第9話
次の日、セダムは飛び起きるとカナとマリアが来るより先にウィルフの執務室に走った。
「ウィル様!!昨夜の提案、お受けします!」
扉を勢いよく開けると、眼鏡をかけたウィルフが驚いた顔でセダムを見つめた。
しかし、いたずらっ子のような笑みを浮かべ
「そう来なくては!」
とセダムを迎え入れた。
何事かと執事とメイドが慌てて執務室へ集まったが、2人の楽しそうな笑顔にしばらく誰も声をかけられなかった。
しばらくして、寝間着のままウィルフの元へ来てしまったことに気づいたセダムは急いで部屋に戻りカナとマリアに着替えさせられた。
なぜセダムにピッタリの服があるのかは内緒だそうだ。
朝食のため食堂へ向かうと、既に席に着いたウィルフ機嫌よく迎えてくれた。
「改めて、私はウィルフ・アバンティーンだ。これからよろしくな。」
セダムはアバンティーンという名を聞いて少し驚いた。
アバンティーン伯爵は、首都でもかなり有名な人物だった。
変わり者の騎士家系として。
女よりも銅像を愛し、剣よりも文化を愛し、魔法よりも自然を愛する。
騎士家系なのにウィルフが剣を持っている姿を見た者は数少ない。
そんな謳い文句もあるくらいだった。
しかし、アバンティーン伯爵は常に外国へ行っているので、まず本人の姿を見たことがない者が多く、容姿については様々な噂があった。
例えば、見目麗しい貴公子や、醜い中年男や、恐ろしい魔女とまで言われていた。
しかし実際は、外国の文化が大好きで、無口だと少し怖く見えるけど、喋り出すと笑顔が増え、ギャップが多い、ある意味心臓に悪いイケメンだ。
「リジアです、こちらこそよろしくお願いします」
セダムは、正体を言えば家に戻されるかもしれないと思い隠すことにした。
「あの、ウィル様1つお約束して頂きたいことがあります。」
「なんだ?」
「…もし、今後ウィル様が結婚なさったら、私はその瞬間からアバンティーンの戸籍から消して頂けませんか?」
「理由は?」
「勿論、後継者争いや無駄な争いを避けるためです。」
「なるほど、わかった。今のところ結婚は考えてないからその心配はない。」
「それともうひとつ。」
「なんだ?」
「私がこの家から出たいと思った時、私を止めずに見送って欲しいのです。」
セダムはずっと居るつもりはなかった。だからその時黙ってそれを許してくれる条件が欲しかった。
「…わかった、ならこちらもひとつ条件をつけよう。もし私が何らかの理由でこの家をすぐに君に継がせたいと思ったら、断らないこと。いいか?」
「分かりました。」
2人はこの会話を魔法で記録し、誓約書を作った。
その紙はウィルフの魔法により綺麗に折りたたまれウィルフの指にはめてある指輪の光に当てられ消えた。
「さて、食事にしようか。」
「はい!」
「あと、これからはパパと呼ぶように!」
「えっとそれは…そういえば、ウィル様はいくつなんですか?」
「ん?言っていなかったか?私は魔法で老化を送らせているから、今年で86歳だぞ。」
セダムは固まった。
「はちじゅう…ろく?」
見た目では20代後半のように見えるだけかなりの衝撃だった。
「歳はジジィだけど見た目だけは若く見られたいからな!あと商売の時は若い男の方が何かと有利だしな。」
「なるほど…」
セダムはしばらく見た目と年齢のギャップでの衝撃が抜けきれず、上の空で食事を済ませた。
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