第16話 訪問
「よし、これでいつでも出発出来ますね」
「でも師匠、四人だけで行かせて良かったんですか?」
「皆で訪ねても迷惑でしょう。ロックは別として、三人で出かけるのも良いものです」
「なるほど」
「まだまだ考えが甘いですよガロード。それに二人ならロックが足止めしている間に、何かあってもここまでヒイロを守りながら逃げ切れるでしょうし」
「確かに」
「それより、貴方の実家のほうは大丈夫なんですか?」
「兄貴が家督を無事継いだから問題無いですよ。そのおかげで俺は自由の身ですし」
「そうですか。良かったですね」
「ええ、なので冒険者は続けられそうです。それより朝飯にしませんか?」
「そうですね。早くこのレイン特製ステーキサンドを頂きましょうか」
既に教会の広場で準備が整った馬車に乗り込み、セツナとガロードは朝食のサンドイッチにかぶりつきながら、のんびりとヒイロ達の帰りを待っていた。
◆
三人はロックの道案内で、領主邸近くに並ぶ高級住宅地に来ている。勿論、昨夜ドモンがヒイロに事情を話すと二つ返事で受けたからだ。そして一際大きい家の前にたどり着く。
「ロックだ。ホリーはいるかね?」
扉をノックをして声をかけると、中から一人の女性が出てきた。
「あら…… ロック神官…… なんの御用ですか?セルゲイは仕事で出てますが…… 」
話す声に元気がない。目の下にも隈があり、とても疲れているのが伺える。
「すまない、中に入れてもらえるだろうか?息子のアンドレ君にとって大切な話だ」
ホリーに小声で耳打ちするセルゲイ。
「どうぞ…… 」
渋々といった感じで家に入れるホリー。
「母さん、お客様?」
「ええ、ロック神官とそのお連れ様よ」
息子の声には空元気で返事をするホリーの姿に皆の心が痛む。
「ホリー、アンドレにも聞いて欲しい話なんだがいいだろうか?」
「はぁ…… 」
乗り気ではないホリー。するとレインが左手の
「始めましてホリーさん。レインって言います」
自己紹介をした後、義手の指先を動かし外して見せるレイン。
「えっ、それは!」
「はい、義手です。この子が作ってくれました」
そう言ってヒイロを見るレイン。
「もしかして!」
「そうです。息子さんの義手と義足を作るために来ました」
「ああ……女神様……」
「ホリーさん、今まで本当に頑張りましたね」
膝から崩れ落ちて泣き崩れるホリー。義手をつけ直し、膝をついて抱きしめながらレインは労いの言葉をかけた。
◆
ホリーの気持ちが落ち着くのを待ってから、皆でアンドレの部屋に入る。
ロックは部屋へと入らず、家の扉に見張りとして残っている。しかしその目は潤んでいた。
「アンドレ、お客様と入るわよ」
「どうぞ」
中ではベッドに座り、本を左手で持ちながら器用にページを唇でめくるアンドレがいた。
「アンドレ殿、始めまして、ドモンという。ロック神官の友人じゃ」
にこやかに挨拶するドモン。
「は、はじめまして…… 」
本を置き、少し戸惑いながらアンドレも挨拶を返す。知らないドワーフがいきなり部屋に入ってきて挨拶されて戸惑わないほうがおかしい。
「そう、警戒せんでもよかろう。今日はお主の義手と義足を作るために来たのじゃよ」
「ほ、本当ですか?」
「ああ、本当じゃ。訓練すれば普通の生活、いやそれ以上の動きじゃな。騎士として返り咲くことも不可能ではないぞ」
「そ、そんなことが可能なんですか?」
「まぁ、扱えるかはアンドレ殿の努力しだいじゃがのう。ほれ」
半信半疑のアンドレに、マントを脱いで義足を見せるドモン。その場で膝を上げ足踏みして見せる。
「す、凄い…… 」
「じゃろ?この子が儂らの為に作ってくれたんじゃよ」
「はじめまして、ヒイロっていいます。それじゃ早速欠損箇所の確認とサイズを測らせてもらっていいですか?」
