第9話
初めて魔物を倒してから2週間がたった。
今では全員が騎士との模擬戦で勝利できるようになっており、さらなる成長を求めて前回より強い魔物を倒しに行くことが決まっている。
しかし、その前に共通の装備から自分のスタイルに合うものを装備するという話だ。
実戦の2日前、訓練を休みにして朝から鍛冶屋や商人が商品を馬車満載にしてやってきている。
「商人や鍛冶屋に騎士が数人付いていますから、騎士に要望を伝えて選んでもらってください」
食堂で言われた言葉に従う前に刀を使う人達の後を追い、似たような刀を見繕った。今までのものでもよかったのだが、振りやすかったために新しくする。
自分がお金を払う訳じゃないから、気は楽だ。
その後、少し大きかった弓を小さめの弓にして、短剣は一部の騎士が詳しかったため、選んでもらった。
問題は鎧だ。
前回の実戦で引率をしてくれた騎士が進めてきた鎧は、金属鎧で全く俺のスタイルに合わないモノだった。
他にも人が少ない商人の所に行き、探しているのだが求めているものがない。
「騎士さん、軽い鎧はどこにあります?」
仕方なく手の空いている騎士に聞くと、すぐに探して案内してくれた。
案内された場所では後衛だと分かるような人たちが多くいて、布の防具を探しているようだ。
「あの、動きやすくて軽い防具を探しているんですけど、おすすめはどれですか?」
「坂堂さんですよね。弓も使われると記憶しています」
「はい」
「それなら、こちらはどうでしょう?」
騎士の1人が見せてきたのは、金属鎧の下に着る鎧下の要所に革が縫い付けられたものだった。
それとセットなのか腕甲と手袋、額当ての付いた帽子のような頭防具、革を縫い付けたズボン、金属で補強を入れたブーツを出してくる。
試着してみると所々大きかったが、前回の鎧よりも断然軽く動きやすい。
それに決めると、手直しが必要らしく、それのサイズ合わせを終え、暇だから訓練に移った。
その日の夜、部屋に複数人のメイドが装備を持ってやってきて、実際に装備して問題がないか確認。
翌日には新装備を着て、訓練で使えるか確認した。
前回の実戦では無属性の身体強化魔法を使用したが、今回は武器に魔力を流す武器強化魔法を覚えてきた。
身体強化魔法は運動能力、耐久力をあげる魔力操作方法で、武器強化魔法は武器の耐久力を上げる魔力操作方法だ。
何とか新装備と魔法を実戦に間に合わせることができた。
実戦日、前回と変わらない待ち合わせ場所で、前回のメンバーと馬車に乗った。
他の人の装備を見ると、重そうな順でほぼ金属の倉田、前回と似たような生徒会長、ローブに革ベストの水上だった。
今回向かう場所は前回よりも遠く、泊まりと聞いている。
しばらくして馬車が停まり、下りると大きな建物が目の前にあった。
「デカいな」
「坂堂さん、話聞いてなかったんですね。ここ駅らしいですよ」
「駅?」
石造りで馬車が10台以上並んでも足りないくらい大きい。
確かに駅と言われれば納得できる大きさではある。
建物に入るみんなを追っていくと広い場所出る。奥の方には2つの細い道に分かれており、道の隣に人が1人は入れるくらいの小屋があった。見た目は改札だ。
更に奥には機関車と客車、線路が見える。ここは確かに駅だった。
改札の小屋の中には誰もおらず、国に認められた無賃乗車をする。
駅には3つホームがある。日本人的感覚でいつでも運航していると思ったのだが、真ん中のホームに車列があるだけだった。
その車列は過剰な装飾をしており、実用性の無さから勇者一行専用車両だと思われる。
どういう原理で動くのか分からないが、機関部のような車両が前方と後方に1両ずつ、客車が4両ある。
その客車の内、後ろから3番目の客車にみんなが乗り込み始めた。
客車の座席は4人ずつ、馬車と同じような向かい合わせの座席が左右にある。
後ろの方から詰めて座っているらしく、それに倣って知らない人の隣に座ろうとしたら生徒会長に腕を引かれ、馬車のメンバーで座った。
「何してるんですか?」
「詰めて座るんじゃないのか?」
「グループごとです」
武器を外して発車するのを待っていると、騎士団長を含む騎士達が入って来た。
逆向きに座っているからチラッと見ただけだが。
「今回は前回よりも魔物が強いため、グループの人数を増やします」
そう言って数人の名前が呼ばれ、加入するグループの名前が呼ばれる。
神本グループと呼ばれた生徒会長グループには、前回のメンバーに加えて3人増えた。
グループの増員に伴い騎士も増えたため、別の車両に移動する。
内装の変わらない別車両に移動して、新しく加入した人たちに自己紹介をしてもらう。
「高橋航大(たかはしこうだい)だ。片手剣二刀流で近接がメイン、火と風の戦闘技と魔法を使える」
革鎧に金属をつけて防御力を底上げしており、左腰に片手剣を2本差している高橋。自信ありそうな顔つきが嶋野を彷彿とさせる。
「桐島大智(きりしまだいち)両手剣を使う、近接がメインで、土と水の戦闘技と魔法が使える」
ほぼ金属の鎧、身長と同じくらいの武器を背負っている桐島。
好戦的な目つきが何とも嫌な感じを覚える男だ。
「細川美奈(ほそかわみな)回復をメインにしてます。近接戦闘が苦手で遠距離もそこまで上手くないです」
ローブの上から革鎧を装備し、金属で補強した盾とメイスの細川。
前2人とは違い普通の人だ。よかった。
このような自己紹介を受けて、こちらも紹介したのだが好意的に受け取っていないようなのが2人いる。
2剣の高橋と両手剣の桐島は好戦的で、良く言うとやる気に満ち溢れている。
追加できた騎士は堅物そうな2名で、高橋と桐島の監視役だと思う。
「今回は前衛が私、高橋さんと桐島さん。中衛に倉田さん。後衛は水上さんと細川さん、護衛の坂堂さん」
護衛ね。
騎士がしてくれると思うんだけど、当てにしちゃダメってことなんだろう。
「それで向かう所では、どういう魔物が出てくるんですか?」
前回同様に騎士に話を聞くと、前回出てきたスライム、マッスルボア、ゴブリンに加えてアイアンボア、ホブゴブリンやオーク、グラウンドウルフが群れで出てくるという。
ホブゴブリンはゴブリンよりも大きく強く知性があるらしい。
オークはホブゴブリンよりもさらに大きく、鈍重だが力が強いそうだ。
グラウンドウルフに関しては、土属性の魔法を使う狼の群れとのことだった。
今回はゴブリンであっても前回の森よりは強い個体が多く、全体的に強くなっているという話で、気を引き締めようと生徒会長は言う。
それに納得してなさそうなのが、高橋と桐島だ。
俺も話の流れで頷いていたのに、2人だけが頷いていなかった。
なんと可哀そうに、生徒会長に目を付けられたな。
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