第3話


 午後、疲れた体に温かい食事の後、談話室のような場所で魔法やら魔力に関する話を聞いている。

 実践することもあるらしいのだが、体を動かすわけでは無いから室内ということだ。

 体が埋まりそうなソファに座り、学校の授業のように全員が同じ方向を見ていた。


「魔力を持たない人はいません」


 先生には騎士団長、その隣のローブを着た女性がいて説明してくれる。

 ローブを着た女性は魔法士団長らしいと渡辺に聞いた。


「個人ごとに変換可能な属性が違っていたりします」

「近接戦闘を行う騎士は身体強化魔法を使います」

「そういうことですので、これからのことも考えて全員が使えるようになってもらいます」


 軽い説明が終わり、魔力の操作をしてみようということになった。

 説明を聞きながら、進めていくようだ。


「体の中を流れる血を意識すると、魔力というものを感じ取れると思います」


 言われて意識してみると、すぐに違和感に気付いた。

 他の人たちも同様に気付いたようだ。

 明らかに異質で、今まで感じたことのない力を感じる。

 生きていて体内から力を感じることなどなかったから、気付いたのだろう。


「自覚してようやく動かすことができるのですが、皆さん自覚できたようですね」

「次はこの魔石に魔力を流して。このように光らせてもらいます」


 騎士団長が手に持っている乳白色の球がボヤっと光る。

 談話室の周囲にいた侍女たちが、座っている皆に騎士団長が持っていた球を渡していく。

 渡された魔石は球型でビー玉みたいだ。

 自覚した魔力を動かすことだが、想像以上に簡単だった。

 近くに座っていた渡辺も指でつまんでいる魔石を光らせている。


「皆さん、上手くできているようですね」


 魔法士団長が全員を確認すると、騎士団長が騎士に指示を出して大きめの魔石を6つ持ってきた。

 球型ですべての魔石の色が違う。


「魔力が流せるようになったみたいですので、皆さんの適性を確認したいと思います」

「こちらから、火、水、風、土、聖、邪と並んでいます。勇者には確実に聖属性の適性がありますから、全員確認してください。聖と邪に関しては上位属性と言われていて適性を示せば、聖は光、邪は闇にも適性を持っていることになります」

「他にも火、水、風、土の上位属性もありますが、それは追々できるようにしましょう。さあ、試したい属性から並んでください」


 騎士団長の言葉を聞いて、どうにか逃れる術を探す。

 まずは魔力を目に集中させるのだが、他人の魔力の流れが見えるというのはなかった。


「あきら、どれから並ぶ?」

「土から並ぶか、人少ないし」


 6つ並んだ魔石のどれに並ぶか聞いてきた渡辺。俺は出来るだけ当たり障りのない属性を選んだ。

 渡辺が魔力を流すところを見て、魔力そのものを見ることができるのか試してみる。

 結果、何もわからなかった。

 笑いながら場所を譲った渡辺に土の適性はなかったようだ。


「お名前と先ほど石に流したように、魔力を流してみてください」

「坂堂晃です」


 茶色の手のひらサイズの石に手を置いて、魔力を流した。

 石はボヤっと光る。俺は土に適性があるようだ。

 後ろに誰も並んでいないことを確認して、騎士に確認を取る。


「これって、土が適性なんですよね?」

「はい」

「昔の勇者はどの属性に適性があったんですか?」

「勇者様は基本全属性らしいですよ。そうでない勇者様もいたようですが、聖属性は持っていたみたいですね」


 笑えない。

 すべてを確かめる必要があるはずで、そのために名前を聞いているのだろう。

 全属性じゃない勇者は何があったんだろうな。


「へー。こういう魔石を使ってるのって、他に適性を知ることができないからなんですか? あと魔力って見ることができたりしますか?」

「適性を知るのに魔石を使う以外には魔法を使ってもらうくらいです。魔力は感じることができるくらいで、見ることはできません」

「そうなんですね。ありがとうございました」


 話を終えると後ろに1人並んでいた為、渡辺を追って別の魔石に並ぶ。

 今度は邪の魔石らしい。

 勇者らしくない属性だと思うのだが、全属性持っていたと聞いているから考え方の問題だろう。

 でも、ちょうどいい。


「邪って適性あると何か複雑だな?」

「なんで?」

「勇者の仲間らしくないというか」

「勇者によっては、全てに適性があったらしいぞ」

「何人かいたのか。なら問題ないか」


 番が回ってきて、渡辺は魔力を流しているようなのだが感じることは出来ない。

 渡辺には邪の適性がなかった。


「お名前と先ほど石に流したように、魔力を流してみてください」

「坂堂晃です」


 魔力を操作できる範囲で動かして、魔石を覆ってみた。

 魔石に反応はなく、騎士も首を傾げている。


「魔力を流しているみたいですけど、光ってないですね」

「上手く流せてないみたいです。もう1回試します」


 どうやら魔力を流していることは理解できるようだが、魔石に流していないのは分かっていないらしい。

 次は普通に流してみると、問題なく紫に近い色をした魔石が光る。

 上手く騙せたみたいだな。


「上手く流せていなかっただけみたいですね」

「そうみたいですね」


 それ以降、他の魔石にも流している風にして適性が3つあるように見せた。

 どうやら渡辺は火、水、風の適性を持っており、嶋野は邪と闇以外の属性に適性を見せて、最有力の勇者候補だと誰からも思われているようだ。

 俺もお前が勇者だと思っている。


「嶋野様が聖属性に適性を示されました。邪と闇属性以外の全ての属性に適性を示されています。聖属性に適性があるのはほぼ勇者様だけですので、明日以降の訓練も励んでいただきたいと思います」


 騎士団長のよく分からない表明により、ほぼ勇者だと言われた嶋野は満更でもなさそうだ。

 俺としては、最高の状況だ。

 勇者になったと分かった時は冷や汗ものだったが、この世界に住む人から勇者は嶋野だとほぼ明言されたようなものだから。


 翌日以降、特に勉強はなく、訓練漬け日々が続くことになった。

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