、攻撃の妨害と部位攻撃などできることが増えた。

 細川さんも生徒会長の言葉が利いたのか、魔法による攻撃を加えていたが、思いのほか強くはなかった。それでもオークを一撃で倒すくらいの威力はあったが。

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