第11話


 来た道を戻り、魔物と一度も会うことなく帰ることができた。


 野営地には他のグループも帰っており、驚くことにまだ出発してなさそうなグループもいる。嶋野のグループは他よりも人数が多いため、動くのに手間取っているようだ。


 そんな中、俺達は野営地にいる騎士から食事を貰う。

 柔らかいパンと熱々で分厚い肉、シャキシャキの野菜、氷水の入ったお椀。

 大きなサンドウィッチが昼飯だ。

 無属性の洗浄魔法であるクリーンの魔法を使い、体をきれいにして昼飯を食べ始めた。


 サンドウィッチに齧り付くと燻製肉なのか独特な味が口の中に広がる。

 水気のある謎の野菜が肉の塩気と合い、その塩気と野菜がパンに合う。

 森の中を歩いただけだから、そこまで疲れていないが体は塩気を求めていたのか美味い。

 一気に食べすぎて胸の辺りでつっかえているのを、キンキンに冷えた水で流し込む。


「うめぇ!」

 空腹は一番のスパイスだとか言うけど、適度な疲労も最高のスパイスだと感じる。

 サンドウィッチを食べ終えて、水で流し込む。


「全員食事終わりましたね」

 グループで円になって食事をしていた為、全員が近くにいる。

 話し始めた生徒会長は、食べ終わるのが遅い方だった。


「ではこれから、森へ入る前に戦闘時の動きを確認しましょう」

 頷きたいのだが、美味い食事の後は眠気がやって来る。

 訓練は3食昼寝付きのため、生活リズムの一部に昼寝が入っていた。

 だから、もう、眠い。


「起きたら、聞く」

 背負っている矢筒と弓を外して、横になる。

 テントの中ではない陽の当たる平原。

 この世界に来て1ケ月以上過ぎているはずなのに、温度が変化していると感じられない。

 適度な暖かさが目を閉じると感じられる。

 草の匂い、たまに吹く温かい風とほどよい日光、時折聞こえる人の笑い声が睡眠に必要な安心感を与えてくれる。

 生徒会長が何か言っているようだが、多少の雑音など気にすることない状況で、心置きなく眠ることができそうだ。


 そんな微睡の最中にダンッ、と耳元で音が聞こえて心臓が跳ねた。

「おいっ! 遊びに来たんじゃないんだぞ、起きろ!」

 ものすごく気持ちの良い眠り始めを邪魔された。

 目を開くと、嶋野の足が顔の横にあった。どうやら耳元の音は地面を思いきり踏みしめた音らしい。


 にやけ面かと思いきや、不快そうな顔で踏みしめたようだ。

 不快な顔をしたいのは、俺の方なんだが。

 眠気は一気に覚め、一瞬で起きた反動なのか心拍数が上昇し始める。

 ぼんやりとした頭は微睡の心地よさが忘れられず、頭に血が上っていく。


「森に入ってないなら行ってこい。こっちは帰ってきて休憩中だ」

「食事をして眠くなっただけだろう?」

「テントで寝る」

 立ち上がり嶋野に手を向けて、グループの全員に聞こえるように言う。

 地面から出てきた影分身が嶋野を拘束するのを、チラッと確認して騎士にどのテントかを教えてもらう。

 教えられたテントに入り、すべてを無視して眠りを再開した。


 

「坂堂さん」

「うん?」

 呼ばれて気分よく起きると、生徒会長が俺の顔を剣の柄尻でグリグリしていた。

 起きたばかりで身体を動かすのが怠く、横になったままでいるとグリグリが強くなっていく。


「い、いたい」

「2、30分寝ましたから、動きますよ」

「嶋野は?」

「1回突破しましたけど、また拘束されてそのままです」

「ハハ。ざまぁ!」

「控えた方がいいって言いましたよね?」

「影分身だろ、忘れてた」

「影分身だけじゃなくて、全体的に坂堂さんは実力が高いんですよ。隠す努力をしないとバレます」

「眠気に勝てなくて、ゴメン」

 体を伸ばしながら、テントを出ると生徒会長から止まらない愚痴を聞かされる。

 でも言わんとすることも分かるから、ゴメンとしか言いようがない。

 ただ、眠気に勝てないのは仕方ないだろう。


「嶋野さん、連れてきましたよ」

「坂堂、だっけ? さっさとこれを解除しろ」

「まだ、影分身と遊んでたのか?」

「おい!」

「坂堂さん、話をややこしくしないで解除してください」

 頭も段々とすっきりとして、体も調子が良い。

 やっぱり、昼寝をするとパフォーマンスが上がるな。

 まだ、2体の影分身に拘束されている嶋野に手を向ける。

 影分身は土塊となって、嶋野は拘束から解放された。


「みんな、行こう」

 嶋野はこちらを睨みつけてから、集まりだした班員とともに森に入っていく。

 それを見送りながら、うちの班員を探すと森の手前で待っているようだった。


「生徒会長は、影分身に拘束されたら抜け出せるか?」

「分かりません。嶋野さんが粉々にしたのに次の瞬間には戻ってましたから」

「土と魔力で出来てるからな。俺を起こすとか、土に流れてる魔力を強引に自分の魔力で押し流すとか、できるんだけどな」

「先が心配ですよ」

「あれが勇者じゃな」

「いつバレるか分からない、坂堂さんの行いが、です」

「な、なるほど」

 とても納得できる言葉だ。

 カッとなるのは確かにダメだろう。

 生徒会長としては正当な理由があっても、実力がバレるようなことはダメというわけだ。


「そういえば、みんなは昼寝したのか?」

「嶋野さんが騒いで、眠るような状態じゃなかったんですよ」

「戦闘するときの動きの話は?」

「それも無理な状態でしたよ」

 班員の所に着くと、生徒会長と似たような疲れた顔をした皆が見える。

 好戦的だった2人も輪に入って馴染んでいるようだ。


「森へ入る前に、戦闘するときの動きの話をしましょう」

「俺たちは前衛だよな」

「高橋さんと桐島さんは前衛でいいですけど、周囲と協力することを頭においてください」

 2人は生徒会長に言われて納得しているようだ。

 少し恥ずかしそうにしているのは、愛嬌があるというやつだろうか。


「倉田さんは前衛の援護、多数の敵が出てきたときの加勢」

 話し合いをするものだと思っていたが、生徒会長が役割を決めている。

 それでうまく回るから、いいんだろうけど。


「水上さんと細川さんは、前衛で対処できるときは周囲の警戒、前衛で対処できない時は坂堂さんに聞いてください」

 前衛に声を掛けて魔法を使ってください、でいいんじゃない?

 生徒会長はそこまで言って、森の方へ歩き始めた。

 俺にいい感じの指示はくれないらしい。

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