第18話 家族


 ドモンとレインは二人部屋に。三人はそれぞれ一人部屋に案内された。部屋に入ってドアを締めた途端、ドモンはレインに強い口調で話し始める。


「レイン!ヒイロになにか言ったじゃろ?」


「ええ、言ったわよ」


 ドモンの怒気に、いつもの雰囲気で普通に返すレイン。夫婦喧嘩の幕が上がった。


「余計な真似をするな!」


「いつまで怖がってるのよ!本当に、ここぞと言う時は臆病なんだから」


「誰が臆病じゃ!」


「だって、私の時だって、待っていても肝心なことは言ってくれなかったじゃない!」


「それは…… 」


 これを出されると何も言えなくなるドモン。


「今回もヒイロから言わせる気?養子にしてくれって。それは違うでしょ?」


「……………… 」


「もう、とっくにヒイロは私達の息子よ。あの日、二人で拾ってから愛情を注いで育ててきたじゃない。あの子、息子って言われると凄く嬉しそうに笑うわ。そりゃ、種族も違うし血も継ってないけど…… もう、ちゃんとしてあげないといけないと思うの。あの子も十六歳だし…… 」


「そうか…… 嬉しそうか…… 」


「本当に、自分より大きい相手には強いくせに、女子供には弱いんだから。別に断られてもいいじゃない?先ずは、ちゃんと私達の思いを伝えることのほうが、ヒイロにとっても大切なことよ」


「……………… わかった…… 」


 しばらく考え覚悟を決めた顔をしたドモン。


「それに、もし養子縁組を断られても頑張って子づくりすればいいじゃない♪」


「!!! うむ…… そ、そうじゃの」


 レインが最後に言った一言で部屋の空気が一気に桃色に変わった。

 勿論、始めから勝者は決まっている夫婦喧嘩であった。



 少しゆっくりした後、ドモンの案内で夜の街へと皆で繰り出した。


「ドワーフ国って夜なのに凄く明るいですね!あれって全部照明の魔道具なんですか?」


 外灯の多さとその明るさに驚きながらも嬉しそうなヒイロ。


「ああ、そうじゃぞ。魔石に光魔法の照明ライトの魔法を付与しておる。この道の下を魔力パイプが走っていて、そこから魔力が供給され光っとるんじゃよ。仮にその魔力パイプからの供給が断たれても、蓄えた魔力で一日は光ってられるぞ」


「ふぇ~~~、凄いですね~~~ 」


 前世のようなインフラ設備に驚き関心するヒイロ。そして、道ですれ違う馬車の中に驚くものがあって声を上げる。


「えっ!あれってどういうこと!動物が引いてないのに馬車の荷台が勝手に進んでる?」


「ああ、あれは魔動車じゃよ。鉱山の中ではトロッコってやつを使っていてのう。それが進化して出来た魔力で動く自走運搬車じゃ。速度も出んし走行時間も短いが、街中で使う分には便利じゃぞ」


 先程から自国の技術に驚くヒイロに、得意げに説明するドモン。二人のやり取りを後ろから見ている三人は微笑ましく見ていた。


「なんで魔法袋を使わないんですか?」


 ドモンの答えに疑問を問いかけるヒイロ。


「ヒイロ…… 魔法袋なんて高価な魔道具は基本庶民は持ってないんですよ」


 するとセツナが答え、ガロードが続く。


「そうだぞ。俺達みたいに一人一つ持ってる奴なんて高ランクの冒険者パーティーメンバーぐらいだ」


「えっ!そうなんですか?」


「ええ、セツナが作れるから私達は価値観が少しおかしくなってるけどね。持ち運び出来る倉庫として、裕福な商人でも一つ所持していれば凄いことなのよ」


「そうなんだ…… レインさん、その、値段っていくらぐらいなんです?」


「それは言わないわ。知りたかったら自分で調べなさい」


「はい…… 」


「ヒイロ、勉強になったのう。だからその魔法袋は大切に扱ってくれ」


「はい、わかりましたドモンさん」


 今まで他国など見たこともなかったヒイロ。完全に田舎からきた観光客のような挙動だ。


「おう、ここじゃ、ここじゃ」


 ドモンが立ち止まり通りに面した店に入っていく。それに続いて入る一同。


「席は空いてるか?」


「いらっしゃいませ~何名様ですか?」


「五名じゃ」


「奥の席へどうぞ~五名様ご案内~」


 席に案内され先ずは飲み物を頼む。すると、


「一番強い火酒をくれ」


 酒が苦手なヒイロ以外、いつもは最初、とりあえずエールが基本だ。しかしドモンだけ珍しく注文が違った。


「おまちどう~お食事のご注文は?」


「決まったら呼ぶわい」


「かしこまりましたぁ~ごゆっくり~」


 飲み物が来て皆に回る。するとドモンは乾杯せずロックグラスに並々と注がれた火酒を一気に煽った。


「ぷっふぁ~~~きくのう~~~」


「ドモン兄、乾杯がまだだろう、どうしたんだ?」


 いつもと違う行動に疑問に思ったガロードが尋ねるも、ドモンは答えない。そして微笑んでいるセツナが、無言でガロードを手で静止する動作をする。

 その仕草に空気を読み黙るガロード。

 レインは右肘をテーブルについて手に顔を当てドモンをニヤニヤしながら見守っていた。

 キョトンとして不思議そうに皆の顔を見回すヒイロ。そして最後にドモンと目が合うと、真剣な顔つきで問われた。


「ヒイロ」


「はい!ドモンさん、なんですか?」


「わしもレインもお前を本当の息子のように思っている。


「嬉しいです。僕もお二人を本当の両親のように思ってます」


「うむ、もしよかったら正式に息子にならないか?」


「正式って?」


「教会に養子縁組の登録をして、ちゃんと私達の息子になってってこと」


「もちろん嫌なら断ってくれて構わんぞ。生みの親ではないし、種族も違う。この騒動が落ち着いたあと、お主が自分の出自を知りたいと思って旅立つのも構わん…… 」


「そんな事考えたことなかったです」


「そうなのか?」

「そうなの?」


「はい、二人に助けてもらって数年は考えましたけど、今はどうでもいいかなって。僕の両親はドモンさんとレインさんだって思ってます」


「「ヒイロ…… 」」


「なので、僕からも言います。僕を息子にしてください」


 ヒイロの言葉に泣き出すドモン。立ち上がりドモンに近寄り抱きしめるレイン。ヒイロも泣きながら二人に近寄ると、抱き寄せられた。

 その光景にもらい泣きするガロード。落ち着いたのを見計らってセツナが口を開いた。


「なら、ヒイロは二人に対して言葉遣いも直さないといけませんね。両親に さん付け なんておかしいでしょうし。それに呼び方も考えなければ♪」


「ぐすっ、そうじゃのう。しかし先ずは宴じゃ!たらふく飲んで食うぞ!」


 鼻をすすりながら、ドモンは店に響くほど大声で嬉しそうに叫んだ。

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