第10話
しばらく機関車で移動して駅に着いた。そこから更に、馬車で移動する。
4人乗りの馬車は、男女で分かれて移動した。
高橋と桐島は男同士になると話すかと思っていたが、全く話すことも無く馬車が停まる。
下りると森の目の前だった。
後ろには見渡す限りの平原、前には見通せない森、森から少し空けて野営地を騎士が準備してくれているようだ。
天気は晴れ、太陽は中天には到達していない。
青空の綺麗な空だ。ボーっと空を見上げることはしてこなかったな。
少しボーっとしていると、女子グループを乗せた馬車が到着した。
「全員、準備できましたか?」
合流した女子グループの生徒会長の声掛けに、全員が頷いた。
それを確認した生徒会長は騎士に声を掛ける。
騎士2人は先導、もう2人は殿で動くようだ。
「3列で森に入ります。複数の敵を見つけた場合は集団戦をします」
生徒会長がそう言うと、前衛、中衛、後衛で分かれ森に入っていく。
入ってしばらくすると、ゴブリン2体を先導の騎士が見つけた。
生徒会長が振り返って、集合を呼びかける。
「前衛でゴブリンを抑えて、中衛と後衛1人が周囲の警戒、後衛2人でとどめをお願いし――」
真剣に生徒会長は話していたのだが、すぐに表情が変わった。
話している途中に前衛の2人、高橋と桐島がゴブリンに突撃したからだ。
2人は一撃で倒した。周囲に他の魔物はいなかったのか、囮ということもなさそうだ。
生徒会長は2人を叱りに行こうとしていたが、騎士の1人が注意をしていたから行くことを止めた。
ただ、2人が帰って来た時に前衛を2人にして、生徒会長が中衛に下がっていたのは何をするためなのか。
他人に武器を渡して攻撃してくる相手だぞ、何かしら目論見があるのは明らかだ。
しばらく歩き、森の更に奥へ入っていく。
先導の騎士が魔物の方へ案内し、見えてきたのはオークが1体。
オークは周囲を見回しているのだろうが、動きが遅く鈍重というのがよく分かる。
好戦的な2人がどうなるのか、ボーっと見ていると周囲を多少確認してから飛び出した。
足に攻撃を加えるが、傷を与えるだけで両断とはならない。
しかし、膝をつかせることはできた。
最大のチャンスで2人が攻撃を加えようとしていると、死角からホブゴブリンが攻撃を仕掛けた。
6体の集団でオークを餌として誘い出したように見える。
俺が弓でホブゴブリンを狙っていると、生徒会長が盾を射線上に出して邪魔してきた。
「ん?」
「ホブゴブリンは武器を持ってないので、あの2人には痛い目を見てもらいましょう」
「騎士的には問題ないんですか?」
殿の1人に聞いてみるも、首を傾げながら曖昧に頷いた。
騎士としては頷けないのだろうが、心理的に頷いてしまったんだと思う。
「逃げてくるまで待つか?」
「逃げてきたら私たちで倒しましょう。1人1体を目標にします」
そう言われたから、攻撃に参加していないホブゴブリンを1体を影分身2体で拘束する。
そのまま弓で狙いをつけ、矢を放った。
小さな弓ながらも、そこまで遠くないため威力を保ったまま矢は頭を貫く。
想像以上に上手くいって思わずニヤリとしてしまい、それを生徒会長に見られてしまった。
「坂堂さん。少しくらい待ってください」
呆れが言葉以上に、顔から滲み出ている。
返答するのも違う気がして、ホブゴブリンからどうにか逃げ出そうと、もがく2人に顔を向けた。
互いに協力すれば抜けだすことは容易だろうが、ホブゴブリンと武器の奪い合いに夢中でそれどころではなさそうだ。
それからしばらく待つ時間が続き、桐島の両手剣が奪われたことで生徒会長が動いた。
「逃げられなかったようなので、動きます。坂堂さんは1体拘束してください」
「おう」
俺の返事を聞くことも無く、3人は走って攻撃に向かう。
細川さんは置いてきぼりだ。
俺は出したままの影分身に1体拘束させる。
3人は好きに攻撃を仕掛けるのかと思いきや、生徒会長が気を引いて倉田が攻撃していく。
膠着状態を作り出し、水上の攻撃で1体倒し人数差をつけて叩き潰していた。
その動きを倒れたままの2人へ見せるようにしているところが、生徒会長の怖い所だと思う。
人数差で負けた2人に、人数差をつくって勝っているところを見せている。
言葉では伝えずとも、やり方を教えているんだろう。子供に狩りの仕方を教える肉食獣だな。
生徒会長は地面に落ちた両手剣を拾い、桐島に渡しながら俺に声を掛けてきた。
「坂堂さん、解放してください。2人は協力して1体を倒してください」
今、見たんだからできるだろと言わんばかりに、すぐ課題を与える。
生徒会長になると、人の指導も上手くなるのか?
2人は声を掛け合い、1人1度の攻撃で倒した。
「分かりましたよね。高橋さん桐島さん。協力すれば戦闘回数が増えます」
「協力すればいいんだろ」
代表して高橋が返答をしてくれたのだが、戦闘をたくさんしたいという考えで動いていたらしい。
生徒会長もそれによく気付くものだ。
強い魔物と戦闘したいんだと思っていた。
「いい時間でしょうか。皆さん、食事をするために帰りましょうか」
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