少し時間を取られた為、直ぐに作業に取り掛かるヒイロ。なるべく急いで帰ってこいとセツナにきつく言われていた。
「あ、ああ、よろしく頼みます」
「ヒイロ、わしも手伝うぞ」
「ありがとうドモンさん、お願いします」
その光景を涙を流しながら嬉しそうに見るホリーと、彼女に寄り添っているレイン。
「先ずは確認からですね。なるほど…… 」
「わしらより範囲が広いのう…… 」
アンドレの服を脱がせ確認すると、右腕の欠損は二の腕の中間から。右足の欠損も太腿の中間からだった。しかしヒイロが言った言葉は、皆が予想していた真逆だった。
「良かった。これならそこまで難しく無さそうです」
「本当ですか?」
「はい、付け根から無くなっていたら、はめ込み式にできないので……これなら問題無さそうです」
「なるほどのう」
直ぐにドモンが理解する。
「それじゃ、先ずは左腕を測っていきますね。ドモンさん紐をお願いします」
「お、おう」
「なぜ左腕を?」
不思議に思って思わずヒイロに問いかけるアンドレ。
「左腕を鏡のように左右対称にして右腕の義手を作るんです。もちろん義足も同じように作ります」
「なるほど…… 」
本来であれば鑑定スキルで必要な情報は一発で出るのだが、流石に鑑定持ちは隠すべきと判断したドモンが芝居をするようヒイロ言っていたのだ。それにはレインもセツナも賛成した。そのため紐でサイズを測り印をつけてを繰り返している。
長さ、幅、太さ、厚さ、と細かく測っていくが、最後に鑑定で見て修正する段取りだ。鑑定ではセンチやミリ、グラムやミリグラムと前世知識の単位、重さまでが出てくる。それをヒイロがこっそりメモに取る。一通りの作業が終わり、今後の話を始めた。
「アンドレさん、身体強化は使えますか?」
「ああ、使える。いや、しばらく使ってなかったからわからない」
「なら、今試してもらっても?」
「ああ…… 問題なさそうだ」
そう言われ身体強化をするアンドレ。それをこっそり鑑定してヒイロは伝えた。
「魔力量を増やす訓練と身体強化は、義手義足が完成して持ってくるまで、毎日続けてもらえますか?僕の義手義足は魔道具で、身体強化魔法の応用で動かすことが出来ます。でも身体強化も繊細な魔力制御と、起きている時間維持できる魔力量が必要です」
「な、なるほど」
「おそらく、アンドレさんの魔力量はまだ少ないですし、魔力制御も少し雑な感じなので、訓練してどちらも高めといてください」
「わ、わかった」
「それで、素材はどうしますか?騎士に戻りたいなら頑丈にします。その分魔力の消費量も多くなりますけど…… 」
「俺は父さんのような騎士に憧れたが、向いてないのがよくわかったよ。このまま内政官を目指すつもりだ」
「わかりました。形はなるべく自然な物にして、極力魔力消費が少ない素材で作りますね。出来上りまで頑張って訓練を続けてください」
「ああ、必ず続けるよ。本当にありがとう」
和やかに終わりそうなところで、ドモンが厳しい顔つきでアンドレとホリーに言う。
「それとじゃ、すまんがこのことは教会から発表があるまで、絶対に他言無用でお願いする。もし口外した場合は完成しても、ここに届けられることは無いと思っとってくれ」
「わかりました!肝に銘じます」
「ホリー殿も良いかのう?」
「は、はい!」
「うむ、それではお暇させてもらうぞ。期待して待っておれ」
二人の怯えた返事を聞き、朗らかな笑顔でドモンが挨拶して一同はセルゲイ宅を後にした。
◆ ◆ ◆
以前書いた作品を大幅に直して投稿させていただいてます。
誤字脱字の報告いつもありがとうございます。
評価をして頂けてる読者様に質問です。
少しは暇つぶしになっているでしょうか?
もし、ご意見や感想などあれば教えていただけると助かります。
よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます