第19話 呼び出し


 ドワーフ国の名物料理を堪能し、宴が終わり皆で気分良く帰っていると、遠くからドワーフの兵士達が自分達の宿前にいるのが見えた。


「陣形を」


 セツナが呟くと、ドモンを先頭にガロードと続いて縦に並び、セツナはヒイロの肩を抱いて引き寄せ、レインは後方の警戒に入る。


 たった一言で瞬時に陣形を組む流れに、ヒイロは不安よりもワクワク感が勝ってしまっていた。ここ最近、旅の間に自分が拾われる前の、皆の昔話を聞けたのが要因だ。


 重戦士ヘビーウォーリアーとして名を馳せたドモン

 暗殺者アサシンとして恐れられたレイン

 神官でありながら大錬金術師アルケミストマスターの異名をもつセツナ

 ヒイロと同じ人間種でありながら三人に鍛えられ人外アウトサイダーと呼ばれる強さを身に着けたガロード


 その昔話は、もはや英雄譚に近い話だったのだ。


 小鬼ゴブリン集落を殲滅させ、村を襲う大鬼オーガの大群を退け、盗賊団に攫われた貴族令嬢を救出し、災害級の魔物毒蛇王バジリスクを討伐と、多くの話を聞かせてもらった。

 そして三人が身体の一部を失ってしまった話も……


 その強さや経験談を聞かされ、ヒイロには四人がそこらへんの冒険者や兵士達に負けることが想像出来なくなっていた。

 ヒイロも男である。自分に戦闘や魔法の才能が無かったとしても、やはり憧れてしまうし、そんな話は大好物だ。それが両親であり先生や兄貴分なのだから余計だ。


 ドモンが一人先行し宿の外で待つ一人の兵士へと話しかける。


「なにかあったのか?」


「いや、この宿に重要人物が他国から来ていると聞いて、保護しにきたんだよ」


「ほう、重要人物とな?」


「ああ、俺達も詳しく聞いてはないんだが、何でも画期的な新しい魔道具を開発した人間の少年らしい」


「それは興味深い。で、誰が保護を命令したんじゃ?」


「そりゃ勿論、大長老さ」


 ドモンが兵士から状況を聞き出していると、


「おい、何を喋っている!」


「すいません隊長」


 宿の中から一人の兵士が出てきて注意してくる。


「うん、もしやドモン殿か?」


「そうじゃが?」


 答えるも鋭い目つきで隊長と呼ばれた男を睨むドモン。


「すまないが、仲間と御殿まで来てくれないだろうか?」


「嫌じゃといったら?」


「……………… 」

「……………… 」


 しばらく無言の睨み合いが続き、互いに緊張感か高まっていく。


「ふ~、ならしょうがない。諦める」


「ほう?とりあえず理由を聞こうか」


 先に視線をそらし下を向き、落ち込みながら隊長が先に口を開いた。その言動で敵意がないことがわかり、ドモンもならばと歩み寄ることにした。



 宿屋に併設されている食堂の一区画を借りて、隊長とドモンがテーブルに付き話し始める。他の兵士達は外で待っており、ドモンの後ろには四人がたっての話に同席した。


「なぜ大長老がヒイロを呼んでおるんじゃ?」


 もうヒイロの存在は、連合各国に広まっているのだろう。今更なぜ知ってる?と問うのは愚問だった。

 連合国といえど、常に一枚岩ではない。自国の利益が最優先である。そのため各国に諜報員を派遣し情報収集は怠ることはない。ドワーフ国まで知っているということは、既に連合の首脳陣は知っていると考えたドモン。なので担当直入にその理由を問う。


「それは大長老の鍛冶師生命が終わりそうだからだ」


「なるほどな…… 」


「えっ、大長老さん死んじゃうんですか?」


 思わず二人の会話に心配そうに入ってくるヒイロ。


「いや、死なんよ」


「ドモン殿、この子が?」


「そうじゃ、ヒイロじゃ」


「えっ、でも生命の終わりって…… 」


「ふむ、命ではない。鍛冶が出来なくなりそうってことじゃないよ」


「どういうことですか?」


「それは私が説明しよう」


 そこから隊長は、わかりやすく丁寧に理由を話し始めた。

 鍛冶をする時に大切なのは温度で、それを見極める目をもつ者が優秀な鍛冶師と言える。

 そして国で優秀な鍛冶師が長老となり、長老の中でも最も優秀な鍛冶師が大長老となって国のトップに立つドワーフ国。

 普段の量産品や一般品は目を保護するため保護眼鏡ゴーグルをかけ作業をするが、特殊な素材の場合、その温度変化をより細かく見極める為に、保護眼鏡ゴーグルを外し、直接肉眼で温度変化を見て作業するそうだ。

 そのため目には熱によるダメージが蓄積するらしく、深刻な場合失明するらしい。

 もちろん回復薬で治療も出来るが、回復薬も安くはなく、治ったそばから鍛冶をする為、全快することは無いという。

 そして長年、鎚を振るっていた大長老も右目の視力が無く、残った左目の視力も弱まり、鍛冶生命が終わりそうだと。

 いくら側仕えが回復薬を飲ませ、鍛冶を控えるように言っても聞かない大長老。

 そこでヒイロがセツナの為に作った義眼の魔道具の話を知った、知ってしまった大長老は、まだ鍛冶が続けられるよう、潰れた右目の義眼を作って欲しいとなった理由だそうだ。


「なんで?鍛冶を辞めればいいだけじゃない?」


「そうだぜ、国のトップならやることは他にいくらでもあるだろう?」


 一緒に話を聞いていたレインとガロードが最もなことを言うが、セツナが推測を話し始める。


「恐らく、鍛冶が出来なくなれば引退なのでしょう。そして次代が、育ってないか、あるいは器が足りなくて引き継げないのでは?」


「恥ずかしながら、全く持ってその通りです…… 」


 セツナの問いに諦め顔で正直に話す隊長。


「なるほどのう、ヒイロどうする?」


 祖国の長が困っているのなら助けてやりたいが、それはヒイロが決めることと、判断を仰ぐドモン。すると、


「細かい理由はわからないけど、ドモン義父さんとうさんの国の人が困ってるなら助けるよ」


 そう、照れくさそうに答えたヒイロ。宴再びドモンの涙腺は崩壊し、三人はそれの背中を暖かい眼差しで見ていた。

 

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