第17話 ドワーフ国


「それではまた」


「ああ、セルゲイには私から伝えておく。皆、本当にありがとう」


「また直ぐに会えるじゃろ」


「次は私も料理の腕を振るうわね」


「次回は剣を交えましょう」


「モツの浄化はしっかりお願いします」


 教会に戻ると待機していた馬車に飛び乗る三人。ロックとそれぞれ別れの挨拶を簡単に済ませるとと

直ぐに出発した。御者はガロードが努め、後方の見張りはレインがしている。残った三人はというと、


「ヒイロ、肘の関節機構は手首の応用で問題ないんだな」


「はい、ドモンさん。今考えてるのは強度です。魔樹トレントだけだと不安で…… 」


「なら一度全て魔樹トレントで作ってから関節部分を魔鉄で補強するのはどうです?」


「いや、問題は中の細かい部品の強度じゃろ?」


「そうですね、勿論外での負荷や摩擦が多い場所は先生の言う通り補強しますけど、ドモンさんの言う通り中の部品です。なるべく長く使えるもので、しかも魔力消費が低く、外観は上から服を着ればわからないぐらい自然な物を作りたいですね」


「なら付与魔法はどうじゃ?」


「強度強化と軽量化と状態維持の三つですか?」


「付与魔法は状態維持のみで、残り二つは物理的に解決しておきたいです。じゃないと価値や価格が上がりすぎると思います」


「「「う~ん」」」


「なら分業にしましょう。僕は全体の外観とバランスを考えながら。ドモンさんには関節機能の見直しをお願いして、先生には魔力使用の効率改善を」


「うむ、任せろ」


「わかりました。そこは得意分野です」


 ヒイロ、ドモン、セツナが色々な問題と案を出しながら、どんな義手義足を作るかを話し合っていた。真剣に話し合いながらもどこか楽しそうな三人。


(ドワーフ国に行っても忙しくなりそうね)


(何を言ってるのかさっぱりわからん…… )


 そんな三人を微笑ましく見るレインと、全くついていけないガロード。適材適所である。



 しばらく登り坂が続く。辺りは徐々に草木が生えない山肌になってきた。そして前方の岩山には大きな亀裂が見える。


「みんな、見えてきたぜ」


 御者のガロードが振り返り荷台に声をかける。


「凄い! ドモンさん、あそこが国境の検問ですか?」


「そうじゃよ、王国とドワーフ国を繋ぐ唯一の出入口じゃ」


「改めて大きいですね。懐かしい景色です」


「ドワーフ国は、スケールがデカいな」


「天然の要塞ね」

(登りきれるかしら…… )


 断崖絶壁な自然の岩山に囲まれ、一箇所だけ細い亀裂があり奥まで続いている道がある。その入口には数人のドワーフ達が兵士の格好で立っている。


「ガロード、交代じゃ」


「ドモン兄、いいのか?」


「まだまだヒイロとセツナと話していたいが、わしが御者のほうが色々とスムーズじゃ。仕方なかろう」


「まぁ、そうだよな」


「レインも隣に来い…… 」


「はーい♪」


「本当に二人は仲いいよな、痛って!」


「ほら、生意気なこと言ってないで下がりなさい」


「レイン姐叩くなよ」


 御者台でドモンが手綱を握り、隣にレインが座る。ガロードは頭を擦りながら荷台へと引っ込んだ。

 そして馬車は進み国境の検問にたどり着く。時間は昼前、他に並ぶ者達はいなく、ヒイロ一行のみだった。


「外から来る同族とは珍しい。目的は?」


「家族と一緒に久しぶりの里帰りじゃ」


「なるほど…… 」


 兵士の一人に問われ答えるドモン。他の兵士達も荷台を見て回り確認する。目があった三人は笑顔で挨拶を返した。するとドモンと話している兵士に合図を出す。


「通ってよし」


「ご苦労さん」


 許可が降り、ドモンは馬車を進め亀裂の細道へと入っていく。馬車がどうにかすれ違えるほど狭いが、こちらに来る馬車はなかった。そしてようやく亀裂を抜けると、


「うわ~~~凄い、凄いですドモンさん!」


「そうじゃろ、そうじゃろ」


 岩山を大きくくり抜ぬき、外壁の中には石造りで出来た町並み。至る所では煙が上がる。そして奥にはとても立派な要塞がそびえ立っていた。まるで産業革命後の工業国とファンタジーが混じり合ったような景色にヒイロは驚きの声を上げる。嬉しそうに答えるドモン。


「少し匂いが気になるわね」


「そうですね。それに緑が全く無いというのも」


「まぁ、そこは昔からの問題じゃよ」


「俺は早く店に行って新しい武器や防具を見てみたいぜ」


「どうかのう?今はそこまでは良い鍛冶師がいるかどうか。時間があれば、わしらで作ってやるわい」


 外壁の門を潜りまっすぐ宿屋へ向かい到着した一行。御者台から降りてドモンを先頭に中には入る。すると、


「おお!久しぶりだな、ドモン」


「このボロ宿はまだ潰れてないみたいじゃの。元気そうで何よりじゃ、クロケット」


「うるせぇよ、一人か?」


「いや、家族と仲間がおる」


「そうか、そうか。まぁ、ゆっくりしていけよ」


 迎えてくれたのがドワーフではなく、毛並みの色が派手な犬獣人の男だった。


((ドワーフじゃないんだ…… ))


 何も知らないヒイロとガロードは、ドワーフの店主だろうと思い込んでいた。


「先ずは仲間のセツナとガロードじゃ」


 二人は軽い会釈で挨拶を終える。


「そして彼女が妻のレインだ」


「お世話になります」


「それと…… 」


「息子のヒイロです」


「よろしくな、この宿屋の店主でクロケットだ」


 ヒイロのその言葉にレイン以外の三人は大きく驚く。


「あれ?ドモンさん……駄目でしたか?」


 恐る恐るドモンに尋ねるヒイロ。


「いや、その…… 駄目じゃないぞ。駄目じゃない」


 涙目になるドモンは、それをヒイロに見られないように力強くヒイロの頭を撫でる。


「強い、強いですよ!ドモンさん」

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