第31話 出発


「「「「お世話になりました」」」」


 皆がお世話になった執事やメイドに挨拶をすると、揃った丁寧なお辞儀で返された。そして最長老のブルーダが口を開く。


「またいつでも帰ってこい」


「どうかのう?次回帰ってくるのは遅くても一年後じゃな」


 その言葉に返すドモン。二人はその後も気さくに言葉を数度掛け合い、硬い握手を交わす。


「これからもセツナ師匠に教わった水属性魔力の訓練を続けて、今よりもっとこいつを扱える様にしてみせるさ」


 そして義眼を指さしながら、ブルーダがセツナへと言うと、


「頑張ってください。より高みを目指せば以前より良い作品を作れるでしょう」


「ああ、精進しますぞ」


 師となったセツナとも数度言葉を交わして握手を交わすブルーダ。


「こちらも自動運搬車の改良が済んだら報告するわい。なぁ、ヒイロ?」


「うん、もう案は固まってるから。後は王国に戻ってドモン義父とうさんとイジるだけだよ。ブルーダさんも楽しみにしていてください」


「親子一緒に発明や物作りが出来るとは羨ましいぞ。俺も嫁さんでも探すかなぁ」


「「「おお~~~~」」」


 ドモンとヒイロの関係を羨ましく思うブルーダ。今までなんだかんだと独り身だったが、伴侶を探すという発言に家臣達から驚きの声が上がる。


「ふん、勝手にせい。レインほどのいい女はそうはいないがな」


 自慢げに言うドモン。すると、


「もう、ドモンたら♪」


 照れながらも何故か背中の急所に一撃を入れてしまうレイン。


「ゴホッゴホッゴホッ」


「ドモン…… 大丈夫か?」


「な、なれとるわい」


「「「ははは……」」」


 心配するブルーダを他所に苦笑いをするヒイロ達三人。まだ一人照れているレインは気づいていない。そして夫であるドモンは我慢の人だった。


「おっほん、クロスロード、国境まで道中しっかりと護衛するんだぞ。必要ないかもしれんがもし暇ならガロード殿に鍛えてもらえ」


 ブルーダがわざとらしく咳払いをし、部下へと念を押すと、


「はっ、お任せを。ガロード殿よろしくお願いします」


 小隊から一歩前に出て返事をし、ガロードを見て頭を下げる近衛騎士のクロスロード。


「俺でよければ相手をするさ。来る道中、暇でしょうがなかったからな。楽しみだ」


 その言葉に笑顔で返事を返すガロード。確かに道中は暇を持て余していたので、良い遊び相手が見つかりとても嬉しそうだ。


「お手柔らかにお願いします…… 」


 その笑顔がとても恐く感じたクロスロードは、手加減を切に願った。


「皆、名残惜しいがそろそろ行くぞい」


(((コクリ)))


 ドモンが声を上げると皆頷き、仲間達は馬車へと乗り込み、クロスロード達は馬へと跨り、ドワーフ国を出発した。



 ドワーフ国を出発した初日の夜、嬉しそうに食事の準備をするヒイロがいた。魔法袋から調理台を出し、その上にはうっすらと青く光る銀色のまな板と、手には、とても良く切れそうな片刃のキッチンナイフを持っていた。


「ヒイロ、よく切れそうだから気をつけて」


「うん、ありがとうレイン義母かあさん」


 心配するレインへ感謝の言葉を返すヒイロ。


「流す魔力で切れ味は変わるからな。基本余程硬い材料じゃなければ魔力を流さなくても普通の包丁より十分切れる。問題なかろう。プッファ~~~」


 一足早く、ジョッキでエールを煽るドモン。ヒイロの腕前も知っており、製作者の一人としても安心している。


「このキッチンナイフは、凄く綺麗で使うのが勿体ないや」


 その刃の文様や持ち手の装飾に見惚れながヒイロが言うと、


「道具など使って初めて価値が出るもんだ。もし万が一壊れても直ぐにわしが直してやる」


「うん、ありがとうドモン義父とうさん」


「ヒイロ、それより今日は何をつくるんです?」


 食事が待ち切れないセツナがヒイロに問うと、


「う~ん、師匠、まだメニューは悩んでて…… 」


「それならこれを調理出来ますか?え~と、確か何匹か薬の材料として……」


 ヒイロの言葉に嬉しそうに自分の魔法袋をあさり始めるセツナ。


「「「うん?」」」


 護衛でついてきた騎士達まで興味深くセツナの様子をみていると、


「これです、これこれ。よいしょっと」


「「「スナッピングビッグタートルだと!」」」


 それはどデカいすっぽんだった。


「ええ、これの生き血が薬の材料になるので以前狩ったんですが、身も食べれるとは聞いたんですが捌けなくて…… 何でも美味とか。今ならそのミスリルのキッチンナイフで甲羅ごとサクサク切れるかと」


 期待を込めた視線をヒイロに向けるセツナ。


「セツナ、それって本当に美味しいの?亀でしょ?」


 嫌そうな顔でセツナ問うレイン。


「レイン姐、確か高級食材だったはずだ。俺は食ったことはないが貴族のパーティーで度々出たと聞いてるぞ」


 まさかのガロードから高級食材という答えが帰ってきた。


「ふ~ん、御貴族様の考えることはわからないわね」


「しかし美味と聞いていたので試しに調理してくれませんか?」


 ヒイロはこっそりと鑑定する。そして仲間内だけ呼び円陣を組んで小声で鑑定で得た知識説明し始めた。


「えっと……美味しいらしいです。それに健康にも美容にも良いみたいだし、甲羅も乾燥させ適切に処理すれば薬の素材になるみたいです…… 」


「さぁ、ヒイロやるわよ。セツナもガロードも手伝いなさい」


 すると、レインが突然やる気に満ちて調理を手伝うといい、セツナとガロードにも声を掛ける。


「「はい」」


 勿論、レインに言われれば従うしかない二人だった。


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