第21話 謁見

 

 カタカタと進んでいた馬車が止まりドアが開かれる。


「御殿に到着いたしました。ご案内いたします」


 その外では先程のエルフの騎士が礼をしながら案内を申し出た。


「よろしく頼む」


 ドモンが先に降りて、次に降りるレインに手を差し出す。


「あら、こんなの久しぶりね」


「ふん…… 」


「ふふふ♪」


 もちろん必要ないと言えばないのだが、コレも妻への礼儀と気付かうドモン。こんな畏まった機会が無ければすることもない。

 脚が不自由な時は、レインが先に降りてドモンを気遣っていたのが、今では昔のように大怪我前のような行動がとれる。それが懐かしくも嬉しく思ったレインだった。


「仲いいなぁ~」


「そうだなぁ~」


 夫婦のやり取りを馬車の中から見ていて、思わず呟くヒイロとガロード。


「ほら、二人共、さっさと降りますよ」


「「はい」」


 並列思考を止め、二人に馬車から出るように促すセツナ。(さてさて、話がすんなりと纏まってくれればいいのですが…… )



 エルフ騎士の案内の下、御殿と呼ばれる要塞の奥へと進む一向。


「通路は思ってたより狭いなぁ。やっぱり侵入された時のため?」


「おお、良く気づいたな。そうじゃぞ、流石わしの義息子むすこじゃ。がっはっはっ」


 ヒイロの質問にドモンが嬉しそうに答える。


「これ、子離れできるのかしら…… もう今から心配だわ」


「そこは大丈夫じゃねぇか?」


 不安に思うレインと、楽観的な答えをするガロード。


「ヒイロも十六です。そろそろ独り立ちしてもおかしくないですし、彼女とか連れてくるかもですよ」


「やだ~どうしましょう、嫌なしゅうとだけには絶対になりたくないわ!でも義娘《むすめ》が出来るのは嬉しいわね♪」


 しかし、セツナの言葉にまだ見ぬヒイロの彼女の妄想が膨らみ、嬉しくなるレイン。


(この人達、これから大長老と謁見なのに緊張感ないなぁ…… )


 案内しながら、背中越しに聞こえてくる客人達の会話に不安になるエルフ騎士であった。



「到着いたしました。ヒイロ様とそのお仲間をお連れいたしました」


「入れ」


 通路を進み終わり、奥にある大きな扉の前に到着すると、中に向かって大声で話すエルフ騎士。

 扉の中から、低く野太い返事が聞こえ扉が開かれた。

 左右には柱の代わりに黒光りの鉄柱が並び、真ん中には上質な赤い絨毯が奥へと続いている。その上を奨められるまま進むヒイロ達。

 そして、玉座らしき豪華な椅子に座る、ひときわ大柄なドワーフの前にたどり着くと、ドモンが膝を折り頭を下げたので、皆もそれに習って真似をした。


「面を上げよ。今回は無理を言って呼び出してすまなかったな」


「いえ、勿体ないお言葉」


 すると大柄なドワーフが労いと謝罪を口にした。それに代表してドモンが受け答えをする。


「まさかお主が帰ってくるとは。しかも妻と義息子を連れだってなど、思ってもみなかったぞドモン」


「お久しぶりでございます。大長老」


「ガハハハ、そう畏まらんでくれ。兄弟弟子であり、技を競った仲ではないか。昔のように話してくれ」


「ふむ、ならばわしの家族達も同様に頼むブルーダ」


「勿論かまわんぞ。皆も良いな」


「「「御意」」」


((おお〜〜〜!))


 そのやり取りに内心驚くヒイロとガロード。レインとセツナは知っていたのだろう。表情を変えず二人のやり取りを見ていた。


「早速だが、邪魔が入らぬうちに話を進めたい。単刀直入に言おう、わしに神官殿と同じ義眼作って欲しい」


「だそうだが、ヒイロどうするね?」


 ドモンが尋ねると、ヒイロは難しい顔をする。


「もし、どうしても無理なら仕方ないが…… 」


 ヒイロの表情に残念そうに言うブルーダ。すると、


「大長老様、えっと…… その…… 」


「落ち着いて深呼吸してみなさい」


 緊張でうまく話せないヒイロにレインが寄り添い言葉をかける。言われた通りに、数度大きく深呼吸を繰り返した後、再びヒイロは話し始めた。


「義眼は作れます。でも先生と同じ物を作っても大長老様には扱えないと思います。でも、これから色々と問診と診断をしてから大長老様にあった義眼作りをしたいです」


「ふむ、わしでは扱えぬと?」


「はい、先生は天才です。全属性魔法を習得しています。だから僕はそれにあわせた義眼を作りました。でも、全属性を習得している人なんて、滅多にいないのは僕でも解ります」


「それほどか!すまなかったな…… 」


「いえ、なので大長老様用の義眼を作ります。作っても扱えなかったら意味がないです」


「全くもってその通りだな」


「それに…… 」


 ヒイロが続きを話そうとした時、閉まっていた扉が勢いよく開かれ、ドンと大きな音を立てた。皆が注目すると、そこにはドワーフと猿族の獣人の二人が立っていた。絨毯の上を進みこちら向かってきたが、途中から魔力障壁にぶつかり、それ以上進めないでいた。


 魔法障壁を叩きながら、なにか文句を言っているらしいが、障壁はびくともせず文句もこちらに届かない。


「失礼、今はヒイロの話しを邪魔をされたくないので」


 誰にも気づかれず、強固な障壁を瞬時に張ったのは私だと、主張するように立ち上がり、にこやかにブルーダに言うセツナ。


「そ、そうか…… 我が国の者が失礼した」


「いえいえ、どこにでも身勝手で失礼な者達はいるものですから」


 謝罪するブルーダに、にこやかな表情のまま返すセツナ。ヒイロはその手際の良さに驚いて思わずセツナに尋ねる。


「先生凄いです。いつ発動したんですか?」


「まだまだですね。ヒイロは、もっと魔力感知を鍛えないと駄目ですよ」


「はい、頑張ります……」


 そのやり取りを聞いたドワーフ国の側近達は、嫌な汗をかき背筋に悪寒が走る。この神官は、いつでも仲間達と、この場を抜け出すことも大長老の命を奪うことも造作もない実力者なのだと。

 しかしヒイロ以外の仲間達は心の中でため息をついていた。そしてヒイロの前に庇うように立っていたガロードが口を開く。


「師匠、やりすぎじゃないですかね」


「あれが刺客だったら、そうも言ってられないですよガロード」


「たしかに…… 」


 いい雰囲気で話し合っていたのに、緊張に包まれた謁見の間。しばらく誰も口を開かなかった。

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