第13話 女神教


 この大陸に住む人々は主に二つに分けられる。

 無神論者か信者の違いと、住む土地での違いだ。

 大陸中央を龍山連峰に隔たれ、西にある種族史上の現実主義たる大帝国と、東にある教会の教えを信じ大小ある各国家の集合体である連合国。


 その連合国側の最も東に位置するサンライズ王国の王城の前には大聖堂があり、教会の総本山で教主が住まう場所でもある。


 教会が信仰する宗教とは女神教。又の名を聖女教とも呼ばれる一神教である。


 その昔、この世界を作りし創造の女神により召喚されし若者が、害とされる魔物や魔獣、悪魔や邪神を打倒し大陸に平和をもたらした。

 彼は勇者と呼ばれ、その後も様々な問題を解決、多くの物を発明したと言われている。

 その勇者から伝えられた教えを、時の仲間であった聖女が広めたのが女神教であり、聖女の教えである。

 長い年月が経っても、その教義や教えは廃れることはなかった。

 


 ヒイロ一行が農村にたどり着いた頃、大聖堂の一室でセツナの兄が教主との面会を待っていた。もちろんヒイロの発明の件である。


「ティエリア司教、教主様がお呼びございます」


「ずいぶんと早いですね」


「教主様曰く緊急の案件により速やかに司教様を通すよう言われておりますので」


「そうですか…… 」


 一人の若い聖騎士が来て、教主の下へと案内されるティエリア。書状で伝えておいたのが功を奏したらしい。王城よりは小さくも巨大な大聖堂。中も広く階数も多い。その最上階へ魔道具の昇降機に乗り教主の執務室にたどり着く。


「教主様、ティエリア司教をお連れしました」


「入りなさい。緊急時以外、しばらく誰も部屋には通さないように」


「はっ、かしこまりました」


 涼やかな女性の声で指示が出る。聖騎士は扉の前に見張りに立つが、ティエリアは執務室へと入っていく。


「お久しぶりです教主様」


 両膝をつき頭を下げて手を組み祈りのポーズをとって挨拶するティエリア。


「ええ、久しぶりねティエリア。さぁ、お立ちなさい」


「はい、ありがとうございます」


 教主である女性は、机の上の書類を今だ必死に書きなぐるように作業していた。


「相変わらずお忙しそうですね」


「本当よ!何でこんなに仕事が多いのよ。やってもやっても無くならないわ」


「そんな中、今回の件を持ち込み申し訳ございません」


「ええ、本当にね……ごめんなさい、半分冗談よ。あなたの判断は間違ってないわ」


「恐れ入ります」


「ふう~~~ お茶を入れてくれる?」


「よろしければ新鮮なミックスジュースをお持ちしておりますが?」


「やはり貴方は気が利くわね♪もう次の選挙で大司教になって私の側に使えなさい」


「ははは…… 御冗談を」


「でも、今回の件で大司教になっておいて損はないわよ」


「……………… 」


「これ美味しい♪ティエリア、それじゃ経緯を詳しく話してくれる?」


「はい、先ずは私の弟が…… 」


 魔法袋からジュースを渡すとうれしそうに飲む教主。しかしティエリアの話が進むに連れ、ご機嫌だった表情が徐々に険しく変わっていった。ティエリアの話が終わると、執務室は大きなため息が…… 


「はあ~~~~~ その子おそらくあの方と同じ召喚者か転生者でしょうね」


「それはわかりかねます…… 」


「懐かしいわね。あの方も突然いろんな物を作って周りを驚かせていたわ。そして周りの仲間は巻き込まれて大変だったのよ」


「さようでございますか」


「しかし、また自由に動く義手義足の魔道具かぁ。確かに今じゃ欠損部位を修復するほどの回復魔法の使い手は私を含め三人しかいないし、それが誰かなんてトラブルを回避するために秘匿しているけど、彼のことも秘密にするべきね」


「いえ、彼については公表すべきかと」


「えっ!なんで?」


「一つ目は、もう既に多くの人々に知られている事。二つ目は、この技術は職人に伝えれば再現できる事。三つ目は、今後もなにか作った時に備えて。以上三点の理由から公表はしておくべきかと」


「なるほどね。ならいっそ教会の名のもとに彼を守れるか…… それにどんどんと作れる者を増やせば、彼にむらがる虫も散ると。でも今後は何を作るっていうの? 」


「あくまでも私の想像ですが、義眼まで開発したとなると次は耳や声の補助器具かと…… 」


「えっ!そこまで作っちゃうの? 」


「もしかしたら」


「そっかぁ~ 確かにあり得るわね」


「それとは別に、なにかしらまた世界を変えるほどの発明をした時にも、彼の秘匿は難しくなります。かと言って作るなと言っても無駄かと」


「そうね、駄目って言っても、どうせこっそり作ったりするでしょうから無駄よね」


「なので、はじめから聖人として教会が認めて保護下に置いてしまえば」


「後は王国との話し合いかぁ」


「多少、他国より優遇すれば問題ないかと」


「でも向こうも彼に貴族位を与えて囲おうとするでしょうね」


「そこは既に手を打ってあります」


「えっ、そうなの? 」


「はい、なので問題ありません」


「そっかぁ、なら早急に国王との会談をセッティングしてくれる? 」


「かしこまりました」


「あっ、後、貴方は大司教に決定ね」


「………… 」


「返事は? 」


「しょうがないですね。慎んでお受けいたします聖女様」


「その呼び名は好きじゃない! それとおかわりちょうだい♪ 」


「かしこまりました。教主様」

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