第4話


 3週間後、召喚された全員が騎士団と同等かそれ以上戦闘できるようになった。

 模擬戦は経験の差で負けることはあるが。

 魔法に関しても全員が無属性の魔力を扱う基礎魔法、それ以外の属性魔法を1つ以上できるようになっている。


 それぞれが練習によって個性が出ており、近接戦闘と魔法の複合技である戦闘技。その中でも、勇者しか使えないと言われているものを嶋野は扱えるようになっているそうだ。

 そのおかげか約束の剣が抜けなくとも、誰もが嶋野を勇者だと思っている。


 渡辺は近接戦闘よりも魔法が得意だったようだ。戦闘技も使えるようだが本人は使えるだけだと言っていた。


 今日は初めて王城の外に出て魔物と戦う。

 今までは召喚された場所の近く、王城だけで生活していた。

 外に出ることは昨日言われており、どういう世界なのかようやく見ることができる。

 それが楽しみでもあるのだが、分けられているグループが問題だった。


 食堂で朝食をとりながら騎士団長の話を聞く。

 グループごとに分かれて向かう事、装備を着けてから来ること、その後の集合場所などだ。

 昨日の説明と同じだから問題はない。食事を終え、部屋で装備を着けて集合場所に向かう。


 宿舎の傍が集合場所でグループのリーダーが待っていた。

 他のグループもいるようで、みんな同じ鎧を着けていて面白い。

 革と金属の鎧で少し重さを感じるから、動くのが苦手な人は苦しいだろう。


「坂堂さんが最後です。全員揃いました」


 最初が俺への嫌味で、後のは騎士への報告だろう。

 引率の騎士は近くの馬車に案内して、馬車の御者席へ。

 馬車はグループごとに複数あり、見た目は四角い箱型で大きい。


 俺のいるグループは人数が少ないため、馬車は1台だけだ。

 今回のグループ分けは、指導をしていた騎士と生徒会長が関わっていると聞いた。

 俺のいるグループは4人。

 生徒会長と知らない男女2人、俺。加えて引率の騎士2人だ。

 馬車に乗り込んで、出発を待っていると生徒会長の自己紹介が始まった。


「一応、自己紹介しておきます。神本鈴(かんもとれい)です。片手半剣と円盾を使う近接戦闘が得意です。火属性の戦闘技が使えます」


 生徒会長の名前を初めて知った。自己紹介が終わると同時に馬車は動き出す。

 窓はあるのだが外側から塞がれているため、何も見えない。

 城下町を見たかったのだが仕方ない。

 車輪が回る音と馬の蹄の音、遠くから人の喧騒が聞こえてくる。


「私は水上杏奈(みなかみあんな)です。土と風を使って遠距離攻撃をします。近接戦闘は下手で逃げるように言われました」


 4人乗り、2人ずつ対面座りの馬車の中、正面の生徒会長とその隣の女子が自己紹介をした。

 生徒会長の強さは知っているが、女子の方は全く知らない。


「俺は倉田真太郎(くらたしんたろう)、て言っても知らないのは隣の奴だけだろうが。槍で近接戦闘するのがメインで、土、水、風の戦闘技を使う。遠距離は戦闘で使えないらしい」


 俺以外は同じクラスだから、俺に対しての説明くらいは分かる。

 わざわざ言わなくてもいいことだろうに。


「俺は坂堂晃。近接戦闘を刀と短剣、遠距離は弓と魔法を使う」


 一応、どれでも行ける器用貧乏ポジションである。

 訓練が楽しくて続けた結果だ。


「あれだろ、影分身できるんだろ?」

「影分身というよりは、ゴーレムだな」


 訓練を楽しみすぎて魔法を探求していると、できるようになっていた。

 土と邪の属性を使った魔法だ。

 土を人型にして邪属性の魔力で覆って動かす。

 影が実体を持っているように見えることから、他の人には『影分身』と呼ばれている。


「今日、坂堂さんには後衛と後衛の守りをしてもらいます」

「分かった」

「影分身を当てにして人数減ってるようですから」

「そこまで言わなくても、分かってる」


 生徒会長の責める言葉に両手を挙げて、それ以上の言葉を止めてもらう。

 一応、当てにされるくらいの戦力が『影分身』にはあるということだろう。


「騎士にどういう魔物がいるのか聞きましょう」


 俺の返答に頷いて流し、生徒会長は御者席に声を掛けた。

 1人の騎士が答えてくれた内容によると、今日行く場所にはゼリー状の塊であるスライム、異常に発達した筋肉があるマッスルボア、しわだらけで緑色の皮膚に醜悪な顔をしているゴブリンがいるそうだ。


 それ以外にも色々と話してくれたが、現在向かっている場所は王族やその縁者が訓練する用の森という事だった。

 弱い魔物が多く、騎士団に入ったばかりの頃は管理を兼ねて宿泊での演習があったらしい。

 しばらく騎士の話を聞いていると目的地が近くなってきたのか、先の方から人の声が聞こえてくる。


 少しして馬車が停まり、降りると森のすぐ近くだった。

 簡素な塀が森の前に続いており、見張りなのか複数人の騎士が立っている。

 停められている馬車の数は現状5台で、遅れているグループがあるようだった。


「私たちが先導をします。魔物を1人が3体ほど倒せるまで休憩をしつつ動きます」

「分かりました。全員装備の確認してください」


 生徒会長の返事を聞いて、それぞれが装備の確認をしていく。

 俺も手拭いをベルトに、渡されていた小さなバッグには回復薬と水筒が入っているのを確認した。


「準備できました」

「はい。それでは皆さん頑張りましょう」

「はい」

「では行きます」


 騎士2人は、先行する騎士と殿の騎士に分かれた。

 俺たちは前衛と後衛に分かれて2列で森に入っていった。

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