第20話 契約



 翌朝、宿の前には豪華絢爛な馬車と護衛の兵士一個小隊がヒイロ一行の迎えに来ていた。何事かと宿の周りの人々も仕事の手を止め注目している。


「はぁ~、やれやれですね…… 」


 それを窓から見てセツナがため息を吐きながら残念そうに言う。


「もう、しかたなかろう…… 」


 ドモンも呆れていた。


 そう、一行は目立たぬように旅をしてきたのだ。

 ヒイロが狙われているため、教会が話をつける間、狙われぬよう身を隠すために。

 それがこうも盛大に目立つ迎えが来てしまうと、もう ここにいますよ と言ってるようなものである。相手側の配慮の方向が違っている。それを嘆き、呆れる二人。しかし残りの三人といえば、


「わぁ、凄い馬車ね♪」


「家の実家でもここまでの馬車はないぜ!」


「凄い、四頭立てなんて!しかもあれって馬じゃなくて魔獣じゃ?」


 そんなことはお構い無しに馬車に見とれて喜んでいた。


「おい、レイン。お前まで」


「もう、開き直るしかないじゃない。それにここまでされれば逆に襲われないでしょう。昨日まであった気配は無くなってるわよ」


「そうですね。護衛もかなり強い方がいますし、このほうがドワーフ国では安全でしょう」


「うむ…… 」


 昨夜、兵士達とは別に怪しい気配を感じ取っていたレイン。しかしこの騒動でその気配は消えている。流石にこの注目の中で国賓待遇の者達に手出し出来ないと判断したのだろう。

 レインの話に納得するセツナとドモン。


「とりあえず三人とも、先ずはこの書類にサインしてください。出発はそれからで」


 そう言って魔法袋から巻物スクロールを出すセツナ。それは契約魔法が施された養子縁組の書類だった。


「教会でやれんのか?」


「そうよ、ちゃんとした感じでしたいわ」


 ドモンとレインがセツナに文句いうが、


「別に場所なんてどこでもいいから、早くサインしたいです」


 ヒイロが嬉しそうにいうと、


「そ、そうだな…… 」


「そ、そうね。早くサインしたいわね」


 内心、形式にこだわったことを恥じりながらヒイロに賛同する二人。


「お二人が言いたいこともわかりますが、謁見前にしといたほうが何かとスムーズに運ぶと思いますよ」


「お、おう、お主が言うのならそうのじゃろう」


「ごめんなさいねセツナ。わかったわ、それじゃ」


「ヒイロは二人の名前の下に書いて同じように血判を押してください」


「わ、わかりました先生。緊張するなぁ~」


 三人がサイン書き、血判を押し終わる。


「それでは始めます。ガロードは証人として立ち合いをお願いしますね」


「わかりました師匠」


「それでは三人共、並んで跪いてください」


 宿の小さな一室で厳かに始まる。巻物スクロールを持ってセツナが唱え始めた。


「創造の女神よ。下の者達の想いに応え、この契約を受理することを願わん。その大いなる慈悲をもって願いを叶えたまえ」


 唱え終わると巻物スクロールが光り輝き宙へと浮く。そして黄金色の炎に包まれ燃えて消えてしまった。


「ここに契約は受理された。女神の慈悲に恥じない生き方を」


「「有難う御座います」」


「あ、ありがとうございます」


 勝手がわかないヒイロが一拍遅れて感謝の意を返す。


「三人共、終わりましたよ。お疲れ様でした」


「セツナ、感謝する」

「ありがとう、セツナ」

「三人共おめでとう」


「先生凄いです!神官様みたいでした」


「いやいや、ヒイロ、私はこれでも一応神官ですよ」


「あっ、そうだった、ごめんなさい」


 ヒイロとセツナのやり取りで厳かな雰囲気が一気に笑いに包まれた。



「すまん、持たせたのう」


「いえ、急な呼び出しにも拘らず御了承頂きありがとう御座います」


 皆で外に出て馬車に乗り込む。ドモンが代表として挨拶すると、褐色のエルフの騎士が丁寧な答えが返ってきた。皆が乗車し終わると「それでは出発」の掛け声と共に馬車が動き始めた。


「ドワーフ国なのにエルフの騎士がいるなんて!」


「獣人も人間もいるぞい。もっぱら鍛冶師はドワーフだが、その他の職業には他種族も多い。実力があれば要職にもつけるぞ」


「へぇ~、そうなんだ。ドワーフ国は良い国だねドモン義父とうさん」


「私もこの国でドモンと出会ったのよ」


「そうなんだ。後で色々と聞かせてよレイン義母かあさん」


「そうね、宿に帰ってきたら沢山聞かせてあげるわ」


「やめい、小っ恥ずかしい」


 馬車の中で話が弾む。三人の会話を邪魔しないよう黙ってほのぼのと見ているセツナとガロード。


 しかしその表情とは裏腹にセツナは並列思考で、一人今後の展開を考えていた。


(これで大長老の反対派閥が色々と言ってきても問題ないでしょう。しかしドワーフ国は連合国の北の果て。ここまで話が広まるのは早すぎる。情報網が凄いのか、他に要因があるのか…… これは西側にもヒイロのことが知られてると前提で動いたほうがいいですね。今後はもう少し、ヒイロが自衛出来るよう色々と考えなければいけませんか…… それに正式にドワーフ国に訪問した形になるとすると、連合の各国からも、お呼びがかかるでしょう。祖国でたるエルフ国は後回しに出来るとして、先ずは獣人国ですか…… それに西側との緩和剤となってる商人連合国の動きが一番気になりますね。最悪あそこは訪問拒否すればいいですが、なにか他に彼らの利益になるものでもあれば…… )

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