第30話 一報


「それじゃ、早速始めるかドモン」


「おう、兄者」


 満面の笑みでブルーダが問うと、ドモンも昔の呼び方で答えた。

 ドモンが作業台に魔法袋から天然魔銀ミスリル鋳塊インゴッド取り出し、ブルーダは早速義眼で炉の温度を見ながら炎に魔力を注ぐと、工房の温度が一気に高くなるのがわかる。


「かなり熱くなるぞ。皆、工房から出てくれ」


 見物している皆に声を掛けるブルーダ。


「火花も出るし危ないからのう、街でも散歩してくればよかろう」


 続いてドモンからも注意が出て、外へ出るのを促す言葉が出た。


「なら、皆で買い物にでもいきましょう」


「残念だなぁ、見ていたかったけど街も気になるからレイン義母かあさん達と行ってくるね。ドモン義父とうさん後で僕にも鍛冶を基礎から教えてね」


「おう、落ち着いたら一緒に義手や義足の改良をするぞ。今はこの国を楽しんでこい」


「良い息子だな」


「自慢の息子じゃ」


 ヒイロの言葉に嬉しそうに返すドモン。種族は違えど鍛冶技術を学びたいと話すヒイロを見てと、ブルーダが褒めるとドモンはドヤ顔で答えた。


「ガロードは、レインとヒイロをお願いします。私は一度教会に行きますので」


 一度状況に進展具合を確認しに行く為、ガロードに二人を任せ教会に行くセツナ。恐らく彼の読みでは、もうそろそろこの騒動は終わると踏んでいた。


「わかりました師匠。任せてください。ただ、護衛って必要ですか?」


 また、余計な一言を言ってしまうガロード。確かにレインは強い。勿論ガロードも成長し試合では勝率は五分五分だと思っている。それは妥当だがしかし、いざ、何でも有りの殺し合いでは九分九厘レインが勝つのがわかっている。それほどまでにレインの殺しのスキルは高いのだ。


「ヒイロのです。レインは必要ないのは言うまでもいでしょ?」


 ガロードの言葉に便乗して、セツナもまた余計な一言を言った。言ってしまった。


「二人共、なにか言ったか?」


「「………… 」」


 熱気に満ちた工房が一瞬氷点下まで下がったような錯覚をみるガロードとセツナ


「こりんのう。だからお主らはモテんのだ。特にガロードは面も厳ついしのう」


「なんで俺だけ!」


 ドモンはこれでも女性の扱いには評判が高い。馬車から降りるレインを自然とエスコート出来る位には。

 なのでレインという伴侶がいる訳だが、二人はとんと噂がない。特にガロードは顔も厳つく子供には泣かれるし、女性からも怖がられる始末だ。本人も気にしていることを指摘され思わず叫ぶガロード。



「そりゃ、セツナはエルフなだけに顔だけは良いからのう」


「ひどいですねドモン。顔だけって」


「でも、気遣いや優しさは皆無よね」


「………… 」


 ここでレインの言葉の刃がセツナを抉る。饒舌なセツナも押し黙った。


「ねぇ、レイン義母かあさん、早く行こうよ」


((ナイスだ、ヒイロ!))


 空気を読んで、話題を変えたヒイロに心の中で褒める二人。


「そうね、ガロードも荷物をよろしく。もう私やヒイロの魔法袋は食材でいっぱいなのよね」


「うっす、よろこんで」


 そして三人は街へ。セツナは教会へと向かった。



「失礼します」


 王国の教会とは少し違い、歴代の最長老が石像として飾られているドワーフ王国の教会。扉を開け一言挨拶をして中へと入っていくセツナ。奥へと進むと同じ祭壇へとたどり着く。そこには女性のエルフが神官服を纏い祈りを捧げていた。祈りが終わるのを待ち彼女が立ち上がると声を掛ける。


「おひさひぶりですね、グレイス」


「あら、セツナ。いらっしゃい、丁度今朝これが届いたわよ」


 挨拶を交わすと、グレイスは一通の便箋を袖から取り出しセツナへと差し出した。高級な紙で豪華な金の模様が施されていてる。そして蝋封には教会の紋章がついていた。


「ありがとうございます」


「また、凄い人間が現れたみたいね」


「ええ、でも凄くいい子ですよ」


「そうなんだ、なら以前のような問題は起きない?」


「そこはなんとも…… 本人が望んでなくても巻き込まれれば起こるでしょう。そうならないために私も兄も動いてます」


「えっ?ティエリア様が!お元気ですか?」


「ええ、元気ですよ」


 おわかりに頂けるだろうか?グレイスはティエリア惚れている。それはそれは遠い昔から……


「また、是非お会いしたいと伝えといてね」


「はいはい、奥の部屋を使わせて頂いても?」


 いつものやり取りを面倒そうに流すセツナ。受け取った便箋の中身を見るため部屋を借りようとすると、


「どうぞ、私もその手紙の内容は教えて貰えるのかしら?」


「まぁ、いいでしょう。そのかわり」


「そのかわり?」


「今後の最長老他、ドワーフ国の首脳陣への監視の強化と報告数を増やしてください」


「はぁ、言うんじゃなかった…… 」


「好奇心は猫族をも殺すといいますよ。フフフ」


「はぁ~~~、しかたないわね。その代わり私の手紙をティエリア様に届けてくれない?」


「あなたもこりませんね」


「いいでしょ!私は絶対にティエリア様と結ばれる運命なのよ」


「はいはい、そうですね。別に手紙位なら構いませんよ。近日中に王国に戻る予定ですし」


(本当に諦めの悪い、いや、しつこい?粘着?もしかしてこれがヒイロの言っていたヤンデレという者では?)



